ロシア軍がウクライナへの侵攻を開始したのは2月24日。それから早2ヶ月が経とうとしていますが、戦争は終りそうにありません。それどころかウクライナのゼレンスキー大統領はCNNのインタビューで、ロシアは戦術核を使うかもしれない、世界中がそれに備えるべきだとの警告を発しました。
人類は第三次世界大戦に向っているかのような不安を禁じ得ません。この先、世界はどうなるのでしょうか?
ウクライナという主権国家に対し一方的に軍事侵攻を行ったロシアに非があることは明らかです。そのことを大前提として述べるのですが、そもそもこれは、世界を巻き込むほどの戦争だったのか。その点をもう一度振り返る必要があります。
それはどういうことですか?
2月24日、軍事侵攻を開始するにあたってプーチン大統領は、自国民に次のように述べています。「ドンバス地域の人民共和国はわれわれに、支援を求めてきました。それに応じて……わたしは特別軍事作戦を行う決定を下しました。その目的は、この8年間キエフ政府によって侮辱的行為と虐殺に晒されてきた人々を守ることです」
プーチン氏があえて戦争と言わず「特別軍事作戦」と呼んだことにも、今日のような大規模な戦闘を想定していなかったことがうかがわれます。現に最初の1週間の戦い方はいかにもお粗末で、いったんチェルノブイリ原発を押さえてはみたものの、そのあと何をしたいのか曖昧模糊としたまま結局は撤収し、「作戦」の原点に立ち返ってドンバス地域の攻略に主力を注いでいましたが、今日のニュースによれば、また再び攻撃対象を拡大し始めたようです。想像以上にウクライナ政府軍が屈強で、NATO諸国の軍事支援が強力なため、ロシアとしてもこの「作戦」の終らせ方が分からなくなっているのでしょう。
ただし、繰り返し述べるなら、この戦争はドンバス地域と呼ばれるウクライナ東部を対象とした限定的なものだったのです。
国際社会を巻き込むような戦争ではないということですか?
こう言えば語弊がありますけれど、発端は旧ソ連構成国同士の内輪もめ、2つのスラブ民族同士の仲違いだったと思います。安全保障の観点からいえば、紛争は局地化し、極力拡大させないことが肝心です。卑近なたとえ話をすれば、どこかで火事が起こったとします。一番になすべきことは延焼を防ぐことでしょう。ところが今日の欧米諸国の対応は、燃えている家にガソリンを注ぎ、その町内、さらには都市全体を火事に巻き込もうとしているかのようです。
ではウクライナを見殺しにしろというのですか?
見殺しとは言いません。そのためにロシアに経済制裁を科するなど、非軍事的な策を講じるわけです。しかし、ウクライナへの軍事支援は本当にウクライナ国民が望むことなのか。すでに国民の三分の一が家を失い難民になっています。もはやウクライナは国家の体をなしていません。まさに国破れて山河ありの状況です。
ウクライナのことは措くとして、スラブ国同士のいざこざに、日本が好んで巻き込まれようとしていることに危機感をおぼえます。
それはどういう意味ですか?
河野太郎氏(自民党広報本部長)はテレビに出演し、「NATOを太平洋、あるいはインド太平洋に広げていって、そこに皆で加盟するという議論もできる」と述べました。
愚かしい暴論です。それが実現すれば、欧州の局地的な紛争がたちまち極東にまで連動し、日本をも巻き込む世界戦に発展してしまいます。ローカルなもめ事はローカルなレベルで鎮静化せねばならないはずなのに、なぜグローバルな紛争に拡大させる必要があるのか。しかし日本政府は、河野氏の発言のとおりに動こうとしています。4月7日、林外務大臣はNATO外相会合に出席し、日本の連携を約すスピーチを行いました、ことによるとわが国も、遠くない将来NATOの一員になるのかもしれません。
それは日本の国益にかなうことなのではありませんか?
欧州の紛争が日本を含めた極東を巻き込むことが日本の国益につながるのでしょうか。ついでながら言えば、NATOの極東への拡大に対しては、ロシアも警戒心をあらわにしています。たとえば、ロシア紙「コメルサント」(4月6日付)は、「NATOは極東に拡大する」という見出しで大きな記事を載せています。
また、ロシア紙「アルグメンティ・ニジェーリ(週刊論調)」(4月7日付)も、「NATOは極東への拡大計画を声明」との記事を掲載しています。
ロシアの敵意をことさら日本に向けることが国益に資するのかどうか、われわれは冷静に考える必要があります。
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