「カナリア俳壇」70

8月7日は立秋でした。暑さの内にも何となく秋の気配を感じるこの頃です。草むらからは虫の声も聞こえるようになりました。

○雨蛙供花に紛れて宿りけり     作好

【評】お墓参りの場面でしょうか。先に来た方の供花に雨蛙がひそんでいたのでしょうね。素直な作で結構です。供花に「くか」とルビが振ってありましたが、わたしの調べた限りでは「きょうか」または「くげ」という読みしかありませんでした。

△空中に蜘蛛は大の字動かざる     作好

【評】よく見かける情景ですね。「大の字」は主として人間に用いる語です(両手両足を広げて寝転ぶと大の字に見えるので)。八本足の蜘蛛では「大の字」になりませんね。

△~○炎昼や白黒映える海鼠壁     美春

【評】文語なら「映ゆる」とします。海鼠壁の白黒がくっきりと映えているということは、有形文化財に指定されているような由緒ある建物を修復し、塗り直したのかもしれませんね。「炎昼」ですと暑さのせいでやや息苦しい感じで、白黒のコントラストが映えません。季語を「秋うらら」「秋晴や」などとしてもよさそうです。

△夏の風幾ども振れる風見鶏     美春

【評】風が吹けば、風見鶏が動くのは当然で、一句に意外性がありません。俳句における感動の源は驚きにあります。季語を工夫してほしいと思います。

△じゃり道の登校下校蝉しぐれ     織美

【評】「じやり道」と表記しましょう(平仮名は例外なく、すべて大きく書きます)。読者には今一つまわりの風景が見えてきません(どこの砂利道でしょう)。生徒の姿も思い浮かびません。「登校」か「下校」にポイントを絞ったほうがよいと思います。

○~◎ふわとろの卵サンドや今朝の秋     織美

【評】「ふはとろ」と表記しましょう。秋の到来を思わせる、快活で気持ちのよい句です。

○蝉殻の尻に雨滴の煌めけり     音羽

【評】きちんと写生がなされた句です。ただし情景自体はよく見かけますので、日常感覚にとどまった句との感は否めません。

△~○長命な金魚に浮かす餌おほめ     音羽

【評】俳諧味はありますが、たくさん食べるから長命なのだという理屈が見えてしまうところが残念です。「餌おほめ」をもう一工夫し、理屈から離れてほしいと感じます。

○火をつけぬ薪を飾りて昼鵜飼     万亀子

【評】風刺の効いた句です。どうせ昼間にやるなら、いっそ飾りだけの薪などないほうが潔いのに、と思ってしまいますよね。

○木曽川の波に触れみて舟遊     万亀子

【評】舟遊の楽しさが伝わってきます。「波に触れみて」がやや悠長な感じです。もうすこし詳しく「波」を描写し、「木曽川の大波に触れ舟遊」などとするのも手です。

◎白髪のはらから揃ひかき氷     妙好

【評】子供のころも同じ顔ぶれでかき氷を食べたのでしょう。いまは皆、すっかり白髪になりながらも、昔と同じくかき氷を食べている。しみじみとした思いで読みました。

○朝顔や粥ふつふつと炊き上がる     妙好

【評】芭蕉にも「あさがほに我は飯くふおとこ哉」という句がありますが、妙好さんの場合は粥なのですね。おもしろい取り合せの句です。

◎名古屋場所贔屓の名入りタオル買ふ     多喜

【評】素直に詠まれ、贔屓力士への思い入れも伝わってきます。固有名詞が効いていて、名古屋城まで見えてきました。

○地元紙にくるまれ鳳梨届きたり     多喜

【評】「鳳梨」は「ほうり」と読み、パイナップルのこと。沖縄か九州の親戚からの贈り物でしょうか。「地元紙」の地元が曖昧です。また、地方紙に包まれて物が送られてくるといった句はパターン化しており、既にたくさんありますので、もっと別の角度から詠んだほうが新鮮でしょう。

△~○風音に混じる太鼓や夏芝居     あみか

【評】形としては申し分ないのですが、今一つ情景が見えてきません。触れ太鼓と夏芝居の取り合せは数多くありますので、別案を練ってもらいたいと思います。

○涼しさや医院に白き骨模型     あみか

【評】医院に骨模型があること自体に意外性はありませんが、それを涼しいと感じたところがユニークですね。

△~○幹下る蟻の一匹早足で     徒歩

【評】この句は調べのおもしろさを味わうべきなのかもしれませんが、ただ、「早足」でない蟻を見つけるほうが難しいのではないでしょうか。

○手で洗ふ白き靴下敗戦日     徒歩

【評】白い靴下は、スポーツをしている学生のイメージですね。それを手洗いしている姿と「敗戦日」がどう結びつくのか、関係性を読み取れませんでした。たとえば「慰霊の日」など別の季語を持ってきた場合と読み比べてどうでしょう。

○水草の余白つつけりめだかの子     糸子

【評】「余白」はちょっと作りすぎでしょうか。雲が映って、実際に白く見えたのだと想像しますが、やはり素直に「隙間」としたほうがいいでしょう。

△~○暑に耐ふる足し水したる目高甕     糸子

【評】「暑に耐ふる」が重すぎる感じです。「目高甕」も言葉として窮屈。「炎天下めだかの甕に水足せり」くらいでいかがでしょう。

△~○ドアミラー己が貌見る飛蝗かな     智代

【評】ドアミラーは自動車のバックミラーの一種。そこにバッタが張り付いていたのでしょうか。たぶん駐車場にとめてある自動車なのでしょうね。すこし考えないと句意がとれないのが難点です。また「己が貌」を見たバッタがどう反応したのか、そこを描写したほうがより生気のある句になると思います。句材はユニークです。

○鎌を引く爺の着茣座に通り雨      智代

【評】「着茣蓙」が夏の季語です。広重の浮世絵を髣髴とさせるような作品です。「着茣蓙に」としますと、通り雨の当たる場所が「着茣蓙」に限定されてしまいますので、「着茣蓙や」と切れを入れたほうがいいでしょう。

◎広島忌母はテレビに合掌す     永河

【評】「母百一歳」と前書があります。ありのままの様子を素直に詠んだ句です。「テレビに」に心を打たれました。

△~○炎帝や水平線は落ちてゆく       永河

【評】昇りゆく太陽に感情移入すれば、水平線は下へ下へと遠ざかってゆくのでしょう。ただ、上五を「や」で切っているため、「炎帝」と「水平線」の関係まで切れてしまいました。とりあえず「落ちてゆく水平線と炎帝と」としておきます。

△~○縁側で枝豆つまみに手酌飲み     千代

【評】中七が字余りですね。「縁側で枝豆つまみ手酌酒」としておきます。この場合の「つまみ」は動詞の連用形です。

△蝉時雨庭の枝にて競い鳴く     千代

【評】蝉が競い合うように鳴くことを蝉時雨といいますので、これは季語の説明に終っています。いっそ競い合うのを庭の枝のことにしてはいかがでしょう。「競ひ合ふ庭の枝葉や蝉時雨」。

次回は8月30日(火)の掲載となります。前日29日の午後6時までにご投句いただければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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