
むかし、世田谷区経堂の、駅から結構遠い不便な場所に、「ロバロバカフェ」というカフェがあった。
このお店はカフェだけど手作りの本とか雑貨とか、そんなものを置いていて、私のミニコミ「車掌」も取り扱ってくれていた。経堂という、小田急に乗り慣れない私にはわかりにくい駅を降り、一本道をどこまでもどこまでも歩いていくとやっとある。
もう何年前のことだか、何十年前のことだかも忘れたけど、この「ロバロバカフェ」が閉店し、もうその遠い場所に行くために小田急線に乗ることはなくなったけど、そのあと少しして、このロバカフェ店主のいのまたせいこさんから、鉛筆書きのハガキが届いた。

新たに「ロバの本屋」というのを開いたという。
住所を見ると、それは経堂とは及びもつかない、はるかかなた。「山口県長門市俵山6994」と書いてある。
そして「ロバの本屋」でも車掌を置いてくれることになり、車掌を納品。車掌は、山口県に初進出!の快挙を遂げた。
だけど、東京でも売れない我が車掌が、聞いたこともない「長門市俵山」なんて場所で果して売れるのか? まぁ、・・・売れまい。半ばあきらめていはいたのだった。
ところが、車掌や車掌文庫が出るたび連絡すると「○冊買いとります」と、せいこさんから鉛筆書きで注文が来る。ボチボチ売れているようだ。一体誰が買うのだろうか? ロバとか山の動物たちが車掌を読むのか?

「ロバの本屋」がとても気になる。そこであるときせいこさんに原稿を頼んだ。
車掌26号(2020年)は「100キロ特集(1キロ×100)」だったので、「ロバの本屋界隈の1キロ」を紹介してほしいと依頼したのだ。すると、「「ロバの本屋」からさらに奥へ1キロ歩く」と題する鉛筆書きの原稿がきた。
それを読んで驚愕した。「「ロバの本屋」は…俵山の中でもかなり奥の方にある。」「「ロバの本屋」のさらに奥は一位ヶ岳の登山口」「500mくらい行くとおとなりの山本さんの家が左手にある」と書いてある。手書きの地図、写真も数枚ついている。
・・・・・・おとなりが500mも先・・・・・・。「ロバの本屋」がさらに気になる。そして願わくば、「山本さん」というのが人間であってほしいと思った。

2022年5月。GWを利用して、私は山口県長門市俵山の「ロバの本屋」へ行くことにした。ついでにかるたの台紙を持っていき、せいこさんに車掌27号用のかるたをお願いしてみよう。
コロナ明けのGW。東京駅は大混雑で新幹線改札を通るのも一苦労。
1時間並ぶ覚悟でホームに行くと、向かいの18番線から、乗る予定でないのぞみがちょうど出発するところだった。どのくらい混んでいるのかな? 中を覗くと、なぜか空席がいっぱいある。ホームはごった返しているというのに、一体どうして?

予定を変更してそれに飛び乗る。ドアが閉まりもう後戻りできないが、客室に行くとやっぱり空席がいっぱいあり、2人掛けの窓側に席を取れた。
「この電車は、7:30東京発、のぞみ11号博多行き」と、放送が入る。「ロバの本屋」への長い旅が始まった。(つづく)
2022年の「ロバの本屋」への旅行記を、(遠く、なかなか着かないため)数回にわたって掲載させていただきます。
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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>
『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。
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車掌27号かるた大(小)会、ついに最終回を迎えます。残りの札が出尽くすまでダラダラやるので「かるた長会」。よかったら覗きに来てください。