かわらじ先生の国際講座~尖閣諸島と日中関係そして台湾総統選挙

No Picture2023年12月31日付『京都新聞』によれば、中国の習近平国家主席が11月下旬、軍指揮下の海警局に対し、尖閣諸島に関して「1ミリたりとも領土は譲らない。主権を守る闘争を不断に強化しなければならない」と訓示したそうです。これを受けて海警局の公船は、2024年には毎日尖閣諸島沖を航行することとし、場合によっては日本の漁船への立ち入り検査も行う計画を立てていることも判明しました。現に海警局の艦船が日本の漁船の活動を妨害している事例も出ているとのことです。

昨年11月中旬には日中首脳会談が行われ、「戦略的互恵関係」が再確認され、両国関係は改善されるかに見えましたが、事態はかえって緊迫しているようにも思われます。いったい中国側にはいかなる思惑があるのでしょう?

昨年、中国艦船が尖閣諸島沖(日本の領海と接する接続水域)を航行した回数は351日(12月30日時点)で、これは一昨年の336日を上回り、過去最多となりました(前掲『京都新聞』)。要するに、天候の悪い日以外はほぼ毎日出没していることになります。こうした既成事実を積み上げることにより、日本の実効支配をゆるがし、自らの領土主権を確立していこうというのが中国側の戦略なのでしょう。
他方、日本側も海上保安庁の船舶が常時監視していますから、万一中国側が、日本の漁船への立ち入り検査を実行しようとすれば、当然阻止するはずです。ただし海警局の艦船は中国海軍の指揮下に置かれ、武装していますから、海上保安庁では太刀打ちできません。そこで海上自衛隊が出動するなどということになれば武力衝突が起こりかねません。日本側が自制し、そうした事態には至らないと考えますが、中国もその点は織り込み済みなのでしょう。日本側が一方的な譲歩を繰り返すうちに、中国の領有が次第に既成事実化していくという事態が日本にとっては最悪のシナリオですね。

No Picture領土をめぐる軍事紛争だけは絶対に避けなければなりませんが、かといって、中国の圧力に屈するのも納得がゆきません。日本側にとるべき方策はあるのでしょうか?

ひとつ鍵を握るのは台湾情勢だろうと思います。「尖閣諸島(中国名では釣魚群島)は台湾に属する。その台湾は中国の一部である。したがって尖閣諸島は中国領である」というのが中国側のロジックです。
尖閣諸島に関しては、実は台湾も自らの領有権を主張しています。その点では中国と台湾は一致しています。しかし台湾の蔡英文政権は、領土問題をひとまず棚上げし、日台関係を発展させるなかで解決しようとしています。
尖閣諸島を台湾の一部と見なす中国としては、台湾の併合と尖閣諸島の獲得は不可分の戦略上にあるものと推測されます。つまり台湾統一のなかに尖閣諸島も含まれるわけです。そして中国にとって台湾統一は、尖閣問題とは比べものにならぬほど重大で根本的な原則的目標です。ですから台湾統一という大目標と尖閣の問題は連動しているとわたしは見ています。逆にいえば、日台が緊密で強固な関係を保っているあいだは、中国としても強引に尖閣諸島だけを奪取することはあまり意味もないし、難しいだろうと思われるのです。

No Pictureとすると、1月13日に行われる台湾の総統選挙はわれわれにとっても重要ですね。投票日が近づいてきましたが、選挙戦の見通しはどうでしょうか?

与党の民進党からは頼清徳氏(現副総統)、最大野党の国民党からは候友宜氏(現新北市長)、もう1つの野党である台湾民衆党からは柯文哲氏(前台北市長)が立候補しています。最大の争点は対中政策です。頼氏は蔡政権を引継ぎ、中国が主張する「一つの中国」原則を否定し、親米的な現状維持の立場です。候氏は中国との対話再開を唱え、対中融和を前面に押し出しています。柯氏はその中間的な立場をとり、台湾は米中関係の架け橋的役割を果たすべきだと主張しています。各種報道によれば、柯氏が後れをとり、頼氏と候氏の一騎打ちとなる見込みですが、かなりの接戦が予想されています。

No Picture与野党候補者のどちらが勝つかによって、中台関係は大きく変わるのでしょうか?

中国政府はこの選挙を台湾にとって「平和か戦争か、繫栄か衰退か」の選択と位置付けています(中国政府の国務院台湾事務弁公室による2023年11月24日声明)。もし与党側が勝利し、今の路線を継承すれば、中台は戦争に至るだろうとの恫喝的な声明ですが、それだけ台湾の選挙動向を重く見ている証拠ともいえるでしょう。野党が勝てば、中台協調が進み、台湾統一が容易になるとの計算もあるものと思われます。しかし、この選挙結果如何で事態ががらりと変わるものかどうか、わたしは懐疑的です。

No Pictureといいますと?

今の台湾では民主主義が成熟しています。総統次第で政策が一気に転換することはないと思われます。だからこそ選挙戦もこれほど伯仲しているのです。与野党の勢力均衡という点では、日本以上に民主主義が機能しているともいえそうです。台湾の人々は中国との深刻な対立も欲していませんし、中国共産党政権の影響下に入ることも望んでいません。どの候補者が勝つにせよ、反対票を投じた半数の市民の声をむげにすることはできないでしょう。1月13日には議会選挙も同時に行われます。そちらも与野党が伯仲すると予想されています。台湾市民の選択を見守りたいと思います。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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