かわらじ先生の国際講座~文民統制の危機

画像なし高市首相の台湾有事をめぐる11月の国会答弁に端を発し、駐大阪中国総領事の過激発言、中国政府の訪日自粛要請、さらには経済や文化面での交流ストップ、そして中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射事件へと、日中間の緊張は高まる一方です。この先一体どうなってしまうのでしょうか?

双方の対立が軍事局面に至ったことは深刻です。12月6日午後に生じたレーダー照射事件は、そもそも中国人民解放軍が、宮古海峡東側の海峡で、空母「遼寧」を中心とする打撃群の艦載機の発着訓練を行ったことが始まりです。中国側は自衛隊に事前通告し、自衛隊側も了解した旨のメッセージを送ってきたとして、その音声を公表しましたが、わが国政府はそれを正式の航空情報「ノータム」や航行警報にあたらないと反論しています。いずれにせよ、日本の領海に至近の公海で行われた中国軍の訓練に対し、自衛隊機が緊急発進(スクランブル)をかけて警戒に当たり、2回のレーダー照射を受けました。その内の1回は30分にわたって断続的に行われ、中国側が主張する「捜索」を逸脱した「火器管制」(射撃のための狙いを定める行為)だと日本政府は非難しています。
日本防衛省によれば、12月9日にはロシア軍のTu95爆撃機2機が中国のH6爆撃機2機とともに、沖縄本島と宮古島の間を通り、そこから太平洋を四国沖まで飛行したとのことです。その際にも航空自衛隊の戦闘機が緊急発進しました(『朝日新聞』12月11日)。こうした中露の行為への対抗措置と解してよいと思いますが、12月10日には自衛隊の戦闘機が米軍の核兵器搭載可能なB52爆撃機と、日本海上の空域で共同訓練を実施しました。防衛省は「本訓練を通じて、力による一方的な現状変更を起こさせないとの日米の強い意思を確認した」との声明を出しました(『朝日新聞』12月12日)。
このような軍事的な角逐が、偶発的な事故にせよ死傷者を出す事態を招けば、武力衝突に発展する可能性も否定できません。それと同時にわたしが危惧するのは、日中対立の様々な場面で軍当局者の露出度が増えていることです。これは文民統制(シビリアンコントロール)の危機を意味します。

画像なし文民統制の危機とはどういうことですか?

まず文民統制(シビリアンコントロール)とは何か、かいつまんで言えば、政治の判断、発言、決定は軍人ではなく文民が行わねばならないということです。民主主義の根幹です。日本国憲法の第66条にも「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と明記されています。軍隊も文民(軍人ではない大臣)の下に置かれます。服装から文民を「背広組」、軍人(日本の場合は自衛隊)を「制服組」と呼んだりします。わが国の防衛省・自衛隊においても、文民である小泉防衛大臣がトップに立ち、防衛省内局の文官(背広組)が自衛隊員(制服組)を統制しています(これを「文官統制」とも言います)。
中国のような共産主義国家でも、この文民統制は存在し、中国共産党・政府の威信が軍を上回り、統制しています。ところがこの頃どうも、中国では軍が独自の意思表示をし始めているように見受けられます。

画像なしたとえばどのような所ですか?

一例を挙げます。高市首相の発言を受けて、中国解放軍の広報部門が最近、異例の日本語メッセージを発し、「日本が台湾海峡情勢に武力介入すれば中国は必ず正面から痛撃を加える」と強い不満を表明したのです。軍が直接自らの意思を示したことは由々しい事態です。本来なら政府・外務省が言うべきことです。

実は日本も少しおかしなことになっています。

画像なしといいますと?

小泉防衛大臣が11月23日、与那国島の自衛隊駐屯地を視察し、防衛の決意を述べました。台湾有事をにらんで、与那国島には今後ミサイル配備を予定していますから、このタイミングでの視察が中国を一層刺激することは明らかです。それを敢行したことに驚きましたが、わたしが注目したのは彼の服装です。他の自衛官と同種の服だったのです。自然災害に見舞われた地域へ赴くときには作業服を着こむのは当然で、それが被災住民を励ますことにもなります。しかし防衛・軍事問題は違います。自衛隊員は中国の標的にミサイルを撃ち込む立場の人たちです。小泉氏自らが同種の衣装を纏うということは、自分も自衛隊員と一緒にミサイルを撃ち込む覚悟をアピールすることにほかなりません。文民である防衛大臣は、制服組とは一線を画すべきで、背広姿でなくてはならないはずです。彼が制服を着るのは、日本が開戦したときです。

やや古い話ですが、岸田首相(当時)が自衛隊の朝霞駐屯地で、自衛隊員と同じ格好で戦車に乗っていましたが、あれも醜悪でした。文民統制の本義をわきまえていれば、あのようなパフォーマンスはとらなかったはずです。

12月11日、自衛隊制服組トップの内倉統合幕僚長が記者会見を行い、レーダー照射問題に関して中国側の言い分を完全否定しました。統合幕僚長による定例記者会見は以前から行われていることですが、今回のような政治的にも極めて敏感な案件については、自衛隊(制服組)の人間が国民に向けて直接何かしらの意見を言うことは文民統制に反しないのかとわたしは危ぶんでいます。高市首相なり小泉大臣なりが制服組から意見を聴取したうえで、国民に語りかけるべきではないかと思うのです。

石破氏が退任直前の10月10日、「戦後80年に寄せて」と題する内閣総理大臣所感を発表しましたが、そのなかで石破氏が一番強調していたのは、文民統制が崩れてしまったために日本が無謀な戦争に突き進んでしまったということです。この「所感」が何か予言めいて見える昨今の情勢です。


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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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