ようやく暖かくなってきました。自然界の活動も活発になり、いよいよ春本番ですね!
△~○寒空や一点輝く明けの星 作好
【評】寒空に輝く明けの明星は孤高を持するようですね。中七が字余りです。「一つ輝く」「高く輝く」「低く輝く」など7音のなかでさらに工夫してみてください。
△めぐりくる風も新たに「早春賦」 作好
【評】「早春賦」を口ずさんでいるのですね。上五中七が漠然としています。俳句はできるだけ具体的に詠みましょう。もっと丁寧に風の吹き方を描写するのも手です。
○呼びかけに眼鏡すべらす日永かな 美春
【評】振り向いたとたん、眼鏡がずり落ちたのでしょうか。俳諧味たっぷりですね。長閑さを感じさせる季語もよく合っています。
△~○山のぼり負けぢと赤き春帽子 美春
【評】「負けじ」と表記します。「春」は帽子よりも山のほうに結びつけたほうが句柄が大きくなるように思います。「春の山負けじと登る赤帽子」など。
△端数買ふ一円切手多喜二の忌 マユミ
【評】たとえば郵便局で9円のおつりがあったので、それを1円切手にしてもらったのでしょうか。また、それがなぜ多喜二の忌とつながるのでしょう。うまく読み解くことができませんでした。
△めばる煮て太公望の子を待てり マユミ
【評】太公望とは一般に釣りをする人、または釣り好きの人のこと。お子さんもその一人なのですね。子供が釣った魚を持ってきてくれるのを待っているというのであればわかるのですが、なぜ先にめばるを煮ているのか。釣れずに帰ってくることを見越してのこと、、、ではありませんよね。
○耳破れ足を引きずり恋の猫 白き花
【評】一途な「恋」のために死闘を繰り広げたのでしょう。この激しさは野生の猫ならではですね。
○いぢらしや頸を見せる黄水仙 白き花
【評】「頸」は「うなじ」と読むのですね。俳句では主観的な語を避けるのが原則ですが、この「いぢらしや」は実感がこもっていて共感できました。
○声変はり始まる気配桃の花 妙好
【評】まだ声変わりは始まっていないけれど、本人も何となく違和感をおぼえているのでしょう。その微妙なところを「気配」としたのですね。男の子だと思うのですが、とすると、この季語が合っているのかどうか判断に迷うところです。
◎余寒なほ干物の眼睨みをり 妙好
【評】俳諧味がありながら、余寒ならではの晴れ晴れとしない気分をうまく描写した句だと感じ入りました。
◎アカペラの喜寿のコ-ラス春の興 音羽
【評】「春の興」とは春の興趣、あるいは春ならではの楽しみを指す季語で「春興」とも。「喜寿」にしみじみとした味わいがありますね。
○~◎ゲルニカの馬嘶けり春愁 音羽
【評】ロシア軍のウクライナ侵攻を念頭に詠まれた句ですね。わたしもピカソの「ゲルニカ」を想起しました。「春愁」よりもっと大きな憤りを禁じ得ませんが、その気持ちをどんな季語に託せばいいのか。抑え気味の「春愁」くらいがいいのかもしれません。
△~○青き踏む土手に山河を一望す 恵子
【評】地理的な言葉は「山河」だけにし、「土手」を消したほうがすっきりします(「土手」だと「河」とも重複しますし)。「青き踏み母郷の山河一望す」等ご一考ください。
△亀鳴くや小さき波立つ放生池 恵子
【評】お寺の池でしょうか。亀はほんとうに鳴くわけでなく、これは俳諧味のある季語ですので、それに見合う情景が必要だと思います。池にさざなみが立つのは割と普通のことですので、もうすこし変った景がほしいところです。あるいは(冬の季語になりますが)「笹鳴や」など、鳥獣のリアルな鳴き声を取合せるのも一法でしょう。
◎半世紀皺ひとつなき夫婦雛 万亀子
【評】自解によると金婚式を迎えられたとか。おめでとうございます。皺のあるなしで自分たちと夫婦雛を対比させながら、無常観に浸るのでなくあくまでも朗らか。すてきな記念の一句です。
○~◎茜射す富士の裾野の百千鳥 万亀子
【評】柄が大きく、華やぎのある句です。「裾野や」と切れを入れたら完璧です。
△誕辰を祝ふ三月十日の忌 徒歩
【評】「忌」とありますので、三月十一日でしょうか。字余りになりますが「誕辰を祝ふ三月十一日」としてみました。しかしこれでは誕生日とずれてしまいますね。(追記:掲載後、徒歩さんから三月十日は東京大空襲の日だと教えていただきました。)
○自転車と並んで寝たる春野かな 徒歩
【評】春の野に自転車を寝かせて置いたのですね。のどかな景です。
○灯台へ朝日の帯や和布刈舟 布子
【評】「朝日の帯」が帯状の長い和布とも呼応して、技巧的におもしろい作品です。まばゆい春の海が見えてきました。
△路地に見る町屋二階の内裏雛 布子
