中国人留学生をめぐるデマ(2)

前々回の記事の続きになります。前々回はお金をめぐるデマでしたが、今回は大学院での学位取得をめぐるデマで、「中国のブローカーと一部の大学教授が癒着して、大金を払えば日本の有名大学の学位(修士号や博士号)が取得できる」というものです。これももちろんデマです。こういうデマの書かれた日本語の記事を私も読みましたが、そこには「学部の入試とは異なり大学院入試は有力教授の一存で入学ができるから、有名大学の学位も取得できる」ということが書いてありました。裏口入学のイラスト

声を大にして言いたいのですが、日本の大学や大学評価制度を舐めてもらっては困ります。入試での合否判定は、資料をもとに教授会で審議して決まりますし、その資料は情報公開請求等に備えて保存しておかなければいけません。また学位審査も、公開されている基準をもとに、複数の審査委員が審査を行い、最後は教授会で決定します。これらの手続きがどのように実行されているかについては、外部評価の対象にもなります。「ブローカーと癒着した有力教授の一存で決められる」ということはありません。
ただ厄介なことに、日本への留学を目指す中国人をターゲットにした詐欺があるのは事実のようです。「**大学の博士学位、****万円!」といった詐欺広告の存在をもとに、上記のようなデマを信じる人もいるようです。とはいえ、実はこの手の詐欺広告は、「中国だけ」でも「日本の大学だけ」でもありません。私のところにも「アメリカの有名大学の博士号は要りませんか?」と英語で書かれたメールが来ますし(最近は自動的に迷惑メールとして除外されているようです)、そういう迷惑メールを見たことのない大学関係者はいないのではないかという気がします(未確認ですが)。真剣な会議のイラスト(男女)
ちなみにこんなエピソードもあります。10年以上前のことですが、博士号をまだ取得していない研究者が登壇していたシンポジウムで、司会者が間違って「Dr.」という敬称でその人を呼んだことがありました。その人は「私はまだ博士号を持っていません。今、咄嗟に、よく来る迷惑メールの連絡先に『博士号買います!』って言わないといけないかと思いましたよ」と言って、会場の笑いを誘っていました。
なお、間の悪いことに、今年の5月に、日本の大学院に留学している中国が主犯で、TOEICという英語能力試験の大規模な替え玉受験のニュースがありました。けれども、これをもとに「中国人留学生は…」と言うのはミスリードだと思います。日本人が主犯で大規模な替え玉受験をやっていたというニュースも2022年にありました。
この記事が公開される頃には参院選の結果も出ています。留学生という、私自身にとって身近な人たちにまで排外主義の攻撃が向かうようになってしまったことに、こんなところまで来てしまったのかという思いがしています。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「学生と考えたい『青年の発達保障』と大学評価(晃洋書房)」(編著)など。


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