今回は「世界」8月号そのもののレビューというより8月号購入時に感じたことが主になります。7月17日の気になるtweetでも紹介しましたが、岩波書店の月刊誌「世界」8月号が発売されてすぐ、岩波書店「世界」編集部のtwitterアカウントが凍結されました。8月号の特集が「安倍政治の決算」だった為、言論弾圧ではないかと騒がれました。その頃、複数の自治体のアカウントも凍結され、twitterという名称がXに変更されるといった混乱の中での騒ぎで、掲載内容が直接の要因ではない様ですが、凍結の真相は不明です。ですが、この凍結騒ぎで特集内容が注目され、8月号は完売。「世界」では異例の重版出来となりました。
【#世界8月号 再入荷】
品切れておりました世界8月号入荷いたしました。#岩波書店https://t.co/35WzwLZU46 pic.twitter.com/hjsmp9joXn— ふたば書房 御池ゼスト店 (@futabaoike) August 2, 2023
★★★入荷しました★★★
『世界』岩波書店、8月号、入荷しました。
雑誌コーナーにて展開しております。
ぜひお手に取ってご覧ください。 pic.twitter.com/ePZ4kLlU5F— 京都大学生協ショップルネ (@KUCOOP_Renais) August 2, 2023
【良心館ブック&ショップ】
『世界(2023年8月号)』(岩波書店)再々入荷しました♪
『週刊読書人』は「2023年上半期の収穫」アンケート号♪
『週刊文春』は話題沸騰の8月3日号がまだ1冊在庫ございます!
生協組合員なら雑誌もすべて10%割引で購入できます! pic.twitter.com/DBtan1uYz1
— 同志社生協(今出川各店舗) (@doshisha_coop_i) August 2, 2023
「世界」は『君たちはどう生きるか』の著者である吉野源三郎が初代編集長を務めた1946年創刊の老舗雑誌で、購買層は「進歩的文化人」と言われている様です。私にとってはたまに仕事でお世話になる人が執筆された記事を参考に読む程度で、日頃は買おうと思う雑誌ではないのですが、消費行動はその商品を応援する意味もあるので、初めて買うことにしました。
最寄りのショッピングセンターにある大型書店で探したけれどみつからず、商店街の昔ながらの本屋さんで聞いたところ「あれは書店の買い取りなので大きな所じゃないと置いてないと思います。うちも2冊入れてますけど、配達用です」とのこと。念のため、住宅街の書店2軒も見に行きましたが、「世界?ですか、あそこの棚になかったらないと思います」と若い店員さんは「世界」のことすら知らない様でした。なかなか一般の人が店頭で目にする機会のない雑誌の様です。代わりにどの書店でもかなり目につく場所に置かれていたのが、「正論」「will」「Hanada」といった右派系雑誌。それを見て思い出したのが、産経新聞の戦略です。「ネトウヨ」と呼ばれるネット上で攻撃的で右翼的な言動をする人達が目立つ様になったのは、産経新聞の影響が少なくないと聞きます。新聞のネット記事がすぐに有料になって読めなくなる中、産経の記事は無料。ポータルサイトのMSN産経ニュース(2014年終了)で多くの人が繰り返し見ていました。同様に目につく位置にある雑誌は手にとる機会が増えます。通勤などで電車を利用し、吊り広告を目にする人も多いでしょう。その内容に感化される人は「世界」を目にする人の何倍も多いはずです。ちなみに私はAmazonで買おうとしたら値段が吊り上がっていたり、配送料が高かったので、定価で出品していた近所の大型書店にお願いして店頭で受け取れる様にして重版分を入手しました。
さて、読んだ感想を少し。豊富な知識を体系的に持った人達が書いた文章というのは、読み応えがありました。将基面貴己「安倍晋三と『愛国心』」で愛国心はナショナリズムと同義語に扱われる傾向があり、安倍もまた、このふたつを混同していると指摘。愛国心は「パトリオティズム」の翻訳で、対象の「パトリア」は「国」とは限らないとのこと。ミサイルの名前にも使われる「パトリオット」という言葉が嫌いでしたが、これを読むと地元地域や全人類も意味しうるというパトリアという概念は支持できる様に思いました。後藤謙次と牧原出の対談で「財政や経済がこのような手詰まりになることは最初から予想されていた」と、それなのにアベノミクスを支持した罪は大きいと思うし、石川健治の「第二次安倍政権の七年八ケ月において、最も危険な企ては(略)憲法九六条の改正論である」との指摘は、それならもっと広く知らせてよと。上にリンクした様に大学では「世界」を毎号置いてそうですが、学生や研究者といった知識人って、自分達が正しいと思うことを小さい世界で主張して満足しがちですよね、と今回再認識。一般の人に普及させる努力が圧倒的に足りない。知識人じゃないけど、これは「カナリア倶楽部」への自戒も込めて書いてます。
歴史認識を歪めようとする昨今の動きを、きちんと歴史を学んだ人達は危惧していると思いますが、「産経新聞や『正論』キャンペーンで使われていた『歴史戦』というローカルな用語が、政府とNHKの口から堂々と発された」と倉橋耕平は書き、安倍首相再登板で「右派論壇の圧倒的な物量の言説が生産された」と書いています。この「圧倒的な物量の差」が国民の投票行動に影響するのは明らか。相当ヤバいです・・・。(モモ母)