「カナリア俳壇」115

時折、窓から麗らかな空を見上げつつ、皆さんの句を読ませていただいています。
春は自然が生命力を生き生きと発露する季節。ある人が「俳句とは命を詠むもの」と言っていましたが、それを実感するこの頃です。

〇金縷梅の咲く公園にわれひとり     作好
【評】この句は「われひとり」の焦点が当たっていますが、まんさくのほうに力点を移すのも手です。「金縷梅やひとりのみなる公園に」など。

〇春光や窓の汚れのはっきりと     作好
【評】きれいな季語を配したことによって、この「汚れ」もけっして汚く見えません。「はっきりと」の「っ」は大きく書きましょう。

〇からくりの茶坊主現るる雛の間     瞳
【評】もしかするとどこかの座敷に展示されているのでしょうか。できれば古語辞典で「現(あ)るる」(現る)の用法をご確認ください。一般には使われない語のようです。「からくりの茶坊主もをり雛の間」くらいでいかがでしょう。

〇山深き寺に集まる雛の客     瞳
【評】寺の供養雛を見学に行かれたのですね。わたしも先日、滋賀の西教寺の供養雛を見に出かけました。中七に切れを入れ、「山深き寺へ集へり雛の客」でどうでしょう。

〇野天湯に訛りなつかし木の芽時     美春
【評】野天湯で同郷の人に会ったのですね。このままでも結構ですが、句意をより明確にするならば「湯の客の訛りなつかし芽吹山」とすることもできそうです。

〇如月にそば猪口でくむ銘酒かな     美春
【評】いい雰囲気の句ですね。酒も旨そうです。「如月に」の「に」がやや説明的です。銘酒もさらに具体化できるかもしれません。一例として「如月やそば猪口に酌む木曽の酒」など。

◎声のして雲雀のゆくへ眩しかる     白き花
【評】漢字とひらがなのバランスも絶妙で、詩情豊かな句です。形容詞「眩し」のカリ活用連体形の使い方も結構です。

〇春の雨けぶりて腕に柔らかき     白き花
【評】「けぶりて」と「柔らかき」に重複感をおぼえます。また、この時期はまだ長袖の服を着ていますので、「腕」に直接受けることはないのでは?一例ですが「てのひらへけぶれるやうに春の雨」などもう一工夫できそうです。

〇亡き夫の書斎に日脚伸びにけり     妙好
【評】ご主人への大切な追悼句ですね。2点、問題があります。まず「日脚伸ぶ」は冬の季語ですので、「亡き夫」であれば春の季語に変えないといけませんね。それから「日脚伸ぶ」は、具体的に日差しが伸びるという意味ではなく、だんだん昼の時間(明るい時間)が長くなってくるという意味の時候の季語です。「亡き夫の書斎に長く春日影」などもう少し推敲してみてください。

〇~◎浅き春日ごと平らに経読めり      妙好
【評】「平らに」とは「心を平らかにして」ということですね。「日ごと」から少しずつ気持ちが立ち直ってきたご様子が窺われます。別案として「おそ春の日ごと読経の平らかに」と考えてみましたが、供養の句は素直に詠むのが一番ですので、原句のままで十分けっこうです。

〇神水で淹るる珈琲春の雪     徒歩
【評】「水」と「雪」が何となく近いかなという気がします。「神水」でも結構ですが一般的には「霊水」がよく使われるようです。また、コーヒーを飲むのは現代の風習ですので、文語でなく口語でいいように思いますがどうでしょう。あくまでも一例ですが「霊水で淹れる珈琲春の嶺」と考えてみました。

〇やや若き遺影の笑顔桜餅     徒歩
【評】初学の頃の思い出なのですが、ある句会に「やや」を多用する会員がいて、指導者から「分別臭くなるから『やや』は使わないように。使うとしても百句に一句くらいにしなさい」とたしなめられたことがあり、それ以来、わたし自身も「やや」を禁句としています。好みの問題ですが、そんな意見もあることを念頭に置いていただければと思います。「若やかな遺影の笑顔桜餅」、あるいは、先日徒歩さんとご一緒した句会で哲半さんからおそわった言葉を使い「草餅や遺影の友は常乙女」なんてしてみたくなりました。

