前回の記事では、宗教2世問題当事者のしんどさを「霊的虐待」という観点から述べました。本日は別の観点から、3つ取り上げようと思います。なお、当事者にもいろいろあり、親から信仰を押し付けられているとは感じていない人もいます。本日の話はどちらかと言うと、押し付けられた信仰を拒否したいと思っている当事者の話になります。
1つめは、複数の当事者性を抱えている可能性が高いことです。しんどいことが1つだけなら何とかなるが、重なると耐えられなくなるというのは、一般的によくあることです。宗教2世当事者は、貧困、孤立、自分や家族の病気や障がいなどを、同時に抱えることが少なくないと思います。自死遺族である場合もあるでしょう。「親がなぜカルト宗教に入信したのか」を考えると、ある意味で自然なことです。
2つめは、親にある程度の収入がある場合、進学等に関わる子どもの意志を守る支援がほぼ受けられないということです。親が宗教に献金をし続けているので、大学進学のための費用がない。しかし家庭に収入があると、授業料免除や奨学金などの対象外になってしまいます。
3つめは、「親が弱くて子どもの支えを必要とする」状態にある可能性も高いということです。これもまた、親がカルト宗教に入信したきっかけを思い浮かべると、頷ける話かと思います。
「毒親」という言葉があり、親との断絶を進めている人もいます。例えばこんな動画もあります(話としては興味深いです)。
ただ、経済的にも社会的にも普通に自立ができている「強い親」を捨てることよりも、自立ができない弱い親を捨てる方が難しいと思うのです。前者が簡単だと言うつもりはないのですが、後者の場合、例えば日本の法律では親子間には法的な扶養義務があり、拒否することは可能ですが簡単とも言いづらいです。また法的なことだけではなく、子どもの心理状態としても、より強い罪悪感を感じてしまいます。
カルトに入信している親など捨ててしまえばよい、離れてしまえばよいという意見を聞くことはよくありますし、実際にそうかもしれませんが、現実的には難しいことと言えます。私の話ですが、6-7年前に母から、「**教のところ(伝統仏教の寺に相当)に、(以前に母がもらった)お札と20万円を持って行って、『うちは**教はやらないから、すみませんが』と謝りに行ってほしい」と言われたことがあります。ちょうど母が、大きな手術をする直前のことでした。私は嫌だったのですが断れず、それでも嫌だったので、坐禅会の和尚さんに相談をしました。
和尚さんは、「行かない方が良いと思いますよ。信仰をしないと言いに行くというのは、相手のプライドを潰しに行くということですから。人間は(献金が来ないことよりも)プライドが潰されることが嫌なものですからね」と仰り、その通りだと思って、行くのをやめました。
実はそれ以前は、体の不自由な母から頼まれて毎月、献金の振り込みをしに行っていたのです。母のお金なので、良いかと思っていたのですが、これをきっかけに振込に行くのも、自分で行ってくれと言って断りました。今振り返ると、毎月、振込に行っていた自分がバカバカしいです。母のお金なのでどうでも良いのですが、実は私には2つ年下の弟がいて、中途障碍者になったので、フルタイムで働けません。1,000万円近くの奨学金の借り入れがあり、4分の3は返還免除されたそうですが、それでも結構な返済をしないといけません。あのお金は弟にあげればよかったのにと、つくづく思うのです(弟自身は、何とも思っていないようですが)。
自分の経験を振り返っても、宗教2世当事者が、親からの指示や依頼等を断るのは簡単ではなく、少なくとも何らかの心理的援護射撃のようなものが必要だと思います。
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