かわらじ先生の国際講座~出口なきイラン攻撃の行方と日本

画像なし2月28日、米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始してから10日ほど経とうとしています。そもそもこの戦争の目的は何なのか?いつまで続くのか?戦火はどこまで広がるのか?そして日本への影響はどうなのか?疑問は尽きません。わかりやすく解説してもらえますか?

わたしもメディアが報じる情報を追うのみですが、正直なところ混沌としていて、まったく視界がきかないもどかしさを感じています。戦っている当人たちも先の見えない戦争に突入してしまったとの思いがあるのではないでしょうか。双方とも相矛盾する情報を発信しており、何を信じてよいのか当惑するばかりですが、当事者もまた確かなシナリオや戦略を描けずにいるのではないかと推察します。ただ、今のところはっきりしているのは、米国・イスラエル側も、そしてイラン側も、あくまで勝ちを収めるつもりであり、実際、負けることは許されない状況にあることです。負ければ政権基盤が崩れますから。

画像なし当事者たちはいずれも政権の存続をかけ、背水の陣を敷いているということでしょうか?

そんな感じかもしれません。米国のトランプ大統領はただでさえ支持率が低下しているのに、11月の中間選挙で大敗すればまた弾劾される危機に直面するでしょう。ですからイランとの戦争ではどうしても大きな成果を上げなくてはなりません。
イラン政権は最高指導者ハメネイ師を筆頭に、次々と有力な幹部も殺害され、浮足立っています。米軍やイスラエル軍だけでなく国内の反体制派勢力をも相手にせねばならず、権力の保持は相当厳しいと思います。政権内部においても、革命防衛隊などの強硬派と、外務省など政府穏健派との間の路線対立もありそうです。そのなかで、ハメネイ師次男のモジタバ師が後継者に選出されたようです。政治面での実績はあまりないようですが、国政をまとめる力量があるのかどうか未知数です。
この戦争で一番「利益」を得たのはイスラエルのネタニヤフ首相かもしれません。イスラエルの世論調査では、国民の圧倒的多数(8割超)がハメネイ師殺害と対イラン攻撃を支持しているとのことです(『讀賣新聞』3月8日)。トランプ大統領はまんまとネタニヤフ首相の口車に乗せられ、イラン攻撃に加担してしまったのではないかとの憶測もあるほどです。いずれにせよイスラエルからすれば、米軍の力を借りて宿敵イランを叩いたということなのでしょう。

画像なししかし米国にも独自の目的があるのではありませんか?

そこがよくわからないのです。そもそもトランプ大統領はイランへの攻撃に際して、アメリカ国民にテレビ演説や公式会見を行わず、その目的を語っていません。個人のSNSや欧米メディアへの個別のインタビューを通じて、何かその場の思い付きのような言葉を発するのみです。あるメディアにはこの攻撃が「2、3日で終わる」と言ったかと思えば、別のところでは「当初から4週間の予定だった」と言ってみたり、「4週間から5週間の想定だ」と語ってみたりといった具合です(『朝日新聞』3月8日)。その目的に関しても、1979年以来続くイランの恐怖政治を終わらせるためだとか、反政府デモ弾圧を問題視してだとか、核・弾道ミサイル開発阻止が目的だとか、いろいろと述べ、「米国への差し迫った脅威」を除去せねばならなかったとも言っていますが、そのような「差し迫った脅威」を米国民は別に感じていたわけではありません(『京都新聞』3月7日)。
トランプ大統領は3月6日、イランに対し「無条件降伏以外に合意はあり得ない」と断定する内容をSNSに投稿しました。また米CNNの取材には、イランの今後の政治体制が民主的である必要はないと発言し、宗教国家としての体制を存続させることは容認する姿勢もみせています(『朝日新聞』3月8日)。あからさまな言い方をすれば、ベネズエラと同様、自分の意のままになる傀儡政権をイランにつくるつもりなのでしょう。そして経済利益を最優先するトランプ氏としては、イラン産の原油利権を手中に収めたいという思惑があるのではないでしょうか。
しかしイランはベネズエラではありません。そう易々と米国の意のままになるとは思いません。しかもトランプ政権は、イランを屈服させるため少数民族のクルド人部隊を戦闘に引き込もうとしています。彼らは国境を越えて軍事活動を展開しています。そのような組織まで巻き込めば、イランのみならず中東全域の秩序をもぐらつかせかねません。

画像なしそうなると、この「イラン戦争」は長期化する可能性もありそうですね。日本にとっても対岸の火事ではありません。どのような影響が出てくるでしょう?

まず経済面の打撃を被りつつあります。イラン情勢を受けて原油先物価格が高騰し、日経平均株価が急落しています。

円安も加速気味です。3月9日22時現在、1ドル158.3円となっています。円安が進めば輸入品の値は相対的に上がりますから、物価高が進み、国民の生活は一段と厳しさを増します。京都に限っても事態は深刻で、『京都新聞』(3月6日付)は第一面トップに「中東戦火 京都経済に影」という見出しを掲げ(第11面も関連記事)、原油価格の上昇が京都企業に及ぼす問題を詳細に論じています。

画像なし政治面におよぼす影響はありますか?

今回の米国とイスラエルによるイラン攻撃は、国連憲章違反であるとの見方が多く、米国内でもトランプ大統領の行動は憲法違反との意見が強いようです(『京都新聞』3月7日)。ベネズエラのケースもそうでしたが、イランへの攻撃に関しても(同国がいかに悪しき独裁国家であれ)主権侵害のそしりは免れないでしょう。
わが国は、「力による現状の変更」に断固反対し、国際法の順守を唱えて、中国による台湾併合を強く牽制してきましたが、今回の米国の行動を容認したら、それこそ二枚舌になってしまいます。しかし高市首相は国会で、米国のイラン攻撃について「わが国として法的評価をすることは差し控えさせていただく」と発言しました。これではもう中国やウクライナを侵攻しているロシアに物が言えなくなってしまいますね。

画像なし高市首相はたしか3月19日に訪米し、日米首脳会談を行うことになっていますね?

はい。イラン情勢が一層緊迫化している時かもしれません。当然、それが会談の焦点の一つになるはずです。米軍の対イラン作戦の費用は1日あたり1400億円とも言われています。その経費を賄うために、米国としては日本側に何らかの形で分担を求めてくることが予想されます。それに高市首相はどう応じるのか注視したいところです。

横須賀基地を母港とする米イージス艦2隻がイランへのミサイル攻撃を行っているとの事実も明らかになっています。その意味では、日本はすでに米国のイラン攻撃に加担しているとも言えます。


周知のように、日本政府は早ければ4月にも、外国への武器輸出をほぼ全面的に解禁する方針ですが、それがイラン戦争に向けられる可能性もなしとしません。わが国も戦争の当事国となる方向へ着実に進みつつあるのでしょうか。3月下旬に行われる予定の日米首脳会談の重みがいよいよ増したように思われます。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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