いろいろあった一月もあっという間に過ぎてしまいました。「一月往ぬる二月逃げる三月去る」と言うそうです。句作が毎日を丁寧に生きる一助となればと願っております
△~〇筆持つ手はあと息かけ久女の忌 瞳
【評】このままでは上五で切れてしまいますので、字余りでも「筆持つ手に」とするか、「はあと」は略し、「筆を持つ手に息かくる久女の忌」としましょう。
〇粉雪の日子とワンコイン支援箱 瞳
【評】上五で切れ、中七でも切れ、調べが少々悪いので、「支援箱へ子とワンコイン細雪」くらいでいかがでしょう。
〇里よりの便り読み終へ薬喰 美春
【評】里から手紙を添えて鹿肉などが送られてきたのかもしれませんね。この「便り」と「薬喰」の関係がわたしの読み通りでよいのかどうか迷うところではありますが。
△~〇笹鳴に足を止めたり田舎道 美春
【評】全体的に淡い印象を受けます。「田舎道」をさらに具体化するか、「足を止めたり」と自分のことを述べるかわりに、足を止めた結果、得られた風景を描写できるとさらによい句になると思います。
◎火葬炉の鉄扉閉ぢたる寒さかな 徒歩
【評】「鉄扉」の質感と「寒さ」が呼応し、「閉ぢたる」の一語もずしりと迫ってきます。
〇人ひとり焼くる時間の日向ぼこ 徒歩
【評】「焼くる」に多少違和感を覚えるのと、「日向ぼこ」でいいのか迷うところです。「人ひとり焼く間冬日に当たりをり」など、もう少し別の表現を探してほしい気もします。
〇~◎春隣水で土俵が描かれをり 翠
【評】なかなかユニークな句ですね。「水撒いて土俵描きたり春隣」とするのも一法でしょうか。一般に、時候の季語は下五に据えたほうが句が安定します。
〇~◎恵方巻笑ひこらえて黙々と 翠
【評】笑いをこらえる感じ、よくわかります。「こらへて」と表記しましょう。
〇~◎初観音大ちょうちんに龍の彫り 織美
【評】どっしりとした佳句と思います。「ちやうちん」と表記します。普通の国語辞典で歴史的仮名遣いを調べることができます。
〇身震いの春は名のみぞ低き空 織美
【評】文学的な表現を用いた冒険句ですね。「身震ひ」と表記しましょう。「空低き春は名のみぞ身震ひす」と上五下五を入れ替える手もありそうです。
〇~◎寒夕焼真珠筏の錆朱色 妙好
【評】伊勢志摩の風景が髣髴としてくる句です。「錆朱色」も魅力的な言葉です。もう少し平仮名を入れたい気もしますが、「寒ゆやけ」では句がゆるんでしまいますね。この形で結構でしょう。
〇熊胆やしかつめ顔の漱石忌 妙好
【評】「しかつめ顔の漱石」ならわかるのですが、しかつめ顔の忌日だとちぐはぐな印象を受けます。とりあえず「熊胆にしかつめ顔や漱石忌」としておきます。
〇初弘法蘊蓄多き刃物売 万亀子
【評】「蘊蓄」とは知識が多いことですので、「蘊蓄多き」は蛇足的な言い方になってしまいそうです。「初弘法長口上の刃物売」としてみました。
◎僧侶らの募金の声や初大師 万亀子
【評】能登半島地震に関する句と読みました。臨場感があります。
〇雪かぶる田は無呼吸や鴉鳴く 永河
【評】「無呼吸や」が一番述べたいことだと察しますが、これを言うと俳句ではなく自由詩の領域になってしまいます。俳句は寡黙な文芸で、真に言いたいことは隠すところに本領があるのではないでしょうか。わたしの俳句観の押し付けになることを怖れますが、たとえば「雪かぶる田に影落とす鴉かな」など、客観写生に徹してほしい気がします。
〇立春や朝日啄む鳩の群 永河
【評】春の到来を感じさせる景です。「立春や日差啄む鳩の群」「立春や鳩の啄む日の光」など、もう少し推敲できそうに思います。
△雪解けの土より芽吹く蕗の薹 千代
