「カナリア俳壇」118


五月は個人的にも気持ちがよくて最も好きな月なのですが、もう半分近くが過ぎてしまいました。しかも今一つぱっとしない天候続きで残念。もう少し新緑の季節を楽しみたいものです。

〇雨もらい蛙鳴き出す田圃かな     作好
【評】我々人間には鬱陶しい雨ですが、蛙にとっては喜ばしいものなのでしょうね。「もらひ」と表記しましょう。

〇参道を掃きし後には落椿     作好
【評】助詞「には」が強すぎるように思います。「参道を掃きたる後の落椿」または「参道を掃きたる後に落椿」くらいでどうでしょう。

〇夕影や蜘蛛の囲光る湯屋帰り     美春
【評】「夕影」とは「夕日」の雅語的な表現。とすると、「光る」と少し重複するように思います。「夕影をはじく蜘蛛の囲湯屋帰り」、「蜘蛛の囲の光る夕暮れ湯屋帰り」などもう少し工夫してみてください。

〇網広げ瓜のつる取る庭の畑     美春
【評】実体験に根差した句でけっこうです。畑であることは想像がつくので、下五を変えて、たとえば「網ひろげ胡瓜の蔓を外しけり」などとする手もありそうです。

△~〇春の旅べらぼう展の江戸気分     瞳
【評】とりあえずご自身の日記として書き留めておく句としてはけっこうと思います。ただ、江戸気分になるのは当然なので、もう少し意外性がほしいと思いました。

△~〇蜃気楼スカイツリーとキリコの絵     瞳
【評】わたしは瞳さんが書き添えてくださった自解を読んでいるので状況がわかるのですが、初めてこの句を目にした人は、スカイツリー付近で蜃気楼を見たのだろうかとか、どこにキリコの絵が展示されているのだろうかとか、考え込んで途方に暮れてしまうはずです。結局、淡々と見たままを写生したほうが通じると思います。俳句は言い足りないくらいがちょうどいい文芸です。

◎検尿のコップのぬくみ五月来る     妙好
【評】検尿で一句詠んだ勇気に脱帽です。しかも学校の風景が見えてきて詩情をおぼえます。差別語以外、俳句にタブーはありません。これからもどんどん斬新な句材にチャレンジしてください。

〇行く春やひとり居となる誕生日     妙好
【評】ちょっとさびしいお誕生日だったのですね。しかし季語のやさしい情感がこの句にある種の明るさをもたらしています。

△~〇夕飯の献立決まり柿若葉     ゆき
【評】「決まり」が連用形のため、切れとしてやや弱いので、夕飯の献立は柿若葉に決めたかのような印象を与えてしまいます。季語もあまり合っていないと感じます。「夕飯のメニュー選びや夏柳」など、いろいろ試してみてください。

〇煙草やめ菓子探る夫目借時     ゆき
【評】おおむねけっこうですが、「やめ」「探る」と動詞が2つあるため、「ああしてこうした」という説明調の句になってしまいます。「動詞の使用は一つ以内」と決めて作句するとめきめき力がつくと思います。一例ですが「禁煙の夫菓子さぐる目借時」。

◎観音のお山遙かに麦の波     徒歩
【評】お寺の絵解きに使う宗教画のように神々しくて、なおかつ素朴な景が見えてきました。海原のような広々とした麦畑も思い浮かびました。

◎洗ひ場に鯉の出入りや緑さす     徒歩
【評】近江・五個荘の商家の川戸の景ですね。しかしそのような予備知識なしでも十分に鑑賞できる美しい句です。

〇園丁の背に滲む汗腰タオル     恵子
【評】「腰タオル」が惜しいと思います。せっかく園丁の背中の汗に注目しているのですから、腰タオルへと視線をずらすのはもったいない。一例ですが「屈みたる園丁の背に汗滲む」など。

〇背の順で並ぶ植女の幼顔     恵子
【評】大体けっこうですが、「幼顔」というより実際幼い子供たちなのですね。大人が背の順に並ばされるわけはないので。とすれば「背の順に幼き植女並びたり」くらいでいいのではないでしょうか。

〇~◎母の日のボンボンショコラ息子より     智代
【評】思い出に残しておきたい一句ですね。素朴な句でけっこうです。「母の日の息子ボンボンショコラ提げ」とも考えてみましたが、あまり凝らない方がいいでしょうか。

△~〇三寸の松にきりりと緑立つ     智代
【評】歳時記を見ますと、「緑立つ」とは松の新芽のこととありますので、「松」が重複しているように思います。また、「緑立つ」という季語には若々しい生命感がこもっていますので、「きりりと」は言わずもがなではないでしょうか。しかし、そうも言っていられませんので、「三寸にして緑立つ鉢の松」くらいでどうでしょう。

〇枝を手に茶摘みの技を披露せり     万亀子
【評】茶摘みの講習会でしょうか。とりあえずけっこうと思いますが、「手をとつて茶摘みの仕方教へくれし」と考えてみました。字余りにはなりますが。

〇茶の里や木枠で守る燕の巣     万亀子
【評】こちらもとりあえずけっこうですが、「茶の里や」では広すぎる感じがしますので、「茶農家が木枠で守る燕の巣」くらいでいいかもしれません。

△~〇小梅捥ぐ手にふさふさの命かな     永河
【評】俳句とはそもそも「命」を詠む文芸ですので、「命」という語を用いないのが原則です。「小梅捥ぐ手にふさふさの葉があたり」くらいでいかがでしょう。

◎口遊む昭和歌謡や花蘇枋     永河
【評】ハナズオウの華やかな花は日本が今より元気だったころの高度成長期を彷彿とさせます。字面も力強く、しっかりとまとめられた作品です。

〇土もたぐ竹の子掘りて天仰ぐ     典子
【評】素直に自分の作業を写生した句ですね。「もたぐ」「掘りて」「仰ぐ」と動詞が3つありますので、まずは動詞を1つでも減らすことを目標にしてください。たとえば「土深く竹の子堀りて天仰ぐ」とすれば、動詞を1つ減らすことができます。

〇新緑や羽毛のやうにふはふはと     典子
【評】純真な童心を感じさせる句です。この場合は「や」と切らない方がいいと思います。「新緑は羽毛のやうにふはふはと」でどうでしょう。

〇白球を追いダッシュの児の春休み     チヅ
【評】「児」というのですから、まだ幼い子なのでしょうね。将来は大谷のような野球選手になりたいという夢を抱いているのかもしれません。「追い」を「追ひ」としてください。また中七が字余りですので、「児の」の「の」を取りましょう。「白球を追ひダッシュの児春休み」でパーフェクトです。

○雨蛙小さき虫をキャッチする     チヅ
【評】おもしろい句です。「キャッチする」をもう少し具体的に描写できるとなおよいと思います。「雨蛙小さき虫に舌のばす」など。

次回は6月3日(火)の掲載となります。前日2日(月)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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