今年も押し詰まってきました。それほど寒くもなく、過ごしやすい年末なのは助かりますね。わたしは日曜日に京都府立植物園へ吟行に出かけてきました。この時期にもけっこう青々とした植物や花を見ることができました。
〇冬の朝白き腹見せめだか死す 万亀子
【評】大事にしていた目高なのでしょうね。供養の一句として読みました。
△~〇交差点の隅に花束いてふ散る 万亀子
【評】仕立て方として、植物と植物を取り合せるのはあまり得策ではありません(印象を打ち消し合ってしまいます)。また上五の字余りも気になります。「交差点隅の花束雪もよひ」など推敲してみてください。
△~〇折鶴のシャワーを浴びせ冬の婚 翠
【評】「冬の婚」という季語はありませんので、「つぎつぎに折鶴シャワー冬麗」などとして、前書きにたとえば「姪の結婚披露宴」と記してはいかがでしょう。なお、「シャワー」と「浴びせ」は重複しますので、どちらか一方を残してください。
◎新郎の髪はツイスト冬うらら 翠
【評】お洒落な新郎ですね。こちらはきちんとポイントをしぼった佳句です。
◎頬にジャムつけて笑ふ児冬うらら チヅ
【評】幸福な風景です。冬の青空も見えてきました。
〇掘られたる冬眠の蟇動き出す チヅ
【評】けっこうです。「掘り出され冬眠の蟇鼻広ぐ」など下五をもう少し具体化できるかもしれませんね。
〇不揃いの零余子摘み摘み山廻り 作好
【評】「山廻り」より「山歩き」のほうが自然かもしれません。伸び伸びとした素敵な時間を過ごされたのですね。「不揃ひ」と表記しましょう。
△~〇合唱に和む懐メロ冬のディ 作好
【評】「ディ」でなく「デイ」と書いてください。「合唱」と「懐メロ」は一つにしたいところですね。「冬のデイ」という季語はありませんので、「懐メロをデイのみんなと冬日和」くらいでどうでしょう。
△苔には落つ史跡彩る枯葉かな 美春
【評】言葉を詰め込み過ぎのせいか、句意がとりにくくなってしまいました。史跡も曖昧です。「城跡の苔に積もれる枯葉かな」など、もう少し推敲してください。「彩る」という言葉を使わないようになるともう一段腕が上がります。
〇揚げ舟の冬蝶つつむ入り日かな 美春
【評】「つつむ」がどうでしょう。「揚げ舟の冬蝶にさす入日影」としてみました。
〇~◎山水の甘さもふふむ新豆腐 ひろ
【評】俳句は断定の詩ですから、「甘さも」の「も」を消したいところです。「山水の甘さふふめり新豆腐」。
△~〇桐は実に汐入池に夕日射す ひろ
【評】「桐は実に」は時間の経過を示す季語。「夕日」も一日における時間の経過を感じさせる語。時間にかかわる言葉を複数使うのはよくありません。とりあえず「桐の実や汐入池に夕日影」としておきます。
〇弟と鮟鱇鍋や酒を酌む 欅坂
【評】兄弟愛の感じられる句です。下五を「酒を酌み」とすれば完璧です。
△~〇侘助の下に向く花母偲ぶ 欅坂
【評】「侘助」と「花」はワンセットで!「下を向く侘助の花母偲ぶ」。
〇冬萌や鳩の首色艶めきぬ 妙好
【評】「や」という切れ字を使った場合、下五はできるだけ助動詞の終止形を避けましょう。助動詞の終止形は切れを意識させるからです。上五を「や」で切った場合、下五を名詞止めにすると収まりがよくなります。たとえば「冬萌や玉虫いろの鳩の首」など。
△~〇十二月分銅忙し台秤 妙好
【評】「十二月」で切れ、「忙し」で切れますので、三段切れになっています。「忙しき」とすれば連体形となり、三段切れを免れることはできますが、字余りになってしまいますね。ここからが推敲のしどころです。「調薬の分銅秤年つまる」「極月や郵便局の台秤」など、秤に具体性をもたせるのも一法です。
△~〇風吹けば紅葉舞ひ上げ髪飾り 千代
【評】紅葉を髪飾りにたとえたのでしょうね。やや説明調になってしまいますが、「ひとひらの紅葉舞ひきて髪飾る」でどうでしょう。
〇窯垣の銀杏黄葉の散歩道 千代
【評】俳句は切れが命。「窯垣の銀杏黄葉や散歩道」としましょう。
〇~◎福引の当たりの鐘に恥ぢらへり 徒歩
【評】この感じ、よくわかります。ちなみに、このような抒情的な述語で収める作風は、山口誓子がひところ熱心に追求していました。「早乙女の裾を下して羞ぢらへり」「肉白き泳ぎの父を恥ぢらへり」「かの巫女の手焙の手を恋ひわたる」「身を扁(たいら)くし青蜥蜴吾に媚ぶ」「空蝉を妹が手にせり欲しと思ふ」はいずれも誓子の代表句ですが、掲句もこの系列に連なるといえそうですね。
