少し前にBSのNHKで連続テレビ小説「芋たこなんきん」が再放映されていました。2006年から2007年に放映されたドラマでヒロインは藤山直美さん。当時、朝ドラの史上最年長ヒロインとして注目されましたが、47歳だったそうです。1週間分をいっき見できるのですが、直美さんの心地いい、なめらかな関西ことばと、あらためて従来?の朝ドラらしい安定した内容にほっこりして(全話じゃないけど)見ていました。ちょうどその時期の本来の朝ドラはネット上でかなり叩かれていたので、再放送の芋たこなんきんに視聴者がついているような記事も見かけました。
今回ご紹介する「孤独な夜のココア」は、直美さん演じる花岡町子のモデル、田辺聖子さんの作品です。私の好きな短編集スタイルで何度も読み返している一冊。男女の機微が“おせいさん”らしいタッチで軽やかに描かれています。軽やでスイスイと読み進むのですが、実はドロッとした人間の心情や、べたりと地肌に張りついてくるような心地悪い女の業が見え隠れしています。1978年発刊の作品ですが、いまも共感をしたり、納得できるところ多いので、人の本性なんて変わらないものだなと感じます。恋愛のスタイルは年代ごとに傾向はあるかもしれませんが、根幹にある人間の本質は2022年でも変わらないと思います。だって、不倫も、離婚も、略奪愛やちょっといじわるして友達をだし抜いたりすることも、今日もどこかで繰りひろげられているでしょうから…。
12の短編集には、22歳年上の既婚者と付きあう主人公・碧の「春つげ鳥」。仕事に没頭しすぎて、夫への形に見える配慮は完璧でも、心の配慮は置きざりにしてしまい気づけば夫の心は離れ、家を出ていかれた「遅すぎますか?」。もっさり、ずんぐりむっくりの、美青年とは言い難い同僚の男性に密かに思いを寄せ、まわりの嘲笑する女性たちには気づけないその男性の良さを語っていたら、いつのまにかバカにしていた側の女性が、自分が見つけていた男性の魅力を堂々と口にして、ちゃっかり結婚したことに怒りを覚える遠田サンの「愛の罐詰」。
「怒りんぼ」は、正義感に満ち溢れたハッちゃんがいつも世の中の理不尽さや筋の通らないことに怒りまくり、それを夫の喬がそばでなだめるという役目を果たすのですが、実はいつの間にか喬さんはいつも遊びに来る穏やかで細やかなハッちゃんの友人の亜以子さんとデキてしまい、家を出たいと妻に言います。人生でもっとも怒らねばならない場面なのに、いつものようにカッとなれないハッちゃん。自分がカッとなって怒れるのは、その後に悲しみがないからだと気づき、静かに受け止める彼女の最後の心情には切なさ以上のものがかすっていきます。
いずれも怒りや哀しみの中にも滑稽さが見え隠れし、ざらっとした感触が残る短編集が「孤独な夜のココア」です。田辺聖子さんの作品に登場する主人公は、おそらくおせいさんの心の一部を切り取って、培養液をたらしたシャーレの中でむくむくと誕生してきたような気がします。いや、そもそも作家業とはそういうものなのでしょうね。私の心の一部を培養したら、どんなものができるのか。想像すると震えるほどこわいです。(ふるさとかえる)
Weekend Review~「孤独な夜のココア」
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