〇啓蟄の上映会よ窯の腹     春花
【評】自解によれば「重油窯の中で映画上映されました」とのことですが、おそらく他の人には分かってもらえないのではないでしょうか。「啓蟄や窯の中なる映画会」、もっと一般的にするなら「啓蟄や蔵の中なる映画会」でしょうか。

〇~◎レール敷く蔵開け放つ雪の朝     春花
【評】大きな荷を運ぶためのレールが敷かれた、どっしりとした蔵が見えてきました。重い扉が開かれると一面の雪景色。ひんやりとした空気まで感じられます。

〇下萌や園児ら歩むパピプペポ 永河
【評】明るい、軽快な句ですが、「パピプペポ」が何かよくわかりませんでした。園児たちが口で言っている言葉でしょうか。それとも歩む様子をとらえたオノマトペでしょうか。「下萌を歩む園児らパピプペポ」とどちらがいいでしょう。

〇あぶくたてささやくやうに水温む    永河
【評】宮沢賢治の童話を思わせるような詩情のある句です。「たて」「ささやく」「温む」と動詞が3つあり、どうしても散文的になってしまいます。動詞は1つにし、「ささやきのやうなあぶくや水ぬるむ」と平仮名自体をあぶくに見立てて作るのも一法でしょうか。

◎古書店の棚で見得切る土雛     万亀子
【評】古書店が効果を上げ、歌舞伎役者のような風格のある𡈽雛が見えてきます。しっかりと物で表現した即物具象のお手本のような句です。

〇大甕の臘梅香る町家かな     万亀子
【評】概ねけっこうですが、「町家かな」とすると町家そのものの句になってしまい、蠟梅がかすんでしまいます。中七に切れを入れ、「大甕の蠟梅の香や京町家」など、もう少し推敲してみてください。

〇~◎軒灯に白極みたる梅の花     智代
【評】軒に寄り添うように梅が咲いているのですね。詩的な句です。中七に切れを入れ「白極みたり」でどうでしょう。切れを入れると一句に張りが出ます。

〇ぷりぷりの椀の蛤ハレの膳     智代
【評】すなおな詠みでけっこうです。「ぷりぷりの蛤の碗」と語順を入れ替えるのも手ですね。また、「ハレ」という片仮名よりも平仮名か漢字のほうがこの句に合いそうですので、「ぷりぷりの蛤の碗祝ひ膳」としてもいいかと思います。

◎誕生日チューリップの芽並び出づ     恵子
【評】明るい自祝の句で大変けっこうです。句の形も申し分ありません。誕生日にチューリップが芽吹いたとは幸先がいいですね。

〇木々芽吹くあはひ遥かに伊吹山      恵子
【評】「あはひ」まで書いてしまうと、句に余白がなく窮屈になってしまいます。できるだけ言葉を省略することを心がけてください。「芽吹きたる木立の向こう伊吹山」など。

〇婚の記や目張の煮付ふっくらと     久美
【評】結婚記念日のことを「婚の記」と言っていいのかどうか。何か言葉足らずに感じます。たとえば「真珠婚目張の煮付けふつくらと」のように具体的な名称を入れるか、「祝ひ膳目張の煮付けふつくらと」などとして、前書きを入れるなど、もう一工夫してください。なお、「ふっくらと」の「っ」は大きく書いてください。平仮名は常に大きく書きます。

〇~◎命日の父に文旦供へけり     久美
【評】すなおな詠みでけっこうです。どっしりとした文旦が生前のご尊父の風貌姿勢を思わせます。

〇この日和侘助の花咲き始む     欅坂
【評】「この暖かな日和に」と言いたいのかなと推測します。「花」と「咲き」は重複しますのですっきりさせ、とりあえず「穏やかな日和侘助咲き始む」としておきます。

〇椿さく庭一面に落ち葉かな     欅坂
【評】椿は3月ころ、古い葉と新しい葉が入れ替わり、古い葉がよく落ちるのだそうですね(ネットで知りました)。「落ち葉」だと冬の季語になってしまうので、「一面に葉をこぼしつつ椿咲く」くらいでいかがでしょう。

次回は4月1日(火)の掲載となります。前日、3月31日(月)の午後6時までにご投句頂ければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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