寒中お見舞い申し上げます。本年最初のご投句ありがとうございます。
さっそく見てゆきましょう。
◎友誘ひ若宮さまへ針供養 蓉子
【評】名古屋の若宮八幡社でしょうか。「若宮さま」という敬愛の情を込めた呼び名がいいですね。読み手にも朗らかな気持ちが伝わってきます。
○正月や昔話に花が咲き 蓉子
【評】新年の句は一種の縁起物ですから、このように明るく作りたいですね。お正月の句として上々です。
○寒晴や年輪著き薪積んで 徒歩
【評】寒晴れにふさわしいひきしまった句です。「年輪著き」が一句のポイントだと思いますので、「薪の年輪」という具合に、年輪そのものを強調する仕立て方が工夫できるとさらに印象鮮明な句になりそうです。
○俳号で記す宿帳春隣 徒歩
【評】徒歩さんの俳号、本当にきまっています。それで世間を渡る覚悟と自信に感じ入りました。季語をもう少し冒険できるかもしれません。
◎笹鳴やデッサンの手のつと止まる 音羽
【評】やわらかな日の差し込むサンルームで画筆をとっている姿を連想しました。「笹鳴」という聴覚の季語を持ってきたところもお上手。そのあとの「デッサンの手」という視覚表現とうまくバランスがとれていますね。
△~○大鷲の車窓過れり奥琵琶湖 音羽
【評】この車窓は自動車でしょうか、それとも電車でしょうか。いずれにせよ乗り物に乗っているときに出会った光景だと思いますが、作品としてはそのことはあまり重要ではありません。「車窓」が一句の景の雄大さを邪魔していますので、省略して作るとさらによくなりそうです。
△~○空臨む光の粒や冬木の芽 永河
【評】「空臨む」が表現としてやや窮屈です。また、「光の粒」は「冬木の芽」が放ったものだと解すると、「や」で切らない方がいいですね。「冬木の芽光の粒を放ちけり」。あるいは「光の粒」が文字通り太陽の光だとすれば、「降り注ぐ光の粒や冬木の芽」とするのも一法です。その「光の粒」が凝縮して「冬木の芽」になった、という作り方にするのも面白いかもしれません。
△寒椿身体の芯に灯を点す 永河
【評】「身体の芯」とはどこであり、そのどこに灯が点るのか、具体的にイメージできませんでした。やや文学的といいますか、観念的な作りの句との印象を受けました。実感をもっと素直に、平易な言葉で述べたほうが共感を得やすいと思います。
○白菜の外葉バリバリ剥きて穫る 妙好
【評】オノマトペは句を大味なものにするのであまり勧めませんが、この句の場合は臨場感が出ていていいですね。素朴な味わいもGood!「剥きて穫る」を「剥き穫れり」とするとさらに調べがよくなる気がします。
△着ぶくれて首亀のごと朝の列 妙好
【評】「朝の列」ですから、バス停に並んでいる人々のことでしょうか。ちょっと漫画チックな描写ですね。もっとしっかり観察すれば、さらにオリジナリティーのある表現が見つかるかもしれません。
△老犬の散歩惑はす初時雨 美春
【評】「惑はす」が表現として中途半端です。老犬のどのようなしぐさから「惑はす」と感じたのでしょう。そのしぐさを具体的に描写するのが写生句の基本です。「老犬の上目遣ひや初時雨」など。
○生垣に撓む紅白実南天 美春
【評】紅白の南天の実とは、なんだかめでたいですね。このままでも結構ですが、ひらがなを入れ、もう少し読みやすくするなら「生垣に紅白交じり実南天」とするのも手でしょう。
○金ぴかの独鈷持ち上げ初不動 マユミ
【評】独鈷は密教の法具。初不動でそれを持たせてもらったのでしょうか。「金ぴか」がなんだか面白いですね。中七でしっかり切れを入れるとさらに句意がはっきりしそうです。「金ぴかの独鈷かざせり初不動」でどうでしょう。
○寒木瓜や太宰の墓に番地あり マユミ
【評】太宰治の墓がある禅林寺では入口に住所みたいな番地表示があって、どの墓もすぐ見つけられるようになっているのですね。季語の寒木瓜は実際に墓で目にしたのでしょう。あまり詩情はありませんが、面白い発見の句です。
△~○冬ざれや峡の東屋苔生せり 織美
【評】「や」という強い切れ字がありますから、下五は「苔生して」と流し、切れを感じさせない方がよいでしょう。あるいは順序を入れ替え、「苔生せる峡の東屋冬ざるる」とするのも一法です。
○茶房なき更地のくぼに薄氷 織美
【評】なじみの喫茶店が取り壊され、更地になってしまったのでしょうね。観察の行き届いた写生句です。
○薄墨の雲を茜に初日の出 万亀子
【評】元旦の美しい空が描けました。作品としては完璧ですが、類句はけっこうあるかもしれませんね。
○屋根の霜まだらに溶かす朝日影 万亀子
【評】「まだらに溶かす」というところが確かな写生ですね。言葉に無理のない素直な作りの句です。この調子で作句してほしいと思います。
△おしどりの番ひて波紋池の水 豊喜
【評】「番ひて波紋」が調べとしてよくありません。「番ひの波紋」で十分に伝わると思います。また「池の水」の「水」は不要です。池といえば水のある場所をさしますので。「おしどりの番ひの波紋幾重にも」で何となくめでたい雰囲気が出るといいのですが・・・。
△けやきの葉落ちて冬日の温くかりし 豊喜
【評】「葉落ちて」は「落葉」と同義で冬の季語ですから、「冬日」といっしょに使うと季重なりになります。「散り敷ける欅落葉に日の温み」でいかがでしょう。
△四代の元号揃ひ初写真 多喜
【評】生年の元号が大正、昭和、平成、令和と四代そろったのですね。やはり「生年」を入れないと分かりづらいように思います。元号を外して「四代の生年揃ひ初写真」のほうが通じやすくないでしょうか。ご一考ください。
○野良靴に貼り付く泥や春隣 多喜
【評】確かに野良靴に泥が貼り付くだけで春の近さを感じさせますね。「貼り付く」だけではインパクトが弱いので「野良靴に泥たつぷりと春隣」でどうでしょう。
△~○募金乞ふベンチコートのサッカー部 なま子
【評】句材は面白いのですが、まず第一に募金を乞うのは「サッカー部」ではなく「サッカー部員」ですね。また、なぜ募金を乞うのかわかりません。これが年末であれば、歳末助け合い運動に参加したのだろうと想像がつきます。「歳末のサッカー部員募金乞ふ」としてみました。
○~◎母の忌や仏間に母と夜半の冬 なま子
【評】ほんとうにお母さんがいるように感じたのですね。一字直して「母の忌の仏間に母と夜半の冬」とすれば、句意がすっきりします。
次は2月11日(火)に掲載の予定です。
皆さんのご投句をお待ちしています。河原地英武