かわらじ先生の国際講座~日韓首脳会談の見所は?!

画像なし日韓両政府は1月9日、韓国の李在明大統領が13日~14日に来日し、高市首相の地元である奈良県で首脳会談等を行うと発表しました。日本の木原官房長官は記者会見のなかで「日韓関係を未来志向で安定的に発展させていくために、両首脳が緊密な意思疎通を行うことが重要だ」と述べ、「現在の安全保障環境では日韓・日韓米連携の重要性が一層増している」と強調しました。

韓国大統領府も「地域やグローバルな懸案に加え、経済、社会、文化など多様な分野で実質的な協力強化策を議論する」と表明しました(『讀賣新聞』1月9日夕刊)。
日韓関係は歴史・領土問題など抱えながらも、2023年春に岸田首相と尹錫悦大統領が首脳会合を行い、12年ぶりに「シャトル外交」を再開させて以来、良好な状態を維持してきましたが、今回の首脳会談でも大きな成果が期待できるのでしょうか?

果たして日本側の思惑通りにゆくのかどうか、わたしはやや懐疑的です。李大統領は先日、国賓として中国に招かれ、韓中関係を大幅に改善しました。かたや日本は中国と対決姿勢を強めています。高市政権としては韓国を味方につけたいところでしょうが、それは難しいと思われるためです。とはいえ、韓国も日本との良好な関係が大切ですから両国の友好はアピールするでしょう。だれかが「八方美人の李大統領、八方ふさがり高市政権」と揶揄していましたが、李大統領は外交上手です。日本側が満足感を得られるよう配慮することは確かでしょう。
高市首相も韓国に対しては特段の配慮を示しています。奈良での首脳会談の開催は、昨年10月韓国・慶州で開かれたAPEC首脳会談の折に、李大統領が高市首相に持ちかけたものです。高市氏もその提案を受け入れたわけですが、奈良は第一に高市首相の出身地です。そこへ招待するのは親密さをアピールする効果があるでしょう。第二に奈良は飛鳥時代に都があった場所ですが、当時、中国大陸や朝鮮半島から多くの渡来人を受け入れ、その先進文化を学んだという史実があります。その史跡が残る奈良へ李大統領を招くということは、古代における文明の先輩格である韓国に対し敬意を示すことにほかなりません。これは韓国国民の自尊心をくすぐるでしょう。
ちなみにユネスコ世界遺産委員会が今年の7月、韓国第2の都市である釜山で開催されることになっています。わが国は奈良県にある飛鳥時代の遺跡「飛鳥・藤原の宮都」が世界文化遺産に登録されることを目指していますので、今回の首脳会談はそのために一定の役を果たしそうです。

画像なしさきほど、李大統領が訪日する前に中国を訪れたとの話がありましたが、その目的は何だったのでしょう?

中国の習近平国家主席は1月4日~7日の日程で、李大統領を国賓として招きました。両首脳は昨年11月、韓国・慶州のAPEC首脳会議の折にも会っていますから、わずか2カ月で2度の首脳会談はかなり異例でしょう。中国国営新華社通信も、習近平氏が今月5日の会談のなかで、短期間における李氏との2度の会談に触れ、「双方が中韓関係を重視していることを示している」と強調したと伝えています。中国政府としては李大統領訪日に先立って中韓首脳会談を行い、「日韓関係にくさびを打ち込みたい」との思惑があるのではないかとの見方もあります(『朝日新聞』1月6日)。韓国側もサムスン電子や現代自動車等の4大財閥の会長を含む200人の企業関係者から成る経済使節団が同行するなど、大変な力の入れようで、滞在期間も訪日時の2倍の4日に及んだことからも明らかなように、中国との関係に特別の重きを置いています(『日経新聞』1月6日)。

画像なし中韓関係は近年、かなり険悪だったのではありませんか?

はい。2016年に在韓米軍がミサイル防衛システム「THAAD(サード)」の配備を決めたことに中国側は猛反発し、中韓関係は一気に冷え込みました。以来中国は、自国内から韓国の大衆文化などを締め出す「限韓令」を取り続けてきました。今の中国が日本の歌手たちの活動を禁じているのとよく似ています。しかしここに来て急に風向きが変わったのです。THAADは相変わらず配備されたままですが、やはり米中関係が改まったという要因が大きいのではないでしょうか。トランプ米大統領が中国との親密ぶりを示し(現にトランプ氏も4月には国賓として訪中する予定です)、両国をG2と呼ぶまでになっています。
中国にとって一番いやなことは、東アジアにおいて米日韓が一致団結し中国と対峙することです。米日韓の連携に揺さぶりをかけたいところでしょう。西半球重視策をとる米国は、東アジアに関しては対中宥和策に転じつつあります。となると中国の次の目標は、日韓関係にくさびを打つことになるのでしょう。今の中国政府は、対中強硬策をとる高市政権を徹底的に孤立化させるべく、韓国を引き寄せようとしているように見えます。日韓関係をぎくしゃくさせ、中韓を接近させる「手段」となるのは歴史問題です。中国政府は訪中した李大統領を最終日の11月7日、日本による植民地時代に朝鮮の独立活動家たちが上海に樹立した「大韓民国臨時政府」の庁舎跡へ招待しました。中国のメディアは、同地を訪れた李大統領のことを大きく報道し、歴史問題における「対日共闘」をアピールしました(『日経新聞』1月8日)。

画像なしでは、中国の思惑通り、日韓関係にくさびは打ち込まれてしまったのですか?

そこが李大統領のしたたかさと言いますか、外交上手なところで、いわば中立の立場を堅持しているようです。李政権は「実用外交」を掲げていますが、これはイデオロギーに傾斜せず、実利を取るという方針のことです。現在、韓国では対日投資が活発ですが、今度の李大統領訪日時にも重要物資のサプライチェーン(供給網)に関する協力について協議することになっています。経済的な実利と歴史問題の間で、李大統領がどのようなバランス感覚を示すのか、その手腕が注目されるところです。

米中という大国の間で自らの舵取りをしなくてはならないという点で、日韓は共通しています。韓国は米国一辺倒ではなく、中国への接近を実現しました。他方日本は、あくまで日米韓の連携強化による対中強硬路線を貫こうとしているようですが、肝心の米韓が方向を転じ始めています。今回の日韓首脳会談のなかから高市首相が何を教訓として引き出すのか注目したいと思います。
—————————————
河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30