「公平な環境」は授業料を下げることと地域間格差の是正

国際人権規約に定められているように、大学など高等教育の学費の漸進的に無償化していくことを、日本政府は国連に対して約束しています。これは民主党政権時代の決定ですが、現在の政府もその立場を引き継ぐ必要がありますし、安倍政権時代には当時の閣僚の方々もそのように答弁していました。
そのことを忘れているのか無視しているのかはわかりませんが、ここ数週間、国立大学の授業料の値上げに関するニュースが続々と飛び込んできています。
最初は慶應義塾大学学長による発言でした。


私立大学への補助金に比べると国立大学の運営交付金が多いこと、その結果として国立大学の授業料が私立大学よりも安く、それは不公平だから国立大学の授業料を大幅に高くせよという主張でした。国公私立大学間の「不公平」をなくすためには、「私立大学への補助金を増やせ」という要求をするべきなのに、何を言っているのだろう?と思いました。ただこういう主張はたまに出てくるので、その時点では気にしていませんでした。
そうしたら今度は東京大学が、学費引き上げの検討を表明しました。


これに対しては、ちょうど春の学園祭が開催される東京大学で学生たちも反対の声をあげています。


学生自治会も、情報公開と意思決定への学生参画を求める要望書を出したようです。


そうしたらなんと、自民党が国立大学の授業料値上げの提言をまとめたそうです。


「政府は漸進的無償化の約束に縛られるから、国立大学の授業料値上げを進めることはできない。値上げをするとしてもおそらく『個別の大学が勝手に値上げしました』という体裁をとるのではないか?」と個人的には思っていたのですが、見通しが甘かったかもしれません。
国立大学への運営交付金は年々減らされて、現在では地方大学を中心に、高騰する電気代すら払えないという話を聞きます。日本の研究者による研究論文の数も減っていることから、「お金が必要だ」という自覚は自民党も持つようになったのです。そうであれば、運営交付金を元に戻せばよいわけで、授業料の値上げというのは変な話です。
日本の大学の国際競争力を高めるのに必要なことは、教育への公費支出をOECD加盟国の平均まで高くして、各大学への運営交付金や補助金を増やすことでしょう。国公私立での競争が不公平だというなら、私立大学への補助金を多くすることであり、国公立の授業料を高くすることではないでしょう。
また、大学の少ない地域に生まれ育つ若い人たちに、大学・高等教育進学機会を確保することも、公平さという点では重要です。この点に関して言うと、国公立大学は全国各地にある程度分散していて、安めの授業料で学べる大学が地域にあるということは重要なことでもあると思います。
———————–
西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30