Weekend Review~「JR上野駅公園口」

今年の年末年始も各地で炊き出しや食料配布が行われた様です。柳美里の「JR上野駅公園口」を読んで、ホームレスの人達はどの様にして新年を迎えられたのか気になったりもしますが、特別なアクションを起こす訳でもない自分がいたりもします。全米図書賞を受賞して注目されたのは、アメリカでも身近な問題だからでしょう。啄木の時代から東北の玄関口としてシンボル的存在の上野駅。高度成長期に福島から出稼ぎに来て建築現場で働き続け、家族と共に過ごした時間は少なく、故郷に戻ると息子や妻は他界し、再び東京に戻って上野でホームレスとなった男性が、その生涯を振り返るモノローグ。東北の風景や暮らし、東京大空襲の生き残りというシゲちゃんが語る上野の今昔等、昭和を生き、日本の成長を支えた人達が、人生の終盤に見る光景を追体験するようで、そのリアリティに圧倒されました。
この小説からは市井の人々の声を詳細に取材したことが伝わって来ます。登場人物たちが語るエピソードは、おそらくそれに近い話を聞いてアレンジしたのであろう、彼らの思いを伝えずにはいられない作家の執念みたいなものを感じます。皇族が上野を訪れる度に行政が「山狩り」と呼ばれる特別清掃をしてホームレスを締め出し、段ボールハウスを撤去して、その実態を見せないようにするそうです。主人公の男性と、その男性と同じ日に生まれた天皇(現在の上皇)の2人の対比が際立つのですが、主人公は息子も皇太子(現天皇)と同じ年に生まれたことから、息子に「浩一」と名付けるなど親近感を抱いています。排除される状況になっても尚、御料車を待ち、皇室に憧れてしまう日本人の性を感じました。低所得で搾取される側の人達にもアベノミクス支持者が結構多かったのも似たような心理なのでしょうか。彼らがよく言う「日本スゴイ」は日本がスゴくなくなってからの風潮だと平野啓一郎さんが書いていて、私も同意しますが、主人公の様にかつてスゴかった日本を支えた世代が年老いて、感謝されることもなく生活に苦難を強いられているのが、何とも理不尽だと思うのです。コロナで失業して家賃が払えず、30代でホームレスになった男性等もいる今、誰もが他人事ではないけれど、五輪前に上野からホームレスを一掃したように視界から隠すことで問題を解決しようとするこの国で、表面的な感動や熱狂は、この作品を読むととても虚しいものに思えます。

 


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30