「唐辛子って、あの、障害者の農業やってはるとこで、作ってはらへんかな?」
京都岡崎にあるイタリアンレストランcenciのスタッフのそんな一言から始まった「柚子唐辛子」があります。
滋賀県栗東市で自然農法による農業に取り組む障害者福祉事業所「おもや」で、唐辛子を作り、
滋賀県大津市で40年前から障害のある人の「生活」「仕事」の場を作り続けている「瑞穂」で加工しました。
レシピはcenciのスタッフが考え、障害のある人に作り方を伝え、できあがりました。
この柚子唐辛子プロジェクトのきっかけは、2014年にさかのぼります。
当時、新しいレストランの開店準備のために前のレストランを退職していたのが、現cenciオーナーシェフの坂本健でした。(私の弟です。)私から「障害のある人の仕事体験のような企画をしたい。」と協力をお願いしました。
滋賀県にある福祉施設の交流スペースを借りて、初めての「サービスマン体験講座」をしました。
私は「本物」、ごっこじゃない「本物」にこだわりました。
その頃の私は、まだ、「本物」にこだわる意味に自分自身で気がついていませんでしたが、なぜか、私はすごくこだわっていました。「本物であること」に。
お料理の材料も本物。
-自然農法にこだわったオーガニックの野菜。
-朝、市場で手に入れた鰤。
-旬の大切に育てられた食材を使ったデザート。
そして、本気で料理が大好きで、おいしいものを人に食べさせたいプロの料理人。
ピリッとした空気を出すために、衣装を探しまわりました。
着慣れないスーツを着て少し緊張した顔で参加する障害のある人。
始まる前は、私も弟も「社会貢献活動」のようなつもりでした。
でも、終わってから感じたことは、
「これ、どっちかがどっちかに提供するとかそういう一方的なものじゃないな」ということでした。
そこには、双方がかかわりあうことによって生まれる新しい「何か」がありました。
そして、2017年。店をオープンして3年目を迎えた弟から「前にやった、サービスマン体験のようなことをしたい。」「自分たちの勉強になるからやりたい。」「僕が言葉で何かを伝えるより、何倍も伝わるものがある。」と声がかかりました。その時には、もう社会貢献活動という話ではありませんでした。「相互研修」として、スタッフの研修であり、障害のある人の研修である「学び合いの空間づくり」が始まりました。
その時は、障害者福祉施設「瑞穂」に通う障害のある方4名が参加してくれました。
事前打ち合わせの中で、
「障害の内容はあまり詳しく事前には伝えないでおこう。相手に出会って、どんな人か理解しようとして働きかけることが大切。初めてであった相手と波長あわせをする。言葉で伝わらなければ、どうやって伝えるか考える。それが大切。」
と言う話になり、サービススタッフの方にはカンタンに「知的障害」や「発達障害」や「脳性まひ」の人がいます。と伝えるのみにしました。
最初はオリエンテーション。ひとりひとことずつ「私にとっての働くこと」を話してもらいました。ここでも面白い話がたくさん出てきました。
<私にとっての働くこと>
「社会の中での自分の立ち位置を作ること。」
「毎日を楽しむため」
「自分を豊かにするため」
「将来に向けての準備」
「仕事は人に喜んでもらえること。僕にとって、仕事と喜びは常にいっしょにある。」
「家族を養うためであり、自分のやりたい仕事でできている。」
「長い時間を過ごすのだから、お金だけじゃない。楽しめる事、自分が勉強になること」
「全力で遊んでいる感覚。その結果が社会に波及することがおもしろい。」
「自分を高めたい」
「楽しいことと、生きていくためのお金を得ることの間くらい」
「人の役に立ちたい」
「ひとり暮らしをしたいからお金を稼げるようになりたい」
「仕事がなにかまだわからないけど、人と触れ合うことは好き」
こういう機会でもなければ、同僚や仲間が何思ってこの仕事を選んで、働くことにどんな思いをもっているか、聞くことも少ないと思います。
「そうやったんや。」とあらためて感じあえた時間でした。障害のある方にとっては、社会で働く人の思いを聞く機会にもなりました。
まず、この企画の導入として「働くこと」と正面から向き合う気持ちを作ってもらおうとしました。
ちょっと場の緊張感が高かったためか、発達障害のある参加者が、泣きだして何も言えなくなってしまったという場面もありました。
オリエンテーションを終え、いよいよ、食事の時間になりました。
<続>
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