「カナリア俳壇」34

またコロナ禍がぶり返し、大雨で甚大な被害が出ている昨今、わたし自身、気が重い日々を過ごしていますが、皆さんのご投句に励まされます。
さっそく鑑賞に移りましょう。

△水草の中へすいすい目高かな    蓉子

【評】「すいすい目高かな」が調べとしてよくありません。「水草の中すいすいと目高たち」くらいにしておきましょう。

○合掌家蛙の声に囲まるる    蓉子

【評】これは素直な写生句でけっこうです。さぞ賑やかなことでしょう。

○ジョギングの頬に夜風の梅雨湿り    音羽

【評】夜にジョギングする人たち、いますよね。実際には音羽さんが走っていなくても、こんなふうに自分のこととして作って下さるのは全く構いません。むしろ臨場感が伝わってきます。

△~○蒲の穂の夕風に揺れまそほ色    音羽

【評】「夕風」ですから「揺れ」は言わなくても済みますね。「蒲の穂」と「まそほ色」はもっと近づけたいところです。「夕風に染まり蒲の穂まそほ色」でどうでしょう。

△~○跳び弾み子蛙谿を目指しけり       永河

【評】蛙の子はおたまじゃくしなので、蛙はもう子ではないと思うのですがどうなんでしょう。蛙の生態がよくわからないので、当てずっぽうの添削例となりますが「谿目指し小さき蛙跳ね出せり」と考えてみました。

○波崩れ龍翔つ如し出水川    永河

【評】迫力のある句です。「波崩れ」ですと、上から下に力が働き、「翔つ」力を殺いでしまう感じですので、たとえば上五を「波割つて」などとするのも一案かと思います。

△今時の目高は赤に白に黒    白き花

【評】「今時の」と言ったとたん、詩情は消えます。「赤と白黒き目高も藻の陰に」等、もっと素直に詠めば俳句らしくなります。

△長雨のあいまに蝉が御降臨    白き花

【評】「御降臨」では詩が台無しになります。「長雨の合間に蟬が声張れり」など、ひねらず、素直に詠むのが一番です。意図してひょうきんに作る必要はありません。

△夏見舞ふ百超す婆の上機嫌    マユミ

【評】「夏見舞ふ」がどうでしょう(名詞の「夏見舞」はありますが)。また、夏見舞いをしたのは作者でしょうか、「百超す婆」のほうでしょうか。その点が曖昧です。「上機嫌」も抽象的。別の句となりますが、「百を越す婆の破顔や帰省子に」など、もう一工夫して下さい。

○梅雨寒や英霊殿に娘の写真    マユミ

【評】「英霊殿」を具体的に見たことはないのですが、一句の中から状況やお気持ちが十分に伝わってきました。

○風が子を追ひこし行けりねこじやらし    妙好

【評】なかなかよい句です。ただ、中七の「追ひこし行けり」が少々間延びしている感じですので、なんとかしたいところです。「走る子を追ひ越す風や猫じやらし」とするのも一法でしょうか。

△~○梅雨深し乳白色に天守閣    妙好

【評】白帝城とも呼ばれる犬山城のことでしょう。晴れた日は颯爽としているお城が、どんよりと見えたのですね。何が悪いというわけではないのですが、もう一つアクセントがほしいですね。「天守いま乳白色に梅雨の雷」など。

◎艶っぽく椎茸を煮る梅雨最中    織美

【評】どこか色っぽさもあり、作者の気持ちの張りも感じられ、たいへん結構な句です。「艶っぽく」の「っ」は大きく「つ」と表記しましょう(「艶つぽく」)。

△~○音でみる食べ頃良しと西瓜畑    織美

【評】句意はよくわかりますが、少々説明的ですね。「食べ頃を音でたしかめ西瓜畑」くらいでどうでしょう。

◎目耕の男に夏炉音を立て    徒歩

【評】「目耕」がおもしろい。黙々と本を読んでいるのですね。俳諧味たっぷりの句です。

○梅雨深し男の恋の本を読む    徒歩

【評】これもおもしろい句。情痴小説を読みふけっておられるのでしょうか。「読む」まで言わなくてもいいでしょう。余韻をもたせ「長梅雨や男の恋の物語」など、もう一工夫できるかもしれませんね。

