「カナリア俳壇」95

新年早々たいへんなことになってしまいましたが、皆さんにはお変わりなくお過ごしのことと思います。今年が穏やかで、少しでも明るい年になることを願わずにいられません。

○正月の散歩赤き実多かりき     ゆき

【評】「多かりき」の「き」は過去を示す助動詞ですので、現在只今の句にしたいところです。「正月の散歩や赤き実の多し」でどうでしょう。

○嬰囲み皆の笑顔や初日記     ゆき

【評】季語がこれでいいのかどうか迷うところですが、句形はしっかりしています。

○今朝の春妻のルーティン変わりなく     美春

【評】平穏な年を迎えられたのですね。「変はりなく」と表記しましょう。俳句はわずか17音ですので、細部の詰めをしっかりと!

○左義長やあうんの獅子の傍らで     美春

【評】「傍らで」の「で」のせいで説明調になってしまいます。「傍らにあうんの獅子やどんど焼」など。

◎黒光る大黒柱餅の花     妙好

【評】どっしりとして印象鮮明な佳句です。たいへん結構です。

△どことなく似し顔並ぶ御慶かな     妙好

【評】ご親類のことでしょうか。「どことなく」で三分の一使ってしまうのはもったいない。句も漠然としています。

◎ボルドーの赤を揺らせる霜夜かな     徒歩

【評】まさにワインのうまそうな季節ですね。お洒落な句です。

△~○風花や紀伊の渡海に平氏の名     徒歩

【評】ネットで調べると補陀落渡海のことのようですが、この行事に平氏の名前がついているのでしょうか。このへんのことがうとくて句意がつかめませんでした。

△初春の準々決勝士気上がる     久美

【評】「名古屋高校、サッカー選手権大会初出場。愛知県代表」と前書があります。どうせなら「準々決勝」も前書に含めてしまいましょう。「士気上がる」は自明ですから、省きます。別の句になってしまいますが「初春の雄叫びサッカースタジアム」としておきます。

○湯舟からゲレンデ眺む宿儺の湯     久美

【評】ネットで調べると「宿儺の湯」とはホテル名なのですね。思い出の一句ですね。

○大北風にぶれるハンドル右左     みさを

【評】少々こわい状況の句ですが、大北風の激しさがよく伝わってきます。

○唸り声あげる大北風歩を阻む     みさを

【評】こちらも風の激しさが実感できます。「唸り声あげて大北風歩を阻む」としたほうがより臨場感が出そうです。

◎山茶花の花びら散れり朝日受け     欅坂

【評】まるで朝日が花びらを散らせたよう。不思議な景をうまく詠みました。

○明け方の庭一面に銀杏の葉     欅坂

【評】たぶん前夜まではそれほど散っていなかったのでしょうね。すなおな作りの句でけっこうです。

◎買初の口紅母とお揃ひで     翆

【評】お母さんとお揃いというところがいいですね。新年らしい華やぎのある句です。

◎新色の口紅さして初旅へ     翆

【評】心の浮き立つような初旅の句。すてきです。

◎初孫の成人式に涙腺が     千代

【評】「涙腺が」でとめたところが案外おもしろい。本当に感動されたのでしょうね。

 

○餅搗きのつき手は息子代替り     織美

【評】頼もしくなられた息子さんが想像されます。「餅搗きのつき手息子に代替り」とどちらがいいでしょう。

○餅搗きの杵の重さや弾む音     織美

【評】ご自分でも餅搗きをされたのですね。「餅搗きの杵の重さや振下ろす」などとすると臨場感が出そうです。

○せせらぎやメタセコイアの冬の道     万亀子

【評】わたしが時々吟行に行く京都府立植物園を思い浮かべました。スケールの大きな風景が見えてきます。

△~○園囲むミニ葉ぼたんの百二百     万亀子

【評】「園」は保育園でしょうか。それとも何かの施設でしょうか。そのへんが曖昧です。また、百と二百では開きがありすぎますので、どちらか一方にしたいところ。「保育園囲む葉ぼたん二百ほど」など、もうすこしご推敲ください。

△足伸ばし肩で息する柚子湯かな     永河

【評】「肩で息する」とは普通、走ったあとの形容ですので、ぴんときませんでした。むしろ肩までお湯に浸かっているのでは。肩と柚子がうまく関係付けられるといいですね。また、一句のなかで「足」と「肩」と複数の体の部分を述べるのはよくありません。どちらか一方に焦点を当てたいところです。

○新春の山河うるほす鳶のこゑ     永河

【評】なかなかの意欲作です。この句形ですと、鳶の声が山河をうるおしている、という因果関係ができてしまいますが、そうした因果を断ち切り、山河と鳶の声の取り合せの句にしたい気もします(因果は作者が自ら説明するのでなく、読者に感じ取らせるほうがよいと思います)。「鳶啼くや小雨にけぶる初山河」など、工夫してみてください。

○祝箸亡き娘の名をも記したり     智代

【評】思いの深い句で感じ入りました。「をも」の調べがごつごつしていますので、もうすこしなめらかになるといいですね。一例ですが「逝きし子の名も記しけり祝箸」など。

○リーゼントすきつと決めし火焚鳥     智代

【評】自注によれば、火焚鳥とは雄のジョウビタキのことだそうです。ジョウビタキ(尉鶲)は秋の季語。ウイットに富んだ句です。

○船酔や鮃と鰈おなじ貌     風子

【評】船酔いのつらさがわかりますので、このままでは明るい気持ちで鑑賞することができません。上五を何とかしたいものです。お酒に酔ったことにして「ほろ酔ひや」とするなど、もう一工夫してみてください。

△~○年玉よ祖母遠き児に隣家より     風子

【評】祖母が遠くにいて、お年玉がもらえない子に、お隣の人が代わってお年玉をくれた、ということですね。言葉の詰め込みすぎで、一読では意味が通じません。「隣家よりお札畳みしお年玉」など、もうすこし考えてみてください。

○冬ざれし野を行く列車二両なり     作好

【評】情景はよく見えます。やや散文的ですので、詩らしく、もっと高揚感のある仕立て方にしましょう。「冬ざれの野を行く二両列車かな」など。

○餅搗の臼は花壇に座り居り     作好

【評】目の付け所がユニークです。擬人法の形をとらず、「餅搗の臼を花壇にどかと置く」など人間を主語にして作る手もありそうです。

○賀客ありめでたさ募る卒寿すぎ     ゆみ

【評】「賀客来て」でもいいかもしれませんが、正月らしい句でけっこうです。

△~○松の内墓石に祖父の名探しけり     ゆみ

【評】中七が字余りの中八になっていませんでしょうか。「松の内墓石に祖父の名を探す」。

○蛇行せし川に沿ひたる道凍る     白き花

【評】川は凍っていないのですね。もうすこし雰囲気を出すべく「蛇行せし河に沿ふ道凍りをり」としてみました。

○~◎飛び飛びの冬の光を拾う子達(こら)     白き花

【評】詩情のある作品です。「とびとびの冬の光を拾ふ子ら」でどうでしょう。平仮名を多用すると明るさが出ます。

次回は2月6日(火)に掲載します。前日(5日)の午後6時までにご投句ください。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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