教育現場に限った話ではありませんが、人が複数関わる職場や組織においては、業務を効果的に回すための公式・非公式のマニュアル的なものが存在します。どの学年のどの教科で、何を教えるかについての大枠を定めている学習指導要領も、その一種と言えるかもしれません。また、教職員などの業務に携わる人の任用や、予算の執行などについては、決められた制度があり、その範囲で運用されます。
他方で、マニュアルにせよ制度にせよ、業務を効果的に行うための手段として存在するものなのに、そのことを忘れて「マニュアル絶対化」とでも呼べるような現象が生じることがあります。さらに、教育現場の実態は現場を少し離れると見えづらいものである上に、教育行財政等の意思決定に携わっている人たちは、学校現場に行ったこともなかったりして、教育実践についての知識が少ない場合が多いのです。そのため、「マニュアル絶対化」が起きて教育現場が危険な状況に陥っていることに気づかないまま、マニュアル絶対化をさらに進めるような意思決定が行われることもあります。
奈良と東京で起きている2つの事象は、一見別々の事柄ですが、根底は同じであるような気がします。
奈良教育大学附属小学校の話は、2月1日の記事でも書きました。その後、このようなwebサイトも作られていて、状況を心配する教育学研究者の声が寄せられています。
「不適切指導」で話題の奈良教育大附属小学校のことをご存知ですか?教育関係者ではない人にこそ読んで欲しい。きっと「えっ、そういうことだったの⁈」と思うのでは。恐ろしいことが起きています。
『マニュアル化する社会の中で:奈良教育大附属小学校「不適切指導」事件~』https://t.co/uqvwOqfm76— 鈴木 大裕 (@daiyusuzuki) March 8, 2024
教員全員を他校に出向させるという方針まで出されました。
“新年度からの3年間ですべての正規教員に出向を命じ、異動させる方針”
驚きの沙汰。事実上の解体。失われる現場の実践知も少なくなさそう
|小学校正規教員3年で全員出向へ 奈良教育大学長の方針に教員が反発|朝日新聞デジタル https://t.co/fhUXiDr0Hd
— knockout (@knockout_) February 19, 2024
あいち県民教育研究所の声明に寄稿している折出健二(愛知教育大学名誉教授)さんの分析では、奈良教育大学と奈良女子大学を所有する法人である奈良国立大学機構という上位組織では、附属小学校という教育現場のことまでは理解できないという趣旨のことが書かれていて、さもありなんと思いました(下記リンクはPDFファイルです)。
あいち県民教育研究所による緊急声明はこちらから読めます。
東京では、スクールカウンセラーの大量雇止めが発生しています。会計年度職員という不安定雇用制度が原因にあり、スクールカウンセラーをそのような雇用形態に置いておくことにそもそもの問題があります。それに加えて、制度を絶対化したような運用の仕方が、学校現場で頼りにされているカウンセラーの方が失職する事態につながっていると言えそうです。カウンセラーを頼りにしている子どもや保護者は、しんどい状態にある場合が多いにも関わらず、カウンセラーを簡単に入れ替えるという判断が行えるというのは、実態をあまりにも知らないと思います。
「当初は「学校側は私に辞めてほしかったのか」と自分を責めた。だが、校長から「評価をAで出した。続けてほしいのになぜこのようなことが起きるのか。困る」と言われ、現場に求められていたと知った。」なじみのスクールカウンセラーが雇い止め 東京新聞 TOKYO Web https://t.co/UrIGJBLQFm
— 公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと) (@hamu_net) March 8, 2024
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