前回の記事で、学校教員になれば奨学金(教育ローン)の返済を免除するという案には、「不十分だが賛成」、「教員不足解消に効果はないだろうという疑問」、「すべての大学教育・高等教育を無償化すべきだから反対」の3種類の意見があると書きました。そして私自身は、すべての意見にそれぞれ納得するところがあります。
後ろから順になりますが、「すべての大学教育・高等教育を無償化するべき」というのはその通りです。ただ、日本が批准している国連人権規約においても、「漸進的無償化」を進めるべきと書いてあります。それなりの規模の財政が動く話でもありますし、そもそも「無償」という言葉にも多様な定義があります。例えば、義務教育は無償と思われていますが、給食費や運動着は無償ではありません。大学教育の無償化も、国民的議論に基づく合意を得ながら進める必要があります。そういう点から考えると、「まずは教員養成を無償に近づける」というのは、ありうる議論ではあります。なお現在でも自治体によっては、看護師や保育士を養成する教育機関に通う場合の費用を、実質的に無償に近づけているようなところはあります。
教員不足解消への効果については、実際のところ私も半信半疑といったところです。前回の記事では岐阜県の例を出し、採用試験受験者が増えた(効果があった)ということに触れました。ただ「岐阜県だけがやっている」から周辺自治体からの受験生を集めたという可能性もあり、全国的にやればどうなるのかは疑問です。また採用試験の受験者が増えること自体は結構なことですが、教員不足の背景には病気による休職者(および中途退職者)の増加や、非正規教員の増加という問題があります。病気で仕事が続けられなくなる原因は、長時間労働などの業務過多にあるわけなので、この部分を解消しないと教員不足の解消もないと思われます。また現状でも、正規採用の教員は必ずしも不足しておらず、「採用したいのに採用できない」のは非正規の教員です。非正規教員の割合が異様に高い現状を、なんとかする必要があるように思います。
では(不十分だが)賛成とも考える理由は何かというと、かつて存在していた返還免除制度がなくなってから、学校教員になる人の層が狭くなったと指摘する向きがあるためです。明確なデータを見たことはないのですが、教員養成に携わっている知人からは時々聞く話です。経済的に厳しい家で育ち、学校時代に先生との素敵な出会いがあり、そして「自分も先生みたいになりたい」と思って教育学部に進学するというケースが、明らかに減りました。実はもともと、教師になろうと思う学生はその親も教師であることが多く、経済的にまずまず恵まれて育っている人が多くはありました。けれども返還免除制度があったことで、そうではないケースも比較的多く、多様な人材が学校現場にいるという状況を実現していたと思われます。しかし教員になる人々が育ってきた背景が均一化すると、学校にいる多様な背景の子どもたちに寄り添うことが難しくなります。かつてのような制度が復活することで、教員をめざす若い人たちの層が多様になるなら、漸進的無償化に向けた一歩として悪くないのではないかと思うのです。
でも正直なところ、今日の動きがどういう結果をもたらすのかは、私自身もよくわからないのではあります。8月26日に大阪観光大学で行われた社会教育全国集会で、鈴木大裕さんの講演があり「教員不足問題は目下、日本の教育の最大の問題」であること、そしてその問題を教師だけでなく日本で暮らす人々みんなの問題として話し合うべきという指摘がありました。「奨学金返済免除」のニュースも、みんなで話し合う糸口になるのかと思いました。
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学校教員への「奨学金(教育ローン)」の返還免除について(2)
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