「カナリア俳壇」32

皆さん、お元気でお過ごしでしょうか。ようやく新型コロナウイルス禍も出口が見えてきた感じですね。外出自粛しているうちに5月が終わってしまったのは残念至極ですが、6月には6月の魅力があります。それを堪能しましょう。では早速、ご投句順に作品を見てゆきたいと思います。

△小満や疫病除けの絵を貰ふ    マユミ
【評】「貰ふ」という「事」だけを示しても、「だれに」という具体的な要素がないと、読み手に情景は見えてきません。俳句は「事」によって「物」を伝えるのでなく、「物」によって「事」を伝える文芸です。「小満や疫病除けの絵を壁に」など。

△焼け跡に探す四つ葉のクローバー    マユミ
【評】「焼け跡」が見えてきません。もし火事現場だとすると、なかなか深刻な句ですね。前書きがほしいところです。

△春疾風帽子飛ばされかけよりぬ    蓉子
【評】飛ばされた帽子に駆け寄ったのでしょうね。しかし、駆け寄るという言い方でいいのかどうか。「春疾風帽子ふはりと青空へ」など、心が浮き浮きするような句にすると自分でも楽しくなるはず。俳句は自分の心を楽しくするためのものです。

△更衣愛着ありて捨てきれぬ    蓉子
【評】「更衣」ですから、もう夏服に着替えたわけで、捨てるかどうか迷うのは「更衣」の前の段階の話ですね。「愛着のあるものばかり更衣」など。

△田植え機を後追いするか鷺一羽    白き花
【評】俳句は断定の文学です。「後追い(ひ)するか」と疑問形にしてはいけません。あやふやなことを言われても、読者は困ります。「田植ゑ機の後追ひしたる鷺一羽」。

△沢瀉を入れし水槽様変わり    白き花
【評】「様変わ(は)り」と言われても、読者に情景は見えません。どう様変わりしたのか伝えるのが作者の役目です。その具体的な描写があって初めて読者は鑑賞できます。「いや、どう様変わりしたかは、読者が自分で考えなさい」では禅問答になってしまいます。

〇コロナ禍や夫の挑戦蕗ごはん    万亀子
【評】外出自粛が続いているので、「ひとつ料理でも作ってみるか!」と思い立ったわけですね。コロナ禍というと陰鬱な気持ちになりがちですが、明るく、素直に詠んでおられるところが大変結構です。

〇茹でたての蚕豆青く香りけり    万亀子
【評】これが「青臭い」だとまずそうですが、「青く香りけり」なら食欲をそそります。詩的ときめきを感じる作品です。

△野茨や歩を留めんと絡みをり    美春
【評】「野茨や」と切っているので、一読した時は中七下五の意味がわかりませんでしたが、要するに「自分が歩き去るのを止めようとして、野茨が絡みついた」ということですね。「野茨が歩を留めんと絡みけり」でしょうか。

〇尻振りて菜を食ひ荒らす毛虫かな    美春
【評】「尻振りて」に愛敬がありますね。この場合は「尻振つて」と口語調にしたほうがさらに勢いが出ます。憎めない毛虫です。

〇太宰忌や胃の腑に沁むる薬草酒    音羽
【評】正直なところ、この季語がどう薬草酒と結びつくのか解釈できませんでしたが、句の形は申し分ありません。

〇~◎あんぱんにロゴの焼印麦の秋    音羽
【評】こんなふうにロゴの焼印をつけるのは、ブランド商品なのでしょうね。このままでも上々の出来栄えですが、理屈っぽいことを言えば、パン粉は小麦から作られるので、季語が少しだけ近い気もします。

△マンションの頂見ゆる夏野かな    徒歩
【評】路上からでも、ちょっと見上げれば大概のマンションの天辺は見えますので(タワマンでも)、特に「夏野」である必要はないように感じます。たとえば「マンションの群見下ろせる夏野かな」ですと小高い丘がイメージされ、別種の趣もありそうです。