○~◎捩花の螺旋の先の宇宙かな    万亀子

【評】下五を「宇宙」としたところが愉快。まるで螺旋から宇宙へ飛び立つようで、子供のファンタジーを思わせる句です。

△~○翡翠にパパラッチごとカメラ群る    万亀子

【評】句意はよくかわります。「パパラッチごと」が少し言葉足らずですので、とりあえず「翡翠に放列みながパパラッチ」としてみました。

△~○野球の子声左右から夏の風    ゆき

【評】いわゆる三段切れ(切れが上五と中七の二箇所にあって、句が三つに切れていること)になっていますので、まずは切れを一つにしましょう。たぶん少年野球の風景だと思いますが、字数の制限から高校球児のイメージに変更させていただき「球児らの声左右より夏の風」とすれば、とりあえず形は整います。

△カモメール朝顔好きの走り書き      ゆき

【評】第三者には今一つ句意が伝わりません。「朝顔好きの走り書き」が言葉足らずなのです。別の句になってしまいますが、「朝顔の絵も描き加へカモメール」なら通じるはずです。

○子燕の羽ひろげをり明日発つか    多喜

【評】「明日発つか」というつぶやきに、愛惜の情も感じられます。けっこうな句です。ちなみに子燕の気持ちになって作れば「明日は発つつもり子燕羽ひろげ」となりますね。

○固まりし食卓塩や半夏雨    多喜

【評】日常生活のひとこまを上手く切り取った作品です。こういうさりげないところに詩情を見出せるのが俳句のよさですね。

△雨上がり池のほとりに半夏生    豊喜

【評】わたしはよく「苦しいときの雨上がり」などと言いますが、とりあえず「雨上がり」と付ければ何でも俳句らしくなります。しかし、これは月並み表現の典型ですから、できるだけ使わないでほしいと思います。それから、半夏生は大概水辺に育ちます。句自体がステレオタイプですね。

△~○手作りのチーズケーキに凌ぐ梅雨    豊喜

【評】「に凌ぐ」がだめです。とりあえず中七で切ってはいかがでしょうか。「手作りのチーズケーキや男梅雨」など。作者は説明してはいけません。ただ言葉をぽんぽんと置くだけでいいのです。あとは読者を信じ、その鑑賞力に委ねましょう。

△飛び跳ねる亡き愛犬や雲の峰    美春

【評】「飛び跳ねる」は現在形ですので、このままですと文法的には、犬の霊がいま飛び跳ねていることになります。「飛び跳ねし犬はいづこに雲の峰」くらいにとどめておくのも手でしょう。これだけで「愛犬」であったことは十分に伝わるはずです。作者自身が自分に近しいものを「愛犬」とか「愛車」とか「愛妻」とかいうと、句がどうしても甘くなり、独りよがりになりがちです。

△休憩中蛇が横目で緩りゆき    美春

【評】句意が曖昧です。休憩している蛇が横目でじろっと見たので、刺激しないよう、美春さんがゆっくりと通り過ぎたということでしょうか。それとも、休憩中の美春さんを蛇が横目でみながら、ゆっくり過ぎていったということでしょうか。前者なら、「休みをる蛇が横目で我を見し」とすれば句意がはっきりします。

△~○船上にぶつ切り穴子くねりだす    こなす

【評】船のうえで漁師さんが穴子をさばいているのですね。「ぶつ切り」というと短く切るイメージがありますので、長さにくねるだけの余裕がないのでは、と思ってしまいます。「船上に首無し穴子くねりだす」では変でしょうか。

○とめどなく顔に汗噴く焼そば屋    こなす

【評】情景がよく見えてきました。これでけっこうだと思いますが、汗の行方も気になるところ。「顔中の汗滴らせ焼そば屋」。汗でよい塩加減になるかもしれませんね。

次は8月4日に掲載予定です。前日3日の午後6時までにご投句頂ければ幸いです。 河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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