障害福祉とジェンダーもやもや(2)

社会福祉士資格を持っている人向けの研修会の講師をした。
基本的には、テキストに添った内容をお話することになっているが、それだけでは受講している方も「テキスト読めばわかるじゃん!」という話なので、自分の体験や問題意識などを挟み込みながら話をするようにしている。

今回は、テキストに書かれた<社会福祉士が生活において強く自覚すべきこと>として、「人間の生活は多様で一律ではない。」「自分自身の価値観や人生観をものさしとして、それを利用者に押し付けてはならない 。」ということが書かれている部分を説明するときに、ジェンダーの問題を入れ込んだ。

90分で伝えなければならないことが決まっているので、そんなに長く話はできなかったが、事例として、「障害のある子どもの介護に悩んでいる共働き家庭の親御さん」がいて、そのことについて支援者がケース会議で話し合う場面を取り上げた。

障害児のいる家庭が福祉サービスを利用する際、利用に応じて負担金を支払うことになるが、その金額は所得に応じて上限がある。その上限金額は受給者証に載っているため、支援者たちはおおまかなところで、「この家は収入が多いんだな」と言うことは知ることになる。(細かい金額はわからない。)

このような共働き家庭についてケース会議の際、「収入がそこそあるんだから、母親が仕事を辞めて子どもを介護すればいい。」という意見が出されることがある。私はあまり経験したことがないけれど、地方で働いている友人はこのような場面によく遭遇するという。

逆はあまり聞かない。「収入があるんだから、父親が仕事を辞めて子どもを介護すればいい。」という話はあまり聞かない。
「私はあまり遭遇しないけど、都市部だからかな?」と友人に話したら、私より大都市に住む友人は「そんなことない!ここでもいっぱいある!」と言っていた。都市と地方という問題でもなさそうである。

ここにやはり、「ケアするのは誰か?」という問題がある。

そして、仕事は収入だけのためにしているのではない。

昭和50年の最高裁判所の判決にも以下のようなものがあるという。
「職業は、人が自己の生計を維持するためにする、継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己の持つ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値と共に不可分の関連を有するものである。」
(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)

つまり、職業は私達1人1人の人格的価値の発現する場でもある。どんな仕事で社会と繋がっていられるかは人それぞれであり、収入があるからやめたらいいというものでもない。

ジェンダーギャップ指数120位の国で生きてきた私たちは、自分でよほど強く意識しないと、「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」という意識を内在化してしまっている。私自身がそうだ。その価値観が、つい、ケース会議などの場でポロリと出てしまうことがある。
社会福祉士は人の生活と人生に深くかかわる仕事であるからこそ、さまざまな価値観や人生観に思いを寄せて考えなければならないし、新しい時代を生きる人たちのことも勉強し続けなければならないと思う。

*本の紹介*
「ケアするのは誰か?―新しい民主主義のかたちへー」
著者:ジョアン・C・トロント 著・訳:岡野八代

ジョアン・C・トロント 1952 年生まれ 政治学者
大学新聞のある学生の記事
「子育てにしか関心がない女性と結婚したい」
⇒ケアをめぐる根深いジェンダー化・従属化 への気づきケアする民主主義を提唱

 


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About 坂本彩 41 Articles
坂本彩(彩社会福祉士事務所) 大学卒業後、20年間、知的障害のある人とかかわる仕事をする。2017年に、独立型社会福祉士事務所を開業。福祉施設のアドバイザーや研修講師、成年後見人の受任、大学の非常勤講師などをしている。障害のある人もない人も一緒に「学び合いの空間づくり」をしていきたい。社会福祉士、介護福祉士、障害者相談支援専門員、そのほか、漢方養生士指導士、漢方スタイリスト、薬膳アドバイザーの資格も持つ。