85歳の母がサービス付き高齢者住宅（サ高住）に、4月半ばに入居することになりました。2002年から一緒に暮らしていて、2014年には要介護認定を受けるようになり、昨年8月に肺炎で入院してからさらに弱りました。
入院前の母は、ある事柄にひどく執着をしており、毎日毎日その話をしていました。私の一番古い記憶では、5歳の時にはその話を聞いており、仮に月に1回聞いたとしても、すでに500回以上聞いています。コロナ禍初期に、「もう聞いてあげない」と決め、朝は母が起床してから30分以内を目指してダッシュで出勤、夜も（昼寝・夕寝している）母が目覚めてから1時間以内でダッシュでお風呂場に入り、そのまま就寝という生活スタイルが出来上がっていました。
8月に母が肺炎になり、少し落ち着いた時に言ったのが「もう無理だからあきらめる」とのこと。私には大歓迎なセリフですが、同時に母の記憶があやふやになり始めました。認知症の検査を受けても正常ですが、認識世界が不安定になった様子です。
自宅介護にせよ施設入居にせよ、「元気なうちに」準備をし始めるようにと言われます。けれどそれは無理ですよね。現在の80歳以上くらいの方々の多くは、「親は70歳代までになくなるのが普通」で「子ども世代が親の面倒を見るのが当然」でした。うちの母も、昔と今の違いを少しはわかっていても、全体としては全く理解していません。そのため、「元気なうちに準備」なんてするわけがないのです。そして本人にその気がない以上、家族では何もできません（高齢者は意思と歴史を持つ大の大人である点が、子育てと介護の違いだと思います）。
他方で私は、定年まで15年以上ありますし、国内外への出張も多い仕事です。仕事を減らすつもりなど毛頭ありません。私の介護のモットーは「ああ、今日もあの世に行ってくれなかったなあ、残念」と思わないで暮らすことです。そういう気持ちは、湧いてくるときには湧いてくるものです。そういう気持ちが湧いてこない環境を作るしかない。それが上記の「朝は30分で出勤」であったり、意地でも出張に行くことであったりしていました。ちなみに私をこのように、「Noと言える日本人女性」に育てたのは母だと思っていて、何よりも深く感謝をしています。ただだからと言って、母の望みを何でも受容できるわけではないのです。
8月の入院から戻ってきてから、9月、11月、3月に出張がありました。9月の時点でショートステイに出かける元気はなくなっていました。私は3－4日分の食事を用意して出かけましたが、11月はつらかったようで、サ高住に入ると言い出しました。けれども12月になって「やっぱり入らない。ショートステイに行く」と言っていたのですが、3月の出張の直前になって「ショートステイは嫌だ、留守番も嫌だ」と言い始めました。私が出張を強行すると、サ高住に入居する決意をしました。12月に見学に行ったところに電話したところ、まだ空室があるということで、4月に入居することになりました。そうこうするうちに最近は、出張などではない通常の日の昼間独居も若干怪しい感じになってきました。
つくづく思ったのは、「元気なうちに」というのは「元気ではなくなってきたら早めに」というくらいの意味なのかな？ということでした。うちの場合は実際、その対応でなんとかサ高住入居となりそうです。
現在母は「（日野の自宅近くの）～屋さんの＊＊が食べたいけど、施設に入ったらもう食べられない」と言っていますが、実際は逆です。大阪にいる限り日野に帰ることはできませんが、日野の自宅の近くのサ高住に入れば、月に一度は私が車で外出させてあげられますし、～屋さんにも＃＃堂さんにも行けるのです。無事に引っ越して落ち着いたら良いなと思っています。
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西垣順子＜大阪公立大学　高等教育研究開発センター＞
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「（寺じゃないけど）てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案（法律文化社）」「大学評価と青年の発達保障（晃洋書房）」（いずれも共著）など