憲法、宗教二世問題と連載が続きましたが、久しぶりに、教育及び子ども若者女性の人権関連の時事問題ネタを書きます。
関西のテレビでも多少報道されているようですが、東京の都立高校の入試に英語のスピーキングテストを導入することをめぐって、様々な問題が指摘されています。入試自体はは今月末(年明けではありません!)に予定されているという状況で、正直、何をどう言えばよいのやら…という気もするのですが。
詳細や経緯については、こちらの動画が大変詳しいです。研究者の方と保護者の方が話をしています。
こちらの記事も参考になると思います。
疑問がいっぱいの英語スピーキングテスト 都立高校入試への活用は中止に! | 岩永やす代 https://t.co/jIQYAzHu4b
「テストの実施でスピーキング力のアップには繋がらず、信頼性の薄い試験結果を高校入試に使うことは無意味との指摘もあります。」
岩永やす代都議会議員— 東京・生活者ネットワーク (@tokyonetnet) November 16, 2022
抗議行動も行われています。
スピーキングテストに保護者の怒り(上) 「説明ないままこっそり進めないで」「個人情報の強制登録だ」|都立高入試スピーキングの不可解|朝日新聞EduA https://t.co/ZIjnx3KofH
— こたつぬこ🌾野党系政治クラスタ (@sangituyama) September 17, 2022
話は、大学の2020年度入試(2020年に大学1年生になる人が受ける入試)に遡ります。当時、カナリア倶楽部でもいくつか記事を書きましたが、この時にも、大学入試共通テストの英語にTOEICや英検などの民間試験を導入するという内容があり、公平性や効果に疑問があるということで大きな反対の声が上がりました。結局、2019年11月に当時の文科大臣が延期を表明、最終的に中止になりました。
しかし、教育産業はその後も各大学に対して、入試で民間の試験を使うようにという営業攻勢等を行っています。そしてどうやら、矛先は大学だけではなかったようです。都立高校が入試で英語のスピーキングテストを行うこと、スピーキングテストは民間業者が行う「ESAT-J(イーサネット・ジェー)」というテストを使用することが決まりました。主な問題点として、次の3つがあります。
1つは、ESAT-Jを提供している会社は、当然ながら受験生向けの教材や教育サービスも販売しています。そういう会社が入試を実施するのは、利益相反ではないのでしょうか?
2つめは、個人情報保護の問題です。受験生である中学3年生の個人情報を、1民間企業が強制的に収集できるのは妥当なことなのか。またこの会社は過去に、情報漏洩事故を起こしています。
3つめは、ESAT-Jを受験できない受験生の扱いです。ESAT-Jは都立中学校で実施されるのですが、都立高校を受験する生徒には、国立や私立の中学校に通う生徒や、東京都外から引っ越しをしてくる予定の生徒もいます。その人たちはESAT-Jを受験できないため、受験した生徒で、当該生徒の筆記テストの点数に近い人たちの平均点を割り当てるという仕組みになっているのです。なんだか変な話です。これがどういう結果を引き起こすかについては、上記の動画の後半で詳細なシミュレーションがされています。
実はこの他にも、入試を円滑に運営できるのかという懸念もあるようです。まだアルバイト募集がされているとか…。
ESAT-Jの試験監督バイト募集。11/4の時点で「掲載期間終了まであと3日」だったのに,何度か振り出しに戻った末に今日(11/19)の時点で「あと2日」。本番まであと8日だが,また振り出しに戻るのか? こんな試験ってありですか? 中止しかない。都教委も文科省も生徒のための仕事をしてください。 pic.twitter.com/xTK8K4mfoB
— 羽藤 由美 (@KITspeakee) November 19, 2022
英語の入試に、筆記とリスニングだけではなく、スピーキングも入れようという考え方自体に反対する人はあまりいないと思います。しかしそれをどうやって実現するのかというのは非常に難しい問題です(簡単なのであれば、とおに実現しています)。実は私は、滋賀県の高校入試にリスニングが導入されたときの、第1期生だったか第2期生だったと思います。「筆記だけではだめだ」という意見はあるが、いざリスニングを入れるとすると、「聞こえに障がいのある人にどう配慮するのか?」、「校内放送の設備に不具合があったらどうするのか?」、「教室の場所によって聞こえ方が違う場合もある」などの多くの検討事項があるのだと、中学校の先生が仰っていたのを覚えています。リスニングの導入に際しては、何年もかけた周到な検討と準備がありました。それに引き換え、大学入試への導入の試みといい、今回の都立高校入試といい、準備がずさんだという気がします。上記の問題の3つめなどは、検討と準備が不十分であることの好例ではないでしょうか。
なお、今回は都立高校がターゲットになりましたが、これは他の都道府県でも同様にありうることです。水面下で話が進んでいるところもあるかもしれません。東京での今後の動向を注視したいと思います。