「国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律案」、巷では「稼げる大学」法案と呼ばれている法案が4月末に衆議院を通過しました。参議院での審議がどうなるのか、与党が多数を占める中で成立してしまうのか、審議の行方が注目されているところです。
この「稼げる大学」法案ですが、シンプルには説明しづらいところがあります。いくつかの大学を「国際卓越研究大学」に選定して、その大学に巨額の研究資金を配分するというものですが、その内実には非常に危ういものであります。本日は2つのポイントに絞ろうと思います。
第1に、学問の自由が大きく侵害されるであろうということです。学問の自由については、学術会議関連の問題でもいくつか記事を書きました。政治権力などから不当な圧力を受けないで学問が行われるためには、それが成り立つ仕組みが必要です。日本も含めて世界で標準的に採用されるのは、ピア・レビュー(同僚による評価)というもので、研究費の配分審査等は政治家や官僚ではなく、研究者同士で行うというものです。
「稼げる大学」法案はこのピア・レビューを否定し、内閣府直轄の組織が研究資金の配分を受ける大学を選定したり、大学の活動を管理したりします。詳細は東京新聞の社説にも書かれていますし、また京大の駒込先生がyoutubeでミニ講義をしています。
東京新聞の社説、重要なポイントをついています!
「最大の懸念は大学自治や学問の自由への影響だ。対象校の選定には閣僚も関与し、戦略会議には政財界出身者らが起用される見通しだ。政権により会員任命が拒否された日本学術会議と同様、学問への政治介入は生じないのか。」https://t.co/iQkLvJgdKk
— Komagome Takeshi (@KomagomeT) April 22, 2022
大学への政治の介入という点では、つい先日に河野太郎議員が、「(大学教員の多くが利用する)科学研究費補助金を文科省と防衛省の共同管理にする」という暴論を口にしていたところです。
暴論というのは、たとえば昨日放送「日曜報道」での某氏の発言。
【私、防衛大臣だった時に…今文科省が出している科研費を全部文科省と防衛省の共管にしてくれと…学術会議の言うとおり防衛省の予算で研究しませんという大学は、科研費全部使えないよ…ということを言って】https://t.co/iyvrJTMIwv— 石原 俊@シリーズ戦争と社会 全5巻(岩波書店)完結 (@ishihara_shun) April 18, 2022
第2に、そもそも大学というのは稼げる組織ではありません。素晴らしい教育や研究を行って評判が上がったとしても、学生の定員が増えるわけでも、授業料を高くして良いわけでもないので、大学の収入は増えないのです。また産業界の一部からは、工学系の学科の構成を変更して、「稼げる」ようにしようという声も上がっていましたが、そんなことでは稼げません。むしろ支出が増加します。学科構成を変更して新しいカリキュラムを始める場合、すでに入学している学生が卒業するまでは旧カリキュラムを提供しないといけません。新カリキュラムと旧カリキュラムの両方を運営しないといけない状況が、すでに入学していた学生全員が卒業するまで続きます。休学などをする学生もいるので、10年弱くらいはそのような状況が続くと思ったほうが良いです。そのような中で「稼ぐ」ためには、授業料を大幅値上げするくらいの選択肢しかありません。
なお、衆議院では採択に際して、本法案への懸念事項を反映した付帯決議が付きました。研究の多様性が損なわれること、学生が経済的事情で学ぶ権利を損なわれる可能性、地方大学が切り捨てられる可能性などに言及がされています。
国際卓越研究大学法案:附帯決議となってしまったことで評価されていませんが、こうした決議があったという記録が残ることは重要です。ここから何度でも蒸し返せば良いと思います。法人化のときと比べれば、注目している人たちの数は増えていると思います。 https://t.co/q4hRkbeaWH
— Satoshi Tanaka (@sato51643335) May 6, 2022
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