かわらじ先生の国際講座~イスラエルのイラン攻撃について

画像なし6月13日、イスラエル軍はイランの核施設や軍事施設を中心に、戦闘機で100か所以上を攻撃し、イランのバゲリ軍参謀総長や精鋭軍事組織「革命防衛隊」のサラミ司令官等の軍事指揮官や複数の核科学者を殺害しました。民間人の死傷者も少なからず出ているようです。これに対しイランの最高指導者ハメネイ師は報復を宣言し、イスラエルに向けて多数の無人機を発射し、両国は事実上の交戦状態に入ったとも伝えられます。そもそもイスラエルはなぜ一方的にイランへの攻撃を行ったのでしょう?

攻撃を行った6月13日未明、イスラエルのカッツ国防相は「イランの核兵器開発が差し迫った脅威になっており、今回の攻撃は自衛のための先制措置だ」と発表しました。また、イスラエルのネタニヤフ首相もビデオ声明を公表し、「イランの核兵器開発はイスラエルの存続に対する明白かつ現在進行形の危機だ」と述べ、「イランは9発分の高濃縮ウランを保有し、核兵器化の段階に入っている。数カ月以内に核兵器を完成させる可能性がある」と警告し「脅威がなくなるまで作戦を継続する」と明言しました。

画像なしイランの核開発を阻止することが主目的だったということですね。しかしなぜこのタイミングでイスラエルは攻撃したのでしょうか?たしか今年4月からイランは米国と核開発問題に関する協議を行っていたのではありませんか?

そのとおりです。米国のトランプ政権はイランの核開発を制限すべくイランとの直接交渉に乗り出し、4月以来5回にわたって米国・イランの高官協議を行ってきました。しかし両者の主張の隔たりは大きく、米政権内にはイランが核実用化までの時間稼ぎをしているに過ぎないのではないかとの不信感が高まっていたようです。
トランプ大統領は当初からイランとの核協議の期間を60日間と設定していました。協議初日の4月12日を起点としますと、6月10日がその60日目となります。米国のメンツを考え、イスラエルはその日まで攻撃を手控えていた可能性もあります(『京都新聞』6月14日)。
米国とイランは6月15日に第6回目の核協議を予定していましたが、6月12日に国際原子力機関(IAEA)は、イランが核査察の受入などを義務付けた「保障措置協定」に違反しているとの決議を採択しました。この決議がイスラエルによるイラン攻撃の引き金になったとの見方もあります(『讀賣新聞』6月14日)。

画像なし今回の事態に関して米国はいかなる立場をとっているのでしょう?

イランの軍報道官は、イスラエルによる攻撃の背後には米国の支援があったと断じ、米国は「重い代償を払うことになるだろう」と述べましたが(『京都新聞』6月14日)、米国のルビオ国務長官は攻撃直後の声明で、イスラエルの単独行動だと強調しました。またトランプ大統領自身も5月下旬、ネタニヤフ首相との電話会談で、イランへの攻撃は「不適切」だと伝えていた由です。とはいえ、イスラエル側はイラン攻撃の直前に米国に事前通告しており、米国としてはそれを黙認する形をとったというのが真相のようです。さらに攻撃実施後の13日朝、トランプ大統領はABCニュースの電話インタビューに応じ、「(この攻撃は)すばらしい。我々はイランにチャンスを与えたのに彼らは応じず、大きな打撃を受けた」と述べました(『朝日新聞』6月14日)。米国が攻撃に直接関与した証拠はありませんが、ネタニヤフ首相の決定を全面的に支持しているのは確かです。

画像なしイスラエルの攻撃目的がイランの核開発阻止であることはわかりましたが、その後もイスラエル軍がイランの石油貯蔵施設やガス田などエネルギー施設を標的とした攻撃を続けているのはなぜなのでしょう?

イランも報復攻撃を行っており、戦闘は泥沼化の様相を呈していますが、ここにきて、イスラエルのネタニヤフ首相はイラン政権の転覆を目指しているとする見方まで出てきています。ロイター通信によれば、イスラエル側は攻撃の数日前、イラン最高指導者のハメネイ師の暗殺計画を米国のトランプ大統領に説明し、トランプ大統領が反対したというのです。この件に関して、ネタニヤフ首相はFOXニュースのインタビューで明言を避けたものの、イランの現政権が非常に弱体化しているのは事実であり、結果的に政権が転覆することはあり得るとの見方を示しました。

画像なし今回の件ではトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が電話会談を行い、プーチン氏は仲介役への意欲を見せているようですが、今一つ本気度がうかがえません。また事態の深刻化を懸念する各国もイスラエルとイランの自制を求めてはいますが、動きがにぶいように感じられます。6月13日には国連安全保障理事会も緊急の会合を開きましたが、イスラエルとイランの双方が相手を非難するばかりで具体的な成果は見られませんでした。この戦争の行方はどうなるのでしょう?

6月17日未明(日本時間)にはカナダでG7サミットが開催されますが、当然、中東情勢も重要な議題となるでしょう。イスラエルによるイラン攻撃は明らかに不法な暴挙ですが、イスラエル側に米国がついていることもあって、G7のいずれの指導者も沈静化に向けた有効な策は打ち出せないように思われます。ガザ地区問題と同様、イスラエルのネタニヤフ政権の意志がイランに対しても貫徹されていくのを我々は見守るほかないというのが現状でしょう。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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