〇~◎片蔭の坂の先なる二月堂    徒歩
【評】奈良の鄙びた坂道が見えてきます。この坂を歩いたことがないため想像するだけですが、「二月堂」が効果的ですね。

〇襟元の釦外せりソーダ水    妙好
【評】ビジネスマンならネクタイを緩めるところですが、これは女性の所作ですね。寛いだ気持ちが伝わってきます。

△~〇虎が雨おもちや砂場にぽつねんと    妙好
【評】「おもちゃ」が曖昧です。ここは作者がきちんとどんな玩具か示すべきところ。でないと読み手に負担がかかります。「虎が雨砂場にシャベルぽつねんと」など。

△~〇柿若葉老いも若きも閉じこむる  永河
【評】「閉じ(ぢ)こむる」(口語なら「閉じ込める」)は他動詞ですから、柿若葉が人を閉じ込めていることになってしまいます。「柿若葉老いも若きも閉ぢこもる」ですね。ただし、新型コロナのことを知らないと、なぜ閉じこもっているのか不明です。前書きが必要だと思います。

〇石亀の上目遣ひや梅雨の入リ 永河
【評】「上目遣ひ」の屈折した心理状態が、いかにも梅雨入のじめっとした感じとマッチしていますね。俳句では極力送り仮名を省略しましょう。「梅雨の入」で十分です。

△藁敷きて初生りを待つ胡瓜かな    織美
【評】このままですと、胡瓜が藁を敷いて初生りを待っているようです。待っているのは作者ですよね。「藁敷きて初生り胡瓜待ちにけり」でしょうか。

△バーベキュー歓喜の児等に夏来たる    織美
【評】「歓喜」まで言ってしまうと詩情は消えます。織美さんは子供たちが「歓喜」しているとなぜ分かったのですか。彼らの具体的な動作から、歓喜していると受け止めたわけですね。とすれば、作者の任はその動作をスケッチすることです。「ああ、子供たちが歓喜している姿が見えるようです」と述べるのは読者の役割です。「肉野菜持ち寄る子らや夏来たる」などもう一工夫してください。

〇狛犬の喉の奥まで蔦青葉    小晴
【評】青蔦の旺盛な生命力が感じられます。俳諧味もありますね。「喉の奥まで」だと鵜飼の鵜のようですが、狛犬の場合、そんなに喉が奥深いのでしょうか。「口の奥まで」くらいでもいいような気もしますが…。

◎リモートに慣れねばならぬ螢籠    小晴
【評】まさに現代の世相を切り取った作品ですね。「慣れねばならぬ」が俳句的でなくて、却って面白い作品になりました。「螢籠」もいろいろに鑑賞できて結構です。

〇~◎怒る日の石榴の花の赤極む    えみ
【評】不思議な味わいの句です。怒っているのは作者だと思いますが、それに連動して石榴の花まで真っ赤になっていると解しました。わたしの好みとしては、動詞を一つ減らしたいところですが、「赤極む」をあえて「ざくろ色」とするのも一興かもしれません。

△~〇葉桜となりし城山鳩の群    えみ
【評】きちんと出来ていますし、何が悪いというわけでもないのですが、今一つ新味に欠けるかなという印象を受けました。

△~〇菅笠を帽子で済ます我が茶摘    豊喜
【評】一般に俳句では主語を明示しないほうが味がでますので「我が」を省き、「菅笠を帽子で済ます茶摘かな」でいいのではないでしょうか。いまでも茶農家では菅笠が主流なのですね。てっきりあれは観光用かと思っていました。

△田植え(ゑ)後の道行く車風に入る    豊喜
【評】今一つ言わんとすることが理解できませんでした。この車は田植えを終えた農家の方が運転しているのでしょうか。その自動車が風のなかに入っていった?運転手は車中にいますので、風をもってきてもあまり効果的でないように思いました。風はやはり直接肌で感じたいものです。

△~〇長屋門きびす返しの夏燕    多喜
【評】情景自体はそれほど新味がないにせよ、「長屋門」に呼応して「きびす返し」という古風な言葉を配したところが見どころでしょうか。個人的には、言葉の芸を見せるよりも、実景の感動を主とした句が王道だと思っています。

〇久久の始業チヤイムや青葉風    多喜
【評】「学校再開」の前書があります。まさに実感ですね。このように力まず、自然体で作った句が好きです。

次回は6月23日(火)にアップします。前日22日(月)の午後6時までにご投句いただけると助かります。皆さんの力作をお待ちしています。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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