原発の構図

かつて舟運、今は陸運。環七近くの産廃施設周辺は大型車両が絶えず行き交う

私の町は東京のゴミ箱。産業廃棄物でいっぱいだ。
一見、ただのありふれた住宅街だけど、注意して歩くと、産廃関係の施設や会社、置き場ばかり。あっちにもこっちにも。びっくりするほど。
いつのまにか知らないうちにこんなことになっていた。産業廃棄物で生きる町。ゴミを食べて生きる町。この町にとって産業廃棄物はお金である。

東京東部のゼロメートル地帯にあるこの町は、農業が盛んで、私が子どもの頃は田んぼや畑だらけだった。駅もないし、東京のくせに文化が遅れてて田舎くさく、他地域の人から「奥戸村」とか、「東京のチベット」などとも嘲られた。
農家は今も少しだけど残っていて、ロッカー式の無人販売所で採れたての新鮮な野菜を販売している。産廃施設と産廃施設の間に栗畑なんかがあったりもする。

昭和20年代まで、中川には下肥船が多く往来していたという

農業が栄えたのにはわけがあって、川に囲まれた環境であることが大きいと、あるとき参加した地元の学習会*で教わった。舟運の利便。江戸、東京との適度な距離(ここも東京だけど)。
それを好条件として、江戸、東京じゅうの糞尿が、舟でこの町に運び込まれていたそうなのだ。
江戸、東京じゅうの糞尿を肥やしとして、農業が栄えた。
私の町は昔から、東京のトイレ、ゴミ箱だったのだ。

「これは原発の構図と同じですよ」
去年の11月。この言葉を聞いてビクッとした。
福島の津島地区で行われた、「津島復興会議」の第3回**。この日の講師、飯舘村で放射能測定を続ける伊藤延由さんは、村内の森林の放射能被害の現状についてひとわたり話された後、話題を換えた。
村内では今、28基の風力発電の設置が、東急不動産によって進められているそうだ。
周辺では、すでに47基もが稼働している。低周波騒音を心配し、伊藤さんは風車近く(700m)に暮らすご老人に話を聞いた。業者が窓を二重にし、エアコンも設置してくれた。しかし風が強い時は二重の窓閉め切っても、夜中はとても寝てられない、とのことだった。
そもそも飯館村は、天気がよければ窓を開けて寝る、窓を開けて寝たい、そういう自然環境の村。それを避難からやっと戻ったのに、窓閉め切って、エアコンつけて寝なきゃいけない。それでも風が強いとうるさくて夜寝られない。
そんな環境を作ってまで、東京に電力を送る必要があるのかと、伊藤さんは問うのだった。

「電気の利便は私たち都会で享受します、被害はあなたたち村民が受けなさい。おかしいじゃないですか。これって原発の構図とまったく同じですよ」

手前が栗畑、奥が産廃

飯舘の風力発電で作られた電気はどこへ行くのか。東急不動産に確認したところ、現状ではFIT(再生可能エネルギー固定価格買取)制度により東北電力ネットワークに送電することになっているが、FIP(Feed-in Premium)への移行が検討されていて、切替後の売電先は決まっていないとの回答だった。回答に伊藤さんが言う「東京」の2文字は含まれていない。
風力発電事業に関する地元での説明会のスライド***を見ると、「地域共生」という言葉が飛び交い、一見この事業が地元に利便を呼び込むもののようにも見える。風力発電の電気は、地元でも利用されるようになるかもしれない。
だけど東北電力ネットワークは、東北東京間連系線による広域取引を拡大しているし****、東急不動産のホームページには、すでにFIP認定を受けた太陽光発電所で発電した電気は、「当社施設に供給を始めます」とあった。国内の同社施設の電力は、100%再エネに切り替えられたともあった。
東急不動産は、各地で大規模開発を進める巨大ディベロッパーである。現在渋谷では東急と連携して超大規模な再開発を行っている・・・。

東京の利便。新しい、大きいものが次々作られ、きらびやかで、便利にどんどんなっていく東京。上へ上へと、膨張を続けている東京。
そして便利になるほど、大きくなるほど大量の電力が必要になる。
でも、「自然エネルギー」なら、環境に優しい。安心・安全で、たくさん使っても誰も傷つかない・・・。

津島復興会議第3回の様子(手前が伊藤延由さん)(写真提供:木村真三氏)

伊藤さんのいう「原発の構図」とはこれなのだ。東京がより豊かになるために、地方の土地が、自然が、利用され、壊される。そのたびにその地に住む人たちが、少しの手当てと引き換えに、立ち退いたり、我慢したり、健康を害したり、しているけど、「クリーン」「安心・安全」という美名が、地方で起きている被害を隠し、見えなくしてしまう。
こんなうま~い方法で、地方と自然の収奪を続ける。まったく憎むべき、浅ましい、あってはならない構図が、「原発の構図」。東京のゴミ箱である私の町だって、本当は東京側に含まれる加害者なのだ。

かつて畑のない江戸東京のお屋敷街で暮らす人たちは、自分たちがトイレで落としたうんこが、どこに行くかなんて気にしたことがなかっただろう。
そして原発事故後、福島第一原発で作られた電気が実は東京に送られていたことは広く知られるようにはなったけど、今、東京で、自分が使っている電気がどこでどうして作られたものなのか、知ってたり気にしたりする人はおそらく、ほとんどいない。

そしてまたこの国が、海外にも「ゴミ箱」を持つことも、気にされることはほどんどない。
東京では、大きく、きれい、便利な建物、施設ができるたび、その前にそこにあったものが壊され、ゴミになる。
そのゴミは一旦私の町とかにやってくる。だけど昔のゴミのように農業に使えないし、土にも還らない。分解、仕分けされてまたどこかへいく。都内の夢の島に移るゴミもあるかもしれない。でも、それだけではない。海を越えてたくさんのゴミがどこかの国に捨てられに行く。

国民全てを加害者にするのが、原発の構図。

 

*『千ベロの聖地「立石」物語』などで有名な立石生まれの学芸員谷口榮氏を講師に、地元の高齢者クラブなどが時折地域の歴史に関する学習会を開催している。会場は大勢のお年寄りでいつも満席。

**いまだ98.4%が帰還困難区域である福島の津島地区の復興について、住民主体で考えていくための会議。毎回浪江町津島支所で開催される。旗振り役は独協医科大学准教授の木村真三氏。一般社団法人原発事故影響研究所主催。第3回は「復興庁の第3期復興・創生計画による「森林整備」とは何か?」をテーマに、飯舘村村民の伊藤延由さんの講義と住民討論が行われた。

***https://www.vill.iitate.fukushima.jp/uploaded/attachment/16166.pdfなど。

****東北電力ネットワークのホームページは、この連系の意義を「東北エリアで発電された再エネの電気を、東京エリアへより多く送ることが可能となることで、再エネの広域的な活用につながります」と説明している。
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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>
『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。


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