「カナリア俳壇」86

九州では北部を中心に未曾有の豪雨に見舞われ、熱中症の心配や、またもやコロナ禍の襲来など、不安の種は尽きませんが、皆さんどうぞご自愛のうえ、お過ごしください。

○草笛の合図出発縄電車     作好

【評】とてもユニークな草笛の句です。中七の「合図出発」がやや窮屈ですので、「草笛の音(ね)で出発や」としてもいいかもしれません。

△畦道を蛇に塞がれ遠まわり     作好

【評】これは作者の行動の説明で、あまり感動が伝わってきません。「遠まわ(は)り」のことは省き、蛇が道を塞いでいる様子をもっとじっくり写生すると本格的な俳句になります。俳句は一箇所にとどまり、忍耐強く観察するのが基本です。

○酢漿草の見守る土俵朝稽古     妙好

【評】「見守る」まで言ってしまうと作者の感情が出過ぎになります。あくまでも客観写生に徹しましょう。「見守る」という気持ちは読者の鑑賞に委ねたいと思います。

○~◎両親の法要の朝木槿咲く     妙好

【評】しっかりとした写生句です。上五、「ちちははの」でもいいかもしれませんね。

△涼しさや小舟を脚の橋揺れて     徒歩

【評】わたしの理解不足かと危ぶみますが、「小舟を脚の橋揺れて」がイメージできませんでした。句意は変わりますが「涼しさや小舟の縁に足を掛け」としてみました。でも、これは危ないですね。

○いかづちに騒めく頭皮艷書手に     徒歩

【評】「騒めく頭皮」がわかりづらいように思います(「騒めく頭髪」ならわかる気がしますが)。うまい添削例が浮かびませんが「いかづちに頭皮の痒み艶書受く」等々。

◎井戸水に浮かすトマトやあさぼらけ     織美

【評】瑞々しいトマトが思い浮かびます。ノスタルジーも感じました。

○しとしとの雨で過ぎゆけ暴れ梅雨     織美

【評】「梅雨なら梅雨らしく、しとしとと降りなさい」と呼びかけているのですね。「過ぎゆけ」と命令形にはせず、客観的な描写にしたほうが俳句らしくなります。「しとしとの雨とはならず暴れ梅雨」など。

◎青少し残し梔子咲き初むる     万亀子

【評】しっかりと観察した写生句です。こういう繊細なところを描けるのが俳句のよろしさですね。

◎鹿除けの扉開くれば大夏野     万亀子

【評】扉を開ければそこは大夏野。気持ちの昂ぶりが伝わってきます。鹿が生息する場所なのですね。その点も具体的でけっこうです。

◎梅雨寒やげんこで叩く足の裏     智代

【評】梅雨寒の雰囲気をよく捉えています。生活感が出ていてけっこうです。

○瓜二つ羽黒とんぼの影の濃し     智代

【評】なかなか面白い句です。おはぐろとんぼも真っ黒ですから、影が二つあるように見えたのでしょうね。「おはぐろと影瓜ふたつ飛びゆけり」としてみました。

○雨垂れに生まれるあぶく梅雨に入る     みさを

【評】どこにあぶくが生まれたか示せるとさらに情景が具体的になります。とりあえず、一句を引き締めるために動詞を一つにしてみましょう。「雨垂れにあぶく生まるる梅雨入かな」あるいは「雨垂れに生まるるあぶく走り梅雨」など。俳句では動詞を減らすのも一つのコツです。

△玉葱や主役脇へと甘美増す     みさを

【評】「主役脇へと」が理解できませんでした。下五は玉葱のことですから上五を「や」で切ってはいけません。「玉葱の」としましょう。「甘美(かんび)」と「甘味(あまみ)」、どちらのほうがいいでしょう。

△次々と生まれ散り散り子蟷螂     恵子

【評】次々に生まれたカマキリが散り散りになるのは常識の範囲内ですので、そのへんを実際に見た人でないと言えないように写生してほしいと思います。たとえば「子蟷螂相踏み合うて散り散りに」など。

△~○山清水たっぷりとかけ故郷の墓     恵子

【評】「故郷の」をさらに具体的に述べ、たとえば「ちちははの墓にかけやる山清水」とするのも手ですね。「たつぷり」と表記しましょう。

○秋田犬四肢で息する暑さかな     永河

【評】秋田犬の毛並みをみると確かに夏はしんどいだろうなと思います。上五を名詞にしますと、読者は一瞬切って読みたくなりますので、「炎天や四肢で息する秋田犬」とするのも一法かもしれません。

△~○鉄削る螺旋の艶や夏燕     永河

【評】工作にうといため、「螺旋」が鉄を削る螺旋形の器具のことなのか、それとも鉄の切り屑の形状のことなのか判断できませんでした。後者とすれば、「螺旋なす鉄の切り屑夏燕」としたい気もします。

△雨粒にひまわり憩ひほろり落つ     白き花

【評】ひまわりが憩うのでしょうか。今一つ句意がとりづらいように感じます。「憩ふ」という擬人を使わず、すなおに写生しましょう。「ほろり落つ」も月並表現ですので避けたいところ。「ひまはりに雨粒ひかる汗のごと」など。

◎露光るトマトを友の手より受く     白き花

【評】これは瑞々しく、爽やかでよい句です。

〇菊練りや汗も一緒に練り込めり     ゆみ

【評】臨場感のある句ですね。「練り」という語の重複が気になります。また、上五を「や」で切る場合、下五は助動詞の終止形を避けるのが一般的です。「菊練りや額の汗をもろともに」くらいでいかがでしょう。

△薔薇園目移り迷ふ花選び     ゆみ

【評】「目移り」と「迷ふ」が意味的に重複しています。薔薇園で花を売っているのでしょうね。「薔薇園の花選びかね目移りし」でしょうか。

〇荒梅雨や傘が差せずに走りたり     千代 

【評】風も強かったのでしょうか。「傘が差せずに」は説明ですので、そこを目に見えるように描写しましょう。「荒梅雨や傘横抱きに走り出す」など。

△田植え終え実りし稲穂通り雨     千代

【評】「田植」は初夏の季語、「稲穂」は秋の季語です。「通り雨植ゑしばかりの田の上を」としておきます。

〇友の店カサブランカは今宵咲く     久美

【評】概ねけっこうですが、「カサブランカは」の「は」が強すぎますので、少し語順を入れ替えます。「今宵咲くカサブランカや友の店」でどうでしょう。

△喫茶店咽ぶ様な香は百合の花     久美

【評】言葉がややごたついていますので「白百合の香に咽びさう喫茶店」としてみました。

〇ぴちぴちと餌を吸ふ目高犇めけり     利佳子

【評】自解によれば「ぴちぴちと」は、餌を食べるときに出る音とのこと。この語順ですと「犇めけり」に焦点がいってしまいますが、この句は餌を吸う場面にフォーカスを当てたいですね。「犇めける目高ぴちぴち餌を吸へり」。

〇大夕立バター焦げたるたらこスパ     利佳子

【評】どこが悪いということはないのですが、たらこスパをもう少し美味しそうに表現できそうな気もします。一例として「驟雨来るたらこスパよりバターの香」。

次回は8月1日(火)の掲載となります。前日7月31日(月)午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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