
2022年5月3日、私は東京から新幹線、ローカル線、ローカルバスと乗り継いで、ロバの本屋のある「俵山」という場所にきた。バスの終点「俵山温泉」からロバの本屋へは、ホームページによれば徒歩35分。すでに10分歩いたが、道を間違えてやり直し。心機一転、これからロバへ一直線!(ここまで前回までのあらすじ)
新たな気持ちでずんずん道を歩いていく。すると道はこの先行き止まりっぽく、「摩羅観音」と書かれている。
なんだか心配になり、ロバの本屋へ電話する。すると店主のいのまたせいこさんが出て、観音の道ではないと言われる。そして、正しい道はこの道と同方向にみえるもっと大きな道で、そこに出ればよいのでバス停まで引き返す必要はないと教えてくれた。
5月の山間。最初寒かったけど、疲労と焦りで暑くなり、汗をかいてきた。
少し戻ったところに「駐在所」のマークがあったのでそこへ行き、ロバの本屋のホームページを印刷したものを見せる。すると「ああ、ここね」とすぐわかって、
「とても遠い」
と一言。
「35分歩くつもりです」
と決意を伝えると、この(駐在所の前の)道をひたすらまっすぐだと教えてくれた。

道さえわかればあとはひたすら歩くだけ。どんどん行く。でもなかなか先が見えない。もう16時を過ぎた。50分歩いている計算になる。汗びっしょりだ。
途中に河川プールみたいのがあった。しかし地図にあるのと名前が違う。それに地図だとプールのすぐ先がロバだけどこの先まだまだ本屋さんなどありそうもない。
再度ロバの本屋に電話。そしたら出ない! なんで?!
私は傲慢にも、ロバの本屋がわざわざ遠くから来る私を歓迎してくれるものと思っていた。
でもウェルカムなら、さっきの電話で気になって、次の電話を待ってるはずだ。「わからなかったらまた℡して」とも言われたし。
なのに電話に出ない。・・・・なんで?
お客と話し込んだり、他のことに夢中になっているのだろうか? とてもショックで見捨てられた気がし、一挙に落ちこむ。
でもそのあと途中にあるはずの「七段の滝」があり、間違ってないことがわかった。大丈夫。私はただロバを目指せばよいのだ。

少しして、うしろから車が走ってきて、私の横に停まった。
そして中からせいこさんが! なんと迎えに来てくれたのだ!
感謝感激。さっそく乗り込む。
「ここから歩いて15分くらいかな」とせいこさん。もう1時間歩いてるのに、さらに15分じゃ、全然35分じゃないじゃん!

車はあっというまにロバの本屋の裏に着いた。
表から入り直すが、表も裏みたいな外見。ただの人家だ。
しかし入ってびっくり。中は人だらけ!
東京の本屋より、模索舎やタコシェとかより、人がいる! さっそく私も見て回るけど、人がいっぱいなのでリュックが邪魔。「そこに置いて下さい」とせいこさんに言われる。
店内の木の棚には、1冊1冊、せいこさんが思いを込めて集めた本が並ぶ。素敵な絵本やミニコミ、写真集、山やいなかの本、食の本。それから、昭和の付録、手作り絵ハガキ、メモ、ノート、便せん、コースター、ハンカチ、風呂敷・・・木や紙、土、綿、自然素材のなつかしい雑貨もいっぱいあって、全部ほしくなってしまう。

その中から、陶器2枚とロバの本屋のトートバッグを買おうとしてると、
「塔島ひろみさんですか?」と声をかけられた。
知らない、ショートカットのきれいな女性。
「車掌」を読んでて、今日私が来るとせいこさんから聞いたとのこと。こんな山奥に車掌を読んでる人がいる! 驚くばかり。そしてものすごく、この上なく、嬉しい。話しながら思わず口が笑ってしまう。
女性はこのロバに月1くらいで手作りお菓子を納品しているということだ。じゃ、それ買います、と言うと、もう売り切れちゃってグラノーラしかないと言われる。今日がその月1の納品日だとしたら、一日で売り切れちゃったってこと? すごい。ロバの本屋も、この人も。
そして私はグラノーラという未知の食品も合わせて、レジをすませた。

せいこさんがコーヒーをいれてくれた。思えばこれは今日初めての水分。おいしいこと。そしてこのカップも、砂糖入れも、スプーン置きも、この空間も、パーフェクト。ロバの本屋、最高だ。
閉店し、お客さんが帰ったあと、家の中(古~い田舎の農家そのもの)、それから外に案内され、ついていくと、そこにはたき火している男+少年あり。この暑いのに、冬の光景。みなはどうやら寒いらしい。
男はいのまたさんの夫たる人(初対面)で、少年はさっきの女性の子どもだという。中3で、身長177㎝だという。
そしてまもなくビクター(いのまたさんちの犬)を連れて、山の方からさっきの女性と小学生の女の子が合流。

兄妹は、この場所・この店に家族のようになじんでいて素直。かるたも書いてくれるという。ノートに書いてもらった住所は広島! 車だと1時間くらいで来れるからと、女性は平然と言うのだった。
そして私は、この女性の車に乗っけてもらい、1時間かけて辿った道をすいすいと逆進し、俵山温泉街へ戻ったのだった。(つづく)
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※東京大学「REDDY」のWEBサイトに塔島さんが福島の帰還困難区域で行われた第2回復興会議に参加した時のレポートが掲載されたので、リンクします。こちらも是非お読み下さい!(第1回のレポートはこちら)
※9月30日14時から東京大学経済学研究科学術交流棟 第2セミナー室で塔島さん企画のイベントが開催されます。