かわらじ先生の国際講座~米ウクライナ首脳会談決裂の真相

画像なしトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領による首脳会談が2月28日、ホワイトハウスで行われました。それが惨憺たる結果に終わったことはわが国のメディアでも繰り返し報じられました。両首脳とバンス米副大統領の3人が衆人環視のもとで激しく言い合い、会談は決裂したのです。

一体なぜこんなことになってしまったのでしょう?

一国の首脳同士がメディアの前で、こんなに激しい口論を繰り広げるのは前代未聞の珍事です。トランプ氏は怒りに顔を紅潮させ、かなり感情的になっていた印象を受けます。それに比べるとゼレンスキー氏のほうが抑制されていた感じですが、一歩も引かず、通訳を介さないで英語でやり合う場面に彼の鼻っ柱の強さを改めて見た思いがします。
会談がこんな激論の場になることを果たして当事者たちが予想していたかどうかわかりませんが、いずれにせよ、物別れに終わることは(少なくとも米国側には)織り込み済みだったのではないかと推測します。

画像なしそう考える根拠は何ですか?

今の段階で証拠を示すのは困難ですが、最初からその兆候は見えました。米国側はゼレンスキー大統領に対し、気分を害するような挑発的言辞をわざと繰り返したのです。まずはトランプ大統領がゼレンスキー氏のトレードマークとなっている長袖シャツの服装を揶揄し「今日はめかし込んで来たね」と声をかけました。するとホワイトハウス内で取材中の記者(トランプ氏に近しい人物のようです)も便乗するようにゼレンスキー氏に向かい「米国最高の執務室にいるのにどうしてスーツを着ないのか」と難癖をつけたのです。ゼレンスキー大統領をわざと苛つかせようとの意図が透けて見える場面でした。要するにトランプ政権は始めからけんか腰で、ウクライナ大統領の来訪を歓迎していないことは明らかでした。
トランプ政権がゼレンスキー氏と実のある交渉をするつもりがないことは、その場に報道陣を入れ、首脳会談をまるでワイドショーのような公開トークの形にしたことにも明らかです。口論の端緒を開いたのはバンス副大統領でした。彼はゼレンスキー氏の発言に対して「失礼だ」「(トランプ)大統領に感謝すべきだ」と教え諭すような発言をしたのです。しかもこの発言をゼレンスキー大統領の目を見てではなく、テレビカメラに向かってし出したのでした。まるで演出台本でもあるかのようなタイミングでの副大統領の発言で、これをきっかけにトランプ大統領も語気を荒げてゼレンスキー氏を非難し、同氏がそれに抗弁するという展開が繰り広げられたのです。

画像なしでは、どうしてトランプ政権はゼレンスキー大統領との交渉をぶち壊すように仕向けたのですか?

一般に政治家は、あまり大事でないことは(それがさも重要であるかのように見せかけるために)大声で論じます。他方、肝心要なことは(それと悟られないように)できるだけ触れないものです。今回の首脳会談におけるやり取りのなかで、わたしが不可解に思ったのは、ウクライナの希少資源に関する協定の話題が出てこないことでした。この協定に署名することが、ゼレンスキー大統領訪米の最大の目的であったにもかかわらず。トランプ氏としてはこの資源協定が米国に莫大な利益をもたらすと大乗り気でした。その実利のためならトランプ大統領は、仮にゼレンスキー大統領がTシャツでやってきても喜んで抱擁したはずです。トランプ氏は骨の髄までプラグマティストですから一時の感情にかられて、みすみす莫大な利益を取り逃がすことはしないはずなのです。
もとよりゼレンスキー大統領としてはこの協定に署名するつもりでやってきました。ただし、それと引き換えに、ロシアが再侵攻しないための「安全の保証」を米国から取り付けることが条件でしたが。米国側は2つの観点からこの取引をご破算にしたかったのだろうとわたしは見ています。

画像なし2つの観点と言いますと?

1つめは、ウクライナ側が望む「安全の保証」を与えることは米国の利益にならないと考えたことです。その「保証」はロシアの軍事行動を抑止しうるだけの力をウクライナに提供することにほかなりません。それを実行すれば当然ロシアとの関係は悪化するでしょう。米国としては、ウクライナとの「資源協定」がロシアとの関係を犠牲にしてまでも欲しいほどの旨味のあるものとは思えなかったのではないでしょうか。

画像なしもう1つの観点は?
「資源協定」そのものです。この協定は、ウクライナの地下に眠っている希少資源の利権の約半分を米国に譲渡するもので、まるで米国によるウクライナの植民地化ではないかと思われる取引(トランプ氏が好む言葉を使えばディール)です。トランプ大統領自身、この協定は1兆ドル規模の利権を米国が手に入られるものだと誇っていました。当初、ウクライナ側はこの取引に応じることにためらいを見せていましたが、結果的には意外なほどあっさりと飲んでしまったのです。それでゼレンスキー大統領が調印のため渡米するという段取りがトントン拍子で進みました。
ところが米国の識者や当局者によれば、そもそもウクライナに希少資源がそれほど埋蔵されているかどうかは不確かで、根拠の乏しいことが次第に明らかになってきました。ゼレンスキー政権側も、自分たちの領土にそれほどレアアースなどないことを知っていて、まんまと米国を出し抜いた、という可能性もなしとはしません。第一それほど希少資源があるなら、もっと早くから開発に着手していたようにも思われるのです。


以下は憶測ですが、トランプ政権はウクライナから「希少資源」という空手形を切られたのではないか、という疑心暗鬼にとらわれたのかもしれません。どうも自分たちはゼレンスキー政権の「投資詐欺」に引っかかったのではないか。そんなふうに考え、この「資源協定」を何としてもご破算にする必要があったのかもしれません。もしもその読みのとおりだとすれば、ゼレンスキー大統領は「ディール」を得意とするトランプ氏の上を行くしたたか者だということになりますが、こうした見方はあまりにうがちすぎでしょうか。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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