「稼げる大学」法案という危機

「国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律案」、巷では「稼げる大学」法案と呼ばれている法案が4月末に衆議院を通過しました。参議院での審議がどうなるのか、与党が多数を占める中で成立してしまうのか、審議の行方が注目されているところです。
この「稼げる大学」法案ですが、シンプルには説明しづらいところがあります。いくつかの大学を「国際卓越研究大学」に選定して、その大学に巨額の研究資金を配分するというものですが、その内実には非常に危ういものであります。本日は2つのポイントに絞ろうと思います。
第1に、学問の自由が大きく侵害されるであろうということです。学問の自由については、学術会議関連の問題でもいくつか記事を書きました。政治権力などから不当な圧力を受けないで学問が行われるためには、それが成り立つ仕組みが必要です。日本も含めて世界で標準的に採用されるのは、ピア・レビュー(同僚による評価)というもので、研究費の配分審査等は政治家や官僚ではなく、研究者同士で行うというものです。
「稼げる大学」法案はこのピア・レビューを否定し、内閣府直轄の組織が研究資金の配分を受ける大学を選定したり、大学の活動を管理したりします。詳細は東京新聞の社説にも書かれていますし、また京大の駒込先生がyoutubeでミニ講義をしています。



大学への政治の介入という点では、つい先日に河野太郎議員が、「(大学教員の多くが利用する)科学研究費補助金を文科省と防衛省の共同管理にする」という暴論を口にしていたところです。


第2に、そもそも大学というのは稼げる組織ではありません。素晴らしい教育や研究を行って評判が上がったとしても、学生の定員が増えるわけでも、授業料を高くして良いわけでもないので、大学の収入は増えないのです。また産業界の一部からは、工学系の学科の構成を変更して、「稼げる」ようにしようという声も上がっていましたが、そんなことでは稼げません。むしろ支出が増加します。学科構成を変更して新しいカリキュラムを始める場合、すでに入学している学生が卒業するまでは旧カリキュラムを提供しないといけません。新カリキュラムと旧カリキュラムの両方を運営しないといけない状況が、すでに入学していた学生全員が卒業するまで続きます。休学などをする学生もいるので、10年弱くらいはそのような状況が続くと思ったほうが良いです。そのような中で「稼ぐ」ためには、授業料を大幅値上げするくらいの選択肢しかありません。
なお、衆議院では採択に際して、本法案への懸念事項を反映した付帯決議が付きました。研究の多様性が損なわれること、学生が経済的事情で学ぶ権利を損なわれる可能性、地方大学が切り捨てられる可能性などに言及がされています。


————-
西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30