テレビで紹介されて(私は見てませんでした)ネットで話題になっていたので、読んでみたいと近くの図書館や子ども文庫などを探したけど、2019年発行なのに意外とマイナーな様で見当たらなかった為、取り寄せました。1933年ドイツの総選挙で父さんがナチ党に投票することから物語が始まり、その後、ドイツがどう変わって行ったのかがルディ少年の目を通して描かれます。
ヒトラーの像を揶揄した労働者が茶色の制服を着た十数人の突撃隊員に殴られ、「悪いドイツ人」と書かれたプラカードを首にかけて大通りをひっばりまわされたこと。遊び場の木が切り倒されて高速道路が建設され、道路沿いに「今のやり方は良くない」と考える人達を閉じこめるためのバラック小屋が作られたこと。自分達と考えの異なる人々を探し出してすべての家から本を没収して山の様に積み上げ、夜を待って火を放ったこと。ユダヤ人というだけの理由で自転車や電話などを持つことを禁止され、家畜やペットも取り上げられたこと。障害のある妹マリエルが収容所に連れて行かれそうになったこと。戦争が始まると父さんが戦地に送られ、町に爆弾が落とされて建物が燃え上がり、負傷者の叫び声が響き渡ったこと。
投票日に母さんと言い争いをした父さんは「彼だけがドイツを救える。これが最後のチャンスなんだ。彼はすべての人にもう一度、仕事を与えてくれる」と言って、ナチ党に投票します。誰もがこの国が良くなると信じて投票するし、政治家は「これから皆さんをひどい目に合わせます」なんて決して言わない。でも、有権者は間違った判断をすることがあるのだと絵本は教えてくれます。父さんはどうしてヒトラーがドイツを救えると思ったのか気になるところですが、冒頭の言い争いの場面だけで投票理由は詳しく書かれていません。その判断は読者に委ねられているということでしょうか。
不況で生活に不安を抱く人々、「LBGTは生産性がない」という与党議員、「障害のある人は生きる価値がない」と大勢の命を奪った元施設職員による殺傷事件。今の日本と重なるところがいくつもあります。梵書は言論統制というより知性排除の象徴の様に私には映ります。知力判断力がついて自分達と違う考えを持つ人が増えると都合が悪い。絵本では最初の梵書は書店のブリュメンフェルトさんが「ユダヤ人だから」でしたが、理由なんてどうとでも言えるし、やがて弾圧の対象はどんどん広がって行きます。昨今の日本でいえば日本学術会議の任命拒否問題が思い浮かびます。
参院選が公示され、選挙戦が始まりました。数年後、数十年後に「どうして〇〇に投票したの?」と言われない様に、耳障りの良い言葉、威勢のいい言葉に惑わされずに投票したいものです。(モモ母)