5月9日はロシアの対独戦勝記念日です。ロシアはこの日を盛大に祝うため、それまでにウクライナでの勝利を確実なものにしようとするはずだとの見立てもありましたが、戦況はむしろエスカレートしており、ウクライナの隣国のモルドバやロシア国内にも戦火が広がる兆しが見えています。ロシアは5月9日、ウクライナに正式に宣戦布告するのではないかとの見方すらあります。https://news.yahoo.co.jp/articles/8de4fbe4e34ad52b020e82179336252eba2b1c8a
いたずらに人々の不安を掻き立てる発言は慎むべきだとは思うものの、この頃わたしはつい「第3次世界大戦」ということを考えてしまいます。ロシアのラブロフ外相も4月25日、国内のメディアに対し、第3次世界大戦に至る可能性を過小評価してはならないと警告していました。
それはロシア側のプロパガンダ(政治宣伝)ではないでしょうか?そのような言い分を額面通りに受け止め、ロシアへの圧力を弱めてしまったら、相手の思う壺にはまることになりませんか?
あるいはそうかもしれません。しかしわたしには、これが単なる恫喝とは思えないのです。プーチン政権には負けを認めるつもりは毛頭ありませんし、それくらいなら第3次世界大戦を選ぶ覚悟があるように感じられるのです。この覚悟を軽く見てはならないと思います。
ところで、先の第2次世界大戦は足掛け5年の長期にわたり、広島・長崎への原爆投下によって終わりました。しかし第3次世界大戦は核兵器の使用によって始まり、短期に決着がつくものと想像されます。そしてプーチン大統領は、核兵器の使用を再三ほのめかしています。たとえば、2018年10月18日のバルダイ会議(毎年開かれるプーチン大統領とロシア内外のロシア専門家による懇談会)で、司会者から核戦争の可能性を問われたプーチン氏はこう答えました。「もし侵略者がロシアを核攻撃すれば、我々は殉教者として天国に行くでしょう。一方彼ら(アメリカ人を指す)は、のたれ死にするだけです。」ここで聴衆から笑いが起こりました。みな悪い冗談だと思ったのです。しかしプーチン大統領は真顔でした。
しかしこれは今ほど緊張が高まっていない3年半前の発言ではありませんか?
ところが今、ロシアの人々がこの発言を改めて想起しているのです。たとえば4月26日のロシア国営テレビの討論番組で、著名な2人のジャーナリストがプーチン大統領の発言を肯定的に受け止めている点に注目したいと思います。
まず、マルガリータ・シモニャン女史がこう発言しました。「個人的には、(目的を達成する)最も現実的な方法は第3次大戦だと思う。ロシア国民や指導者のプーチン、そしてこの国のしくみを考えれば、諦めることはあり得ない」 「それよりは、一発の核攻撃で全てが終わるという結末の方があり得ると思う。考えると恐ろしいが、一方では、そういうものだと理解もしている。」
これに対して司会者兼ジャーナリストのウラジーミル・ソロビヨフ氏が、「それでも私たちは天国に行けるだろう。奴らはただ死ぬだけだが」とプーチン大統領の言葉を引用したのでした。するとシモニャン氏も「どうせ皆、いつかは死ぬんだから」と視聴者に語りかけたというのです。
この2人はプーチン政権を支持する保守派の論客で、国内で絶大な影響力をもつオピニオンリーダーでもあります。そういう人たちが核兵器の使用を容認する発言を国営テレビ番組で堂々と行っているのです。そのことを重く受け止める必要があると思います。
ロシア国民もそれに同調すると見ているのですか?
いざとなれば、それも運命だと受け入れる素地がロシア国内にあるように思われるのです。プーチン大統領は「我々は殉教者として天国に行く」だろうと述べましたが、それは比喩以上の力をもって国民の胸に刺さったはずです。というのは、今のロシアでは宗教が重視されており、ロシア正教が国民の意識に及ぼす影響が小さくないからです。プーチン大統領は人々の信仰心を巧みに政治と結び付けているのです。そして、言葉は悪いのですが、ロシア正教の総主教もまた大統領に加担しているのが現実です。
4月24日、ロシアでは盛大に復活祭が祝われましたが、プーチン大統領もモスクワ市長とともに救世主キリスト大聖堂で行われた儀式に出席し、「キリストは甦り給えり」と復唱したそうです。
実のところプーチン氏にどれほどの宗教心があるのかわかりませんが、ロシア国民の多くが神を敬い、その加護を信じています。かりに核戦争が起こっても、ロシア民族が滅びることはないとの信念があるのではなかろうかと推測します。つまり、今のロシアはプーチン大統領の独裁国家というだけでなく、一種の「宗教国家」になろうとしています。政教の一体化が進んでいるのです。その意味では戦時中の日本と似ています。このままロシアを追い詰め、孤立させることは、ロシア国民を核戦争という終末思想へ駆り立てる結果になりはしないかと危惧します。
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