防衛装備庁による研究補助金制度である安全保障技術研究推進制度の今年度分の採択結果が公表されました。
防衛省の安保技術研究支援、新枠組みで応募増 慎重な学術界に配慮 https://t.co/UK7T13FJDW
防衛省は9日、将来的に防衛分野への活用が見込める基礎研究を支援する「安全保障技術研究推進制度」について、2025年度は過去最多の49件(昨年度25件)の研究を採択したと発表した。
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) September 10, 2025
従来は8月に公表されていたのですが、応募数が多くて9月にずれ込んだという話も聞きました。数の増加に加えて、大学からの応募・採択の増加が顕著です。
「安全保障技術研究推進制度」(研究者版経済的徴兵制)への応募と採決状況をみると、大学等の採決が極端に増えている。 pic.twitter.com/7DLq7J2KSY
— 神奈川県平和委員会 (@kanagawa_peace) September 11, 2025
6月の日本学術会議法の成立が背景にあるという意見もネット上にはありますが、それは正確ではないと思います。それよりも、一昨年の7月に日本学術会議の梶田隆章会長が、当時の小林鷹之内閣府特命担当大臣(←10月の自民党総裁選挙に出馬予定の人です)への回答書の中で、デュアルユース(軍民両用)の研究を事実上容認する見解を公表したことを受けての動きだと思われます。
カナリア倶楽部でも何度か書いていますが、日本学術会議は「平和の使者」でも「正義の味方」でもなく、一切の軍事研究を拒否していたわけでもありません。ただ、防衛省のような軍事に関わる組織から研究支援を受けることには慎重になるべきだという姿勢を示してきたにすぎず、その姿勢も年々、押し切られつつあったところです。他方で政権与党は、そのような日本学術会議の姿勢すら敵視して、日本学術会議を政権の支配下に置けるようにする法律を通してしまったということです。
このあたりの詳細は、こちらの記事にまとまって書かれていました。
目次 【🇯🇵日本学術会議の「軍事アレルギー」】
📎防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」への大学からの応募件数
📎1.安全保障技術研究推進制度の概要
📎2. 日本学術会議の対応
📎おわりに— JBpress – ニュースの真相と深層がわかる – 世界情勢・政治・経済・ビジネス (@JBpress) September 12, 2025
この記事の筆者は、安全保障技術研究推進制度には前向きの立場ですが、事実関係は押さえていると思いますし、データもわかりやすく示しているという点で参考になります。ただ、日本学術会議が「軍事研究アレルギーを持っていた」というのは、私とは見解が異なります。日本学術会議は、様々な選択肢を多角的に考慮し、軍民両用研究への慎重姿勢を崩してしまうことのリスクを重んじていたのであり、「アレルギー」というのは違うでしょう。
いずれにせよ、上の記事の中にもあるように、安全保障技術研究推進制度に使われる予算は、2015年度は3億円だったのが2025年度には114億円にまで膨れ上がっています。他方で、大学・短大での教育・研究のための予算は大きく縮小されており、学費の値上げが広がっていることは、カナリア倶楽部でも指摘している通りです。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「学生と考えたい『青年の発達保障』と大学評価(晃洋書房)」(編著)など。