〇数へ日や御霊に「お〜いお茶」供へ 徒歩
【評】伊藤園お~いお茶新俳句大賞に応募したら入賞しそうですね。御霊がやや曖昧なのと、「御霊」とあれば「供へ」は不要では?「数へ日やご先祖様へ『お~いお茶』」くらいでいかがでしょう。
△裸木と同じバンザイでシンクロ 白き花
【評】「同じ」と「シンクロ」が意味的に重複しており、調べも5・8・4と破調で読みづらく感じました。「裸木とシンクロぼくもバンザイで」だと小学生俳句みたいですので、「裸木とシンクロわたしバンザイし」ならもう少し大人っぽくなるでしょうか。
〇自転車のタイヤ落ち葉を踏みしだく 白き花
【評】すなおな句でけっこうです。このような具体描写が俳句の基本ですね。下五を「鳴らし来る」とすれば、聴覚も加わり、さらに具体性が増します。
〇石蕗の花の明るき石畳 ゆき
【評】花が明るいのは自明ですので、石畳が明るくなったというふうに作ってみましょう。「石蕗の花に明るむ石畳」。
〇流星群探すわが地の空清き ゆき
【評】お住まいの場所が清らかなのでしょう。だから空も美しい。「わが地」から誇らしさが伝わってきました。
◎外は雪焼きたてパンの香の溢る 凛子
【評】情景が美しいだけでなく、言葉のハーモニーの美しさも感じられる句です。
◎真つ黒や炉に燻したるつるし柿 凛子
【評】コメントによれば、福井今庄の吊るし柿だそうです。燻製にするのだとか。土地土地の風習などをしっかり書き留めることも俳人の役目ですね。情景がよく見えてきます。
〇おこり炭炎の形見つめる子 ゆみ
【評】下五を「子」で収めると、焦点がそこに行ってしまいます。子供と二人で炭火を見つめている句にしてはいかがでしょう。「おこり炭炎の形子と見つむ」。あるいは見つめたことはカットして、炎そのものを描写するのも良いと思います。「おこり炭透きたる炎また赤く」など。
〇にらめっこピクリともせぬ秋の蜘蛛 ゆみ
【評】なんとなく秋の蜘蛛らしくてけっこうです。「っ」は大きく「つ」と表記します。
◎睦ましく鴨流れゆく長良川 永河
【評】やさしい長良川の風情まで感じられます。こういう静かな句を読むとほっとします。
〇赤き花街に溢るるクリスマス 永河
【評】とりあえずしっかり出来ている句です。欲を言えば、作者らしい視点がほしいように思います。「赤き花溢るる街へクリスマス」などもう少し工夫してみてください。
〇児二人のお三度せわし嫁の風邪 織美
【評】風邪でお嫁さんも大変でしたが、児の世話を引き受けた織美さんもお疲れさまでした。生活の記録としてこのまま残してください。「せはし」と表記します。
〇一服の碗に温む手雪催 織美
【評】「一服碗」ではないでしょうか。「手に温き一服碗や雪もよひ」と平仮名を多用するとゆったりとした印象の句になります。
△~〇日めくりは屋号省きて壁に掛く 久美
【評】「日めくりは」の「は」が強すぎる感じです。壁に掛けるのは当たり前ですので、ちょっと工夫し「日めくりの屋号省きて居間に掛く」くらいでどうでしょう。
△~〇子ら迷ふ予報外れて雪の舞ふ 久美
【評】動詞はせいぜい2つまで、と決めましょう。動詞が3つもあると散文的(説明調)になってしまうからです。「子ら迷ふ予想外れの雪舞ひて」。
〇陶片に霜の花咲く古窯跡 智代
【評】けっこうです。もう少し一句に張りをもたせるなら、「陶片に咲く霜の花古窯跡」とする方法もあります。
〇夫と酔ふジャズに喝采クリスマス 智代
【評】「酔ふ」と「喝采」でやや煩瑣な句になってしまいました。どちらか一つを選びましょう。「夫と来てジャズに喝采クリスマス」「夫と酔ふジャズの夕べやクリスマス」など。
次回の掲載日は1月16日(火)です。前日15日の午後6時までにご投句いただけると幸甚です。それでは皆さん、よいお年をお迎えください。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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