前回の記事の続きで、今国会に提案される見込みの非同意・強制型共同親権について考えたいと思います。
ただその前に、今回の法改定案は両親の合意に基づく共同親権案だとの誤解があるようです。こちらの東京新聞の社説にも、両親の合意という表現が出てきます。
確かに、無条件または「原則」共同親権にするという話ではないようです。しかし、裁判所の命令による非同意・強制型共同親権が含まれているということには注意が必要だと思います。
この問題を考える上では、親の「わが子ともっと親密に関わりたい」とか「元配偶者に子どもと関わってほしくない」といった思いや願いではなく、子どもの権利が大事です。実際、法制審議会の議事録を見ても、非同意・強制型共同親権の導入が子どもにどのような利益をもたらすのかという議論(?)がされています。と(?)をつけたのは、「これは議論になっているのか…?」と、思えるような内容だからです。
前回記事でも紹介していた憲法学者の木村草太さんが、ラジオで解説をしていました。法学者らしく、法制審議会の議事録の読み込みをされています。
木村「親権とは法的な強制を伴うもの」「親子関係と親権は別」「未成年子は自分では生活能力や法的意思決定ができないので日常世話をする身上監護権(physical custody)と教育や医療等重要事項についての決定権=重要事項決定権(legal custody)がある。後者を狭い意味での「親権」といったりする」
— 弁護士 太田啓子 「これからの男の子たちへ」(大月書店) (@katepanda2) February 21, 2024
上記のポストですが、右上の「X」のマークをクリックすると、太田さんによる文字おこしを読むことができます。音声よりも文字で読むほうがお好みの方は、そちらから読んでください。
子どもの権利、または子どもの利益という観点から、重要なところは次の2つです。法制審議会において、非同意・強制型の共同親権に賛成の委員が提示した根拠は、「共同親権を強制することで、子育てに無関心な親が関心を持つことが期待できる」ということと、「(共同親権が子どもの利益になることは)理論的にはありうる」ということです。
木村「(小粥太郎委員の意見について)何を言ってるのかよくわからないが、善解すると、『今は無関心な親に親権与えると関心が高まるのではないか』というようなことを言っているのだろう」
— 弁護士 太田啓子 「これからの男の子たちへ」(大月書店) (@katepanda2) February 21, 2024
木村「(非合意型共同親権について)民法学者の石綿はる美委員。『子の利益から考え、理論的にはあり得る』と言ってるが、具体的にどういう場合なのかは言ってない」 ※令和5年6月6日法制審https://t.co/wQr6C9nxdn pic.twitter.com/x96OIUZH5S
— 弁護士 太田啓子 「これからの男の子たちへ」(大月書店) (@katepanda2) February 21, 2024
前者については、そんなことはないだろうと思います。子どもを捨ててしまう親に、「権利」を持たせることが子どもの利益になるとは思えません。また共同親権でなくとも、養育費を払う義務はありますので、その義務の履行を強く促す公的な取り組みを強化すればよいだけのことです。また後者の「理論的にはありうる」とは、「具体的には思いつかない」と言っているのに等しいでしょう。つまり、共同親権には子どもにとっての利益は見当たらないということです。
逆に、子どもにとっての不利益・権利侵害は十分に考えられます。例えば、子どもが進学先等を決めたりするときに、離婚後の両親それぞれの許可を得なければならなくなります。子どもの意志と親の期待にずれがある場合、両方をそれぞれに説得しないといけない子どもは大変です。こういうことが多く発生する可能性が指摘されています。
「たまたま親権を持っている親と子どもの意見が対立して、もう片方の親が応援してくれる場合はどうなるのか」という疑問もあると思いますが、これは共同親権であるかどうかとは関係がありません。親権を持たない親も子どもと面会交流をすることは可能ですし、子どもの思いを元配偶者に伝えてあげることもできます。
戸籍上の婚姻関係のない事実婚の夫婦では、子どもの共同親権を持てるようにしたいという方々もおられるようです。そういう状況での共同親権はありうるのかと思います。しかし、離婚時に共同親権かどうかで合意ができないカップルに強制的に共同親権を持たせるのは、子どもの利益にはならなさそうに思います。またこの点は、父母の合意があったとしても、離婚時の状況次第では本当の意味での合意ではなかった可能性もあり、慎重な対応が必要ではないかと思われます。
最後に、海外では共同親権が当然だという主張もあり、実際にフランスなどでは離婚後も両親が共同親権を持つのが原則になっています。しかしそれらの国でも近年、配偶者間での暴力を原因とする離婚の場合に、共同親権が子どもの安全と権利を脅かすことが指摘され、問題化されてもいます。さらに言えば、フランスのような国々では、子どもの権利を守るための公的な仕組みがいくつもあるのですが、日本ではそれがありません。
「離婚しても親子」という情緒的な姿勢ではなく、子どもの権利や安全・安心が最も守られる仕組みはどういうものであるのかを、冷静に考える必要があると思います。
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