２週間前の木曜日は、カナリア倶楽部の執筆をお休みさせていただきました。その前の土日が大学入試共通試験の実施日で、試験監督の業務があったためです。入試監督は複数名で担当しますが、今年は初めて主任監督者をしなければならず（そういう年齢になりましたね…）、いつにも増して緊張しました。年末年始から時間を作っては大部のマニュアルを読み、頭に叩き込む日々でした。
オミクロン株感染拡大で、もともと波乱含みでした。それでも当日は、何とか無事に終わった…と思って帰宅したら、東大前で事件が起きていたり、翌朝にはトンガの海底火山噴火で、津波警報や注意報が出る事態が発生しました。そしてさらにカンニング事件！
大学入試は国民的関心事でもあり、政治家やコメンテーターなどが、様々なことを言っています。個人的に心配なことは、「監視をもっと厳重に」という意見が、変な方向に盛り上がってしまうことです。
もちろん監視は必要です。しかし現在でも、かなり厳しい監視体制をとっています。例えば（過去に受験生がトイレに行くと言って問題用紙を持ち出す事件があったことから）受験生がトイレ退出をする際にも、ギリギリのところまで監視担当の職員がついていったりします。これ以上、厳しくするのは無理です。
（当該の過去の事件はこちら）

また大多数の受験生はまじめに受験しているわけです。同僚が遭遇した事例ですが、緊張のあまりに倒れてしまう人もいるのです。持ち物検査をするべきと主張した政治家もいましたが、受験生への疑念を丸出しにしたような態度を監督者がとることが、入試とはいえ教育機関がやるべきこととは思えません。
ちなみに、10年以上前になりますが一度、カンニングの研究をしているという方とシンポジウムでご一緒したことがあります。（入試ではなく）大学の期末試験でカンニングをしたことがある学生にインタビューをしておられました。その先生自身も意外だったと言っておられたのは、彼・彼女らがカンニングをする動機は、「単位が足りずに追い詰められたから」ではなく、一種の冒険心のようなものだということでした。ただこのときの研究は、入試ではなく期末試験を対象としたものでしたし、「インタビューに協力を申し出てくれたカンニング経験者」というバイアスもあったのかもしれません。協力者の秘密は厳守されるとは言え、誰もが協力しようとは思うわけではないでしょう。
ちょうど最近に、仮面浪人をしている人たちにインタビューをした論文を読みました。実際には多様な仮面浪人としての過ごし方があり、どういう気持ちでいるかも人それぞれではあります。しかし少なからぬ仮面浪人生は、大学生活を送りながら自身を受験勉強に駆り立てるために、大学の同級生を見下して「私はあなたたちとは違う」と強く思うようになるそうです。仮面浪人を始めたときは、「（第一志望大学を）次に受験しても落ちたら、この大学に通い続ければよい」と思っていたのですが、「こんな大学には絶対に残りたくない」という気持ちが高じていきます。報道によれば今回カンニングをした人は、仮面浪人をしていたようですから、かなり思い詰めていたのかもしれません。
けれども、「カンニングに成功して合格する」ことは、本当にお得なことでしょうか？大学にせよ、就職や資格試験にせよ、合格したら終わりではありません。その後の方が長いのです。不正な手段を使って合格した報いは、必ずやってくると思った方が良いのではないでしょうか。
そしてなによりも、カンニングは見つかったら大変なことになります。警察沙汰になったり、（学内の）懲戒の対象になることもあります。
カンニングなどやっても、少し長めの目で見れば意味はない、そういう事実こそが何よりもの抑止力なのだと思います。ただこんなことを、心理的に追い詰められている受験生に言っても、届かないのだろうなあとも思い、いったいどうしたものなんだろう？と思っています。
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西垣順子＜大阪市立大学　大学教育研究センター＞
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「（寺じゃないけど）てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案（法律文化社）」「大学評価と青年の発達保障（晃洋書房）」（いずれも共著）など。