【評】「雪解け」「芽吹く」「蕗の薹」と季語が3つもあります。2つまでは許容範囲として、「雪解けの土押し上げて蕗の薹」など、もう一工夫してみてください。
△小雪舞う鶯一羽寒椿 千代
【評】これも「小雪」「鶯」「寒椿」と季語が3つもあります。できるかぎり季語は1つに絞りましょう。「寒椿うぐひすらしき一羽来る」としてみました。あえて鶯をぼかすことにより、寒椿が主季語であることを強調しました。
〇雪の上一輪散れり椿花 欅坂
【評】「雪」と「椿」の季重なりは効果を上げていますので結構です。詩歌では「上」を「え」と読みますので、上五を「雪の上に」としたいところです(平仮名なら「雪のへに」です)。また、「椿花」でなく「椿」でどうでしょう。「雪のへに一輪ちれる椿かな」。「椿かな」とすることにより、椿が主季語であることが明示されます。
△~〇雪見酒家内のあては蜆汁 欅坂
【評】」「あて」は「肴(さかな)」「つまみ」とも言い固形物のイメージが強いのですが、「汁」もあてでよいのでしょうか。ちなみに「蜆汁」は春の季語で、「雪見」とでは季節の違う季重なりです。別句になりますが「塩辛は妻の手作り雪見酒」と考えてみました。
◎カフェモカに小匙遊ばす四温晴 智代
【評】のどかな景が季語とぴったりですね。お洒落な四温晴の句です。
〇~◎文机に匂い零るる黄水仙 智代
【評】雰囲気のある句です。黄水仙を主語にして、「文机に匂ひ零せり黄水仙」とするとさらに引き締まります。「匂い」でなく「匂ひ」。わずか17音の俳句では、こうした細部の推敲が大切です。
△~〇将棋指し負けてやりたや三ヶ日 作好
【評】「負けてやりたや」の気持がうまく汲み取れませんでした。「そう思うなら、負けてあげればいいのに」と考えてしまうので、、、とりあえず「将棋さすことにも倦みて三が日」としておきます。別案を練ってみてください。
△冬の海姿かえたり見附島 作好
【評】能登大地震で半壊した島ですね。姿を変えたことはニュースでみな知っていますので、ただの報告では俳句にする甲斐がありません。その先をどう詠むかが勝負ですね。「かえたり」は「かへたり」と表記しましょう。「冬濤をたれか鎮めよ見附島」など自分の思いを込めるのも一法です。
△~〇三代で銀嶺風を切り滑る 久美
【評】銀嶺が雪山であることは自明なのですが、大きな歳時記をみても季語として登録されていません。また、このままでは切れが弱いので、「三代で滑る雪嶺風を切り」としてみました。
〇カフェラテを買ひ求めたる寒い朝 久美
【評】すなおな句で結構ですが、やはり俳句は切れが命。「求めたる」を終止形にして、「カフェラテを買ひ求めたり寒い朝」としましょう。こうすれば「寒い朝」の前で切れが入り、より俳句らしくなります。
〇~◎どの路地も節分の豆炒る匂ひ 結菜
【評】おおむね結構ですが、このままだと切れがありません。「節分の豆炒る匂ひどの路地も」とするとさらにシャープさが増します。
〇阪神忌済めば父の忌波高し 結菜
【評】「済めば」に若干理屈的なものを感じます。また「波高し」に込められた気持が十分に理解できませんでした。「阪神忌すぎて父の忌濤騒ぐ」と考えてみました。胸のざわめきを波に仮託したわけです。また川でなく海の波であることを示すため、難しい「濤」の字を使ってみました。
次回は2月27日(火)の掲載となります。前日26日(月)午後6時までにご投句いただけると助かります。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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