残暑というには厳しすぎる暑さですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。わたしは今週末に関西の友人と吟行を予定しているのですが,身体のほうが大丈夫かと不安になります。早く「新涼」が実感できることを願うばかりです。
△~〇風さらら残波岬に海桐満つ 瞳
【評】「さらら」とはさらさらとしているという意味でしょうか。海桐(とべら)は「海桐の花」が夏の季語、「海桐の実」が秋の季語となります。とりあえず「風わたる残波岬に花とべら」としてみました。
〇夏の夜の大三角やベガ見つけ 瞳
【評】素直に詠んだ句で結構ですが、「夜」は要りませんね。「あれがペザ夏の大三角仰ぎ」くらいでいかがでしょう。
〇峡の郷行く先々の木下闇 作好
【評】奥深い秘境を歩いている様子がうかがわれます。これでも結構ですが、もう少し臨場感を出すならば「木下闇伝ひに峡の郷歩く」などとする手もあるでしょうか。
〇カラオケに卒寿の夫婦玉の汗 作好
【評】「カラオケに」というのは、これから出かけるという意味でしょうか。カラオケをしている最中として作ることもできそうです。それなら「カラオケの卒寿の夫婦玉の汗」。
〇古民家の高天井や秋の空 美春
【評】たぶん、古民家の中に入って天井を見上げているのでしょう。とすると、戸外をイメージさせる「秋の空」がどうでしょう。「秋の風」にすれば、風が古民家の中に吹き込んでいる場面が思い浮かびます。
〇~◎路地裏の古窯の跡に秋の風 美春
【評】しっかりとした写生句です。「跡や」と明確な切れを入れましょう。そうすると、さらに広がりのあるスケールの大きい句になります。
〇~◎朝露に草の輝く湖畔かな 恵子
【評】概ね結構ですが、「朝露に」の「に」がやや説明調です。「草の露かがやく朝の湖畔かな」とするのも一法でしょうか。ついでながら、ひらがなを使うと句が明るくなり、輝きがよりリアルに伝わるように思います。
△~〇花供ふ肩に止まれり赤とんぼ 恵子
【評】「花供ふ」で切れ、「止まれり」で切れていますので、三段切れの句になっています。「花供ふ肩に蜻蛉を止まらせて」としてみました。
◎天孫の山に雲湧く文月かな 徒歩
【評】堂々とした格調の高い句で、様式美として完成されていますが、いわば俳句職人的な上手さと言えるでしょうか。一回性を求める芸術家として作るなら、立派さよりも人間臭いくらいの作風の方がいいように思いますがいかがでしょう。
〇飛騨牛を妻に分けたり秋の夕 徒歩
【評】料亭で食べている場面でしょうか。「妻に分けたり」の解釈が難しいところです。句意は変わってしまいますが、お土産にして持ち帰ったことにするなら「飛騨牛の包みを妻に秋の暮」でしょうか。
〇膝折りて祈るヴェールや八月来 妙好
【評】「ヴェール」は被り物ですので、頭部に意識がいってしまい、「膝」と焦点が分裂してしまいます。たとえば「膝折つて祈るシスター八月来」など、ご一考ください。
〇~◎新涼や夫の遺せし万華鏡 妙好
【評】しっかりとした即物具象句です。「遺せし」ですと、気持ちが過去の方向に向かってしまい、新涼の本意(秋を迎え入れる気持ち)と逆行しますので、「新涼や夫の遺愛の万華鏡」としたほうがいいかと思いますがどうでしょう。
〇ねぢれ落つ布曳滝の音しづか みさを
【評】文法的なことを言いますと、「落つる」と連体形にする必要がありますが、それだと字余りになってしまいますね。「布曳滝」は前書きにして、「ねぢれつつ落つる滝水閑かなり」とするのも一法だと思います。
〇~◎滝しぶき高き低きの岩へしむ みさを
【評】風情のある句ですが、「岩へしむ」がどうでしょう。「高き岩低き岩にも滝しぶき」と考えてみました。
〇~◎阿波をどり赤い鼻緒の下駄鳴らす 万亀子
【評】阿波踊りを見に行かれたのですね。この描写ですと、あの激しい動きは伝わりませんが、情緒の感じられる句です。
〇団扇ふり笑顔はぢける阿呆連 万亀子
【評】「弾ける」のひらがな表記は「はじける」で結構です。ただ、「笑顔はじける」はありきたりな慣用表現ですので、「笑顔振りまく」くらいでいかがでしょう。
〇鬼百合や蛸の如くに大暴れ 白き花
【評】強風に吹かれているのでしょうか。発想はユニークですが「大暴れ」は言いすぎな気もします。「大揺れの鬼百合蛸の如くなり」としてみました。
〇光の粉振り注ぎたる大西日 白き花
【評】なかなかシュールな捉え方の句です。順序を逆にして「大西日光の粉をこぼしをり」と考えてみました。ただ、この添削例は鷹羽狩行氏の〈虹なにかしきりにこぼす海の上〉に似ているのが難点ですが。
〇爽やかや頬のシャープに変声期 夏代
【評】お孫さんの描写ですね。頬がシャープになったことと、変声期であることの二重の描写が句を少しくどくしています。とりあえず「爽やかや少年の頬大人びて」としてみました。
〇面白や児らとかなぶん飛ばしあふ 夏代
【評】江戸の俳諧なら「面白や」という表現もアリですが、現代俳句ではそれは言わないのが通例です。「集めたるかなぶん児らと飛ばしあふ」くらいでどうでしょう。
〇~◎パラソルに息荒き犬座り込む チヅ
【評】暑さにへばっている犬がよく見えてきます。このままでも結構ですが「息荒き犬パラソルを動かざる」と考えてみました。
△~〇声あげて児ら赤き顔西瓜わり チヅ
【評】「赤き顔」というのは日焼け顔のことでしょうか。顔のことは省略し、声だけに注目して、「西瓜割子ら大声を飛ばし合ひ」としてみました。
〇~◎竿先にぴんと逆立ち赤蜻蛉 智代
【評】赤蜻蛉の生態をよく捉えた句です。「逆立ち」の部分、「尾を立て」でもいいかもしれませんね。
〇手花火の柳散りゆく夜の闇に 智代
【評】手花火も火勢が弱まると柳状になるのですね。「夜の闇に」が少々説明的でしょうか。「手花火の柳が闇に散り尽くす」としてみたくなりました。
〇~◎日々思ふこと健やかに稲の花 永河
【評】平穏な日々をありがたく思う句と受け止めました。細見綾子の〈ふだん着でふだんの心桃の花〉と通い合う境地の句かもしれませんね。少し語順を入れ替え、〈健やかに日々思ふこと稲の花〉とするのも一法でしょうか。
〇おはやうのゆらぎふんはり白木槿 永河
【評】中七がやや間延びしているように思われます。いい案が浮かびませんが、とりあえず「おはやうとひと揺らぎせり白木槿」としてみました。
△~〇歯の治療済み葡萄食べほつぺ噛む ゆき
【評】「済み」「食べ」「噛む」と動詞が3つもあります。このように動詞が多いと、「ああしてこうして」という只の説明文になってしまいます。とりあえず「歯の麻酔効きたるままよマスカット」としておきます。
〇孫も子も吾もそれぞれに墓参り ゆき
【評】一緒に行ったのではなく、別々にお墓参りをしたのですね。一案として「孫と子とわれ日を違へ墓参り」と考えてみました。
次回は9月16日(火)の掲載となります。前日15日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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