一気に気温も下がり、ようやく秋らしい秋になってきましたね。これからしばらくは吟行日和。わたしも時間を見つけて少しでも自然に触れたいと思っています。
△~〇稲刈られ残るわが田に雀寄る 作好
【評】動詞が多く、全体的に散文的ですので、もう少し引き締めましょう。「刈り残るわが田に今朝も雀くる」としてみました。
〇煙立つ三年ぶりの秋刀魚なり 作好
【評】三年ぶりに秋刀魚を自宅で焼いたのですね。おおむね結構ですが、上五を終止形にせず、連用形にして「煙上げ三年ぶりに秋刀魚焼く」でいかがでしょう。
△~〇待ちあぐむ地元たつぷりきのこ鍋 美春
【評】上五で切れ、中七で切れているので、三段切れの句になっています。「待ちあぐむ」という主観的なところは消して、即物具象的に「大鍋に地元の茸たつぷりと」くらいに詠むのがいいと感じます。
〇竹垣に朝顔開く湯宿かな 美春
【評】形としてはきちんとできていますが、この句は「湯宿」に感動している作りとなっています(「かな」は感動のポイントを示す切れ字ですので)。朝顔に焦点を当てるなら、「朝顔が咲くや湯宿の竹垣に」とするのも一法でしょう。
〇蓮の実の落ちてやシャワーヘッドかな 白き花
【評】たしかにシャワーヘッドみたいに見えますね。童心で作った一句でしょう。「落ちてや」の「や」に違和感をおぼえますので、「蓮の実のみな落ちシャワーヘッドめく」としてみました。
〇~◎子の声も転がりて来よ朴落ち葉 白き花
【評】心が浮き立つような句です。「来よ」は命令形ですが、実際に転がり来たことにして詠むのも手です。「子の声も転がり来たり朴落葉」と考えてみました。俳句では「落ち葉」の「ち」を省略するのが一般的です。
〇~◎家毎の川の洗ひ場小鳥くる 徒歩
【評】近江の五個荘を連想しました。季語と相まってのどかな田園風景が目に浮かびます。「家毎の」か「家毎に」かで多少迷うところですが、それを解消するには「一戸づつ」とする方法もありそうです。
◎寝墓にも南無阿弥陀仏つづれさせ 徒歩
【評】寝墓はキリシタン墓地に見られる墓ですね。そこに仏教の念仏を唱えたところに味わいがあります。滑稽感ではなく、親身な思いが伝わってくるのは季語の力でしょう。
〇~◎オーボエの少女にライト文化祭 妙好
【評】この少女に在校生や父兄の視線がそそがれ、誇らしい場面ですね。素直な作りの句で結構です。
△~〇老嬢の涙腺ゆるむ秋の虹 妙好
【評】「老嬢」という言葉はいまや死語で、使うのがためらわれます。「涙腺のゆるめば秋の虹立てり」くらいでどうでしょうか。
◎海守る島の神社や秋日濃し 万亀子
【評】調べもよく、しっかりとした写生句です。秋の日を弾いて煌く海と、小さな島、そしてそこに建つ小さな神社が見えてきました。
〇~◎海を向く海賊の墓秋の風 万亀子
【評】「海を向く」という措辞は類型的で、俳句ではよく見かけますが、「海賊」がいいですね。季語も落ち着いた雰囲気を醸しています。
〇~◎長き夜やレオパの孵化を見守りて 瞳
【評】レオパは別名「ヒョウモントカゲモドキ」。句材が新鮮です。じっと孵化を見守っている秋の夜長の充実感が伝わってきます。
〇臭ひつけの犬にやさしきゑのこ草 瞳
【評】心和ませる句です。上五の字余りが気になりますが、「臭ひづけ」の言い換えが思いつきませんので、とりあえずこのまま残しておきます。「やさしき」という主観表現は、客観描写したいところ。「臭ひつけの犬に弾めりゐのこ草」としてみました。
△~〇包丁を持つ手に柔し冬瓜かな 智代
【評】「冬瓜」は「とうが」と読むのですね。まず句形について言いますと、「かな」を使う場合、中七で切ってはいけません。「柔し」は「柔き」と連体形にしましょう。包丁を握った手に、冬瓜の柔らかさが伝わってきたという意味であることは分かりますが、これだと片手に包丁と冬瓜の両方をもっているような感じがしてしまいます。とりあえず「包丁の刃に柔らかき冬瓜かな」としてみました。
◎蒼海の色や秋刀魚のよく太り 智代
【評】色彩感覚が鮮明で、どっしりとした句です。「よく太り」という表現もこの句に勢いをもたらしています。
◎畦をきて戦火のごとき曼殊沙華 椛子
【評】「火のごとき」でしたら、ありがちな句になってしまいますが、「戦火」と述べたところに独自性があります。社会問題へのまなざしを感じました。
◎ひそやかに小雨にひらく卵茸 椛子
【評】卵茸をネットで調べてみました。最初は卵の形をしていますが、完全に傘が開くと水平になるのですね。「ひそやかに」、しかも「小雨」の降る中で開くという観察が、この茸の生態を生き生きと捉えていると感じました。
〇天高し鳶職屋根でスマホ繰る 恵子
【評】すなおに実景を詠んだ句ですね。まず空を見てからとび職人へと視線を下ろすより、とび職人から空へと視線を上げる方が句に勢いがでるかもしれません。「鳶職が屋根でスマホを秋高し」としてみました。
〇読経の低く始まる虫の秋 恵子
【評】はじめは虫の音が聞こえるくらいの読経だったのが、だんだん音声を上げていくのですね。結構でしょう。
△~〇頬に風五感の冴ゆる秋彼岸 永河
【評】たしかに実感ですね。しかし俳人にとって「五感の冴ゆる」はいわば楽屋話のようなもので、その冴えた五感で作った俳句作品をこそ読ませてほしい気がします。「頬に手に風を受け止め秋彼岸」などご推敲ください。
△~〇杖音や母下り来るやうな秋の空 永河
【評】「杖音」という言葉がやや窮屈です。空から杖の音が聞こえてくるのも無理があるように感じます。「母が杖ついて来さうや秋の空」と考えてみました。
次回は10月28日(火)の掲載となります。前日27日の18時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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