【評】「路地に見る」が説明的でたどたどしい感じ。「町屋二階」も表現が窮屈です。俳句は省略の文学。「町屋」と「内裏雛」だけで組み立てたほうがよさそうな気がします。
◎内裏雛向かひ合はせに納めけり 多喜
【評】箱に収められても、これから1年内裏雛は向き合って過ごせるわけですね。心温かくなる句です。
○花冷えや不意の竜頭の空回り 多喜
【評】「不意の」がややわかりづらいように思います。「花冷や竜頭を巻けば空回り」。
○塀に飛ぶいとも身軽に孕猫 織美
【評】三段切れになっているのが惜しい。「軽々と塀に上れり孕猫」など、もう少し推敲してみてください。
△春愁や死語となりしか不精髭 織美
【評】「無精髭」は今でもよく使いますよ。内容のことはともかく、断定したほうが俳句らしくなります(「俳句は断定の詩」とも言われます)。「春愁や死語となりたる無精髭」。
△くさめして黄粉吹き出す蕨餅 智代
【評】「くさめ」は冬の季語ですので、誤解を避けるためには季語となる語を先に出したほうが賢明です。上五が字余りになりますが「蕨餅の黄粉吹き出すくさめして」など。
○蕗の薹水染み出づる山道に 智代
【評】きちんと写生が出来た句です。もしかすると「蕗の薹水染み出づる山際に」かもしれませんね。道だと人がすでに踏んでいそうですので。
○天地人に祈る停戦梅の花 永河
【評】ウクライナの惨状をみると、まさに「天地人」に祈るほかない気持ちですね。戦地の人々に捧げる句として、このままの形で残してほしい真情の流露した作品です。
◎幾山河越えて異国の朧月 永河
【評】漢詩を思わせる格調の高い句です。ウクライナ自体は平坦な地形ですが、そうした時事的ニュースを離れ、より普遍性をもった作品として受け止めました。
△~○すれ違う猫やタンポポ見つけたり ゆみ
【評】のどかな雰囲気の句ですが、猫とたんぽぽの関係をもっとはっきりさせましょう。一案として「すれ違ふ猫たんぽぽの絮をつけ」など。なお、和名の植物は平仮名か漢字で表記してください。
○春日向湿りほど良き犬の鼻 ゆみ
【評】写生の行き届いた句です。一つ技法的なことを言いますと、上五と下五の両方が名詞ですと調べがやや窮屈になりますので、どちらかに変化をつけるのがよいとされます。たとえば「うららかや湿りほどよき犬の鼻」とすると一句にゆとりが生れます。
○釦止め旅人めけり春コート あみか
【評】ボタンを留めているのは、外界に対し心を閉ざしているからかもしれませんね。旅人すなわちヨソ者気分なのでしょう。巧みに心理の綾を詠んだおもしろい句です。「釦留め異邦人めく春コート」とするとまた別種の趣が出そうです。
○~◎沈丁や老舗自慢の刀疵 あみか
【評】いかにも京都の老舗にありそうな情景ですね。「自慢」まで言わず、「沈丁や老舗旅館の刀疵」くらいでいかがでしょう。旅館ではないかもしれませんが。
◎沈丁のほのかに匂ふ母の部屋 ちづ
【評】この沈丁は外から匂ってくるのでしょうね。落ち着いた、趣のある句です。
○春めくや縁側で猫丸くなる ちづ
【評】月並みな情景で新鮮味には欠けますが、着実な写生句です。
○春日差し川辺の鯉の動き出す 千代子
【評】どう動き出したのか、もう一歩写生を深めるとオリジナリティーが出ると思いますが、とりあえずけっこうでしょう。
△~○春の昼甘くただよふ朴葉焼 千代子
【評】「ただよふ」のは朴葉焼そのものでなく、その匂いですね。そのへんをもうすこし正確に表現するなら、「春昼や甘き匂ひの朴葉焼」でしょうか。
○鶯や妻と一緒に聞き明かす 慶喜
【評】「聞き明かす」とは夜が明けるまで聞いたということでしょうか。とするとなかなか艶っぽい句かもしれませんね。雅な雰囲気を出して「吾妹子と鶯のこゑ聞き明かす」としてみたくなりました。
△朝日さす子らの燥ぐは雛祭り 慶喜
【評】「燥ぐ」には見下した語感がありますので、避けたほうが無難です。うまく添削できませんが、とりあえず「子ら集ふ雛の間にさす朝日かな」としておきます。
△~○見つけたり慌てん坊の桜花 久美
【評】文語と口語の混在が気になりますが、童心で作られたすなおな句ですね。すこし格調高く詠めば「早咲きの一輪の花震へをり」でしょうか。
△如月や命日の伯母偲びたり 久美
【評】命日に故人を偲ぶのは当然ですので、もう一工夫ほしいところです。まったく別の句になってしまいますが、「空耳に亡き叔母のこゑ梅二月」などと考えてみました。どんなふうに偲んだのか、具体的に描写できるといいですね。
次回は4月5日(火)の掲載となります。前日(4月4日)午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武