前回の続きです。
いよいよ、食事の時間になりました。
お食事は2回、交代で食べました。1回目、障害のある人は、全員「お客様」として、サービスを受けます。
「次に自分がサービスの仕事をするので、どんな仕事をするのか、よく見ておいてくださいね」と伝えました。
「本物」にこだわるので、手抜きは一切なし。いつもの営業と全く同じ空間、同じテーブルセット、メニューカード。
コースは、
前菜(蕪、柿、鰆、黒米)
パスタ(九条葱、雲子、柚子、スパゲッティ)
メイン(きのこ、牛蒡、大山ハーブ鶏)
デザート(栗)
飲み物(コーヒー、紅茶、ハーブティ)
お客様として、プロのサービスをきちんと受けて食事をしました。
1時間くらいで食事が終わるかなと思っていましたが、参加者がみんな、すごく一生懸命サービスマンの人に質問するので、気がついたら1時間半が過ぎていました。
食後には振り返りでみんながそれぞれ「おいしかったもの」をはっきり答えたのに少し驚きました。
最初のオリエンテーションで緊張のあまり泣いていた人も「おいしかったのは、スパゲッティ」とはっきり答えることができました。
そしていよいよ。
お客様役が席について、障害のある方がサービスをする側になる時間が来ました。私はお客様役です。
ベテランチームと新人チームに分かれて指導にあたってもらいました。私は新人さんチームのサービスを受ける席に着きました。新人さん2人が担当する障害のある方は、一人は知的障害も難聴もある方。もう一人は脳性まひの方。
まず、私がすごいな、と思ったのは「おしぼりの説明」
サービススタッフの方は障害のある方に、「お客様にリラックスしてもらうために、香りで臭覚に訴えかけたり、暖かさで手の触感に訴えかけたりして五感で感じてもらいます。」と言うような説明をされていた。
「そうなのか~」と私が驚いた。おしぼりひとつをとってもそう思って、お客様に届けるのと、何も思わないで届けるのは全然違うと感じました。
そして、そのサービススタッフの方は、仕事の説明ひとつひとつをはしょらないで、全部、ちゃんと伝えようとされていました。うまく伝わらなくても、方法を変えて、なんどもなんども繰り返し説明する。
最初は緊張していた障害のある方の顔が、お料理をひとつ運ぶたび、お水を1回入れるたびに、自信を持ってくるのがわかりました。緊張の中に「できる」という思いが生まれてくる。できた時の「できた。」という顔。
デザートはモンブランとアイス。その上に「これなんだ?」という葉っぱのようなものが乗っていました。
「葉っぱに見たてたものは、栗のクリームを延ばして焼いたものです。」とサービスの人が言えるように横でサポートしてくれるのだけど、障害のある方が何度聞いてもどうしても憶えることができませんでした。するとスタッフの方は考えて、「栗の」「クリーム」と短く切って伝えられました。
他のお料理はわりと憶えることができていた彼女が、難しかった言葉。「栗のクリームをのばして焼いた」というのは、私もなかなか想像が難しいもの。「どんなふうにしているのか?」絵がなかなか浮かびにくいと思いました。 そこで、彼女の頭の中に映像としてイメージできなかったのかなと思いあたりました。
私たちは、言葉で会話をしていても、頭の中に「映像」を思い浮かべています。その映像と言葉と音をセットで記憶として残します。その映像が浮かばなければ、
「クリノクリームヲノバシテヤイタ」という文字列の暗号を憶えるような作業になってしまうのかなと思いあたりました。
そう考えると、人に話をするときは、頭の中に映像が浮かび上がるような説明をすることが大切だなと感じました 。
<続>
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