かわらじ先生の国際講座~新しい帝国主義の時代

画像なし2月24日でウクライナ戦争は丸3年を迎えましたが、ここに来てようやく停戦に向けた動きが本格化してきました。ただ、トランプ米大統領のゼレンスキー大統領への発言がとても辛辣になっているように感じます。新聞も「ゼレンスキー氏は独裁者」というトランプ氏の発言を見出しに掲げています(『京都新聞』2025年2月21日)。一体何が起こっているのでしょう?

その発言は2月19日、トランプ氏が自身のSNSに投稿したものですね。ゼレンスキー氏が昨年、国内に戒厳令を敷いていることを理由に大統領選挙を中止したことを問題とし、「選挙をしていない独裁者」と批判したのです。そのほかにもゼレンスキー氏を「さしたる成功も収めていないコメディアン」と嘲笑し、「勝てる見込みも、始める必要もなかった戦争のために、米国から3500億ドルもの支援額を投じさせた」とか「彼はひどい仕事をした。国は粉々になり何百万人も犠牲になった」とか、さんざんに痛罵しています。トランプ氏はその前日にも、ゼレンスキー氏の国内の支持率は4%しかないと、根拠の不明な数字をあげました。ちなみにウクライナの世論調査では支持率57%とのことです。

画像なし何がきっかけでここまで露骨なゼレンスキー批判を始めたのですか?

転機となったのは、2月12日に行われた米露首脳の電話会談でしょう。その日トランプ氏はロシアのプーチン大統領と約1時間半、電話で協議し、両国の報道によれば二人はただちに戦争終結に向けた交渉を始めることに合意し、さらには近々、直接面談することや、互いの国を訪問することでも一致したそうです(『朝日新聞』2025年2月14日)。要するに両者は意気投合し、バイデン大統領時代に断絶していた米露関係を修復する端緒を得たのです。トランプ氏は翌13日、ロシアをG7に復帰させるべきだとの考えまで示しました(『朝日新聞』2025年2月15日)。今ではちょっと信じられない気もしますが、ロシアは2014年3月までG8の一員でした。同月、ロシアはウクライナのクリミア半島を併合したために制裁を科せられ、G8から追放されたのです。

画像なしトランプ大統領の言説を聞いていると、まるでウクライナを犠牲にしてでも、米露関係の改善を優先しているように感じるのですがどうでしょう?

そういうことなのだと思います。この両首脳による電話会談のあとの動きは急でした。早くも2月18日にはサウジアラビアの首都リヤドで、米露政府の高官による公式会談が行われ、米国のルビオ国務長官とロシアのラブロフ外相が中心になって約4時間半、ウクライナ停戦交渉をめぐって協議がなされました。報道によれば、両国代表はまず米露が高官級の交渉チームを設置することや、両国関係の正常化に向けた枠組みを作ること、ついで停戦の条件を話し合い、そのあとウクライナ大統領選挙を行わせ、その当選者を当事者に加えて最終的な停戦協定を結ぶという段取りが決められたようです(『讀賣新聞』2025年2月19日)。言い添えれば、このリヤドでの協議では、当事国であるウクライナも、欧州諸国も蚊帳の外に置かれていました。この協議結果を踏まえて、トランプ大統領は2月中にプーチン大統領との会談を行う意向を示しました。プーチン大統領も19日、訪問先のサンクトペテルブルクで記者団とのインタビューに応じ、「ドナルドと久しぶりに会いたい」と、トランプ大統領をファーストネームで呼んだのです。両大統領の緊密さを象徴するような一幕でした。

画像なしこのまま米露のペースでウクライナの運命は決まってしまうのでしょうか?

欧州諸国はあくまでもゼレンスキー大統領支持の姿勢を堅持しています。特に英仏両国は、ロシアが再び侵攻しないようウクライナに欧州主導の「平和維持部隊」を派遣する案を検討しているようです。そして2月24日にはフランスのマクロン大統領が、28日には英国のスターマー首相がそれぞれ米国のワシントンを訪問し、トランプ大統領がウクライナの安全保障に責任をもつよう説得する方針です。他方、ゼレンスキー大統領はこれ以上トランプ氏と対立を深めることは得策でないと判断したらしく、23日にキーウで記者会見を行い、「ウクライナの平和が実現するなら大統領を辞任する用意がある」と表明しました。

画像なし結局、トランプ大統領の思惑通りに事が進むということでしょうか?

トランプ氏は実利で動く人物だと思います。実利の点からすれば、ウクライナへの支援にこれ以上金をつぎ込むより、ロシアとの関係を改善させるほうが利益は大きいと判断したのでしょう。しかしトランプ大統領の目にはウクライナもまた大きな経済的ポテンシャルを有しています。それはウクライナに埋蔵されているレアアースなどの希少資源です。トランプ氏はかねてからウクライナ側に対し、この希少資源の採掘による利益の5割を米国に分けるよう要求しています。しかしゼレンスキー政権は、ウクライナが再度ロシアから侵攻されないという「安全の保証」がない限り応じられないとの立場をとってきました。ところが最新の報道によると、ウクライナの希少資源の権利に関する両国の協定が「合意に近づきつつある」由です(米紙『ウォールストリートジャーナル』の報道。但し『京都新聞』2025年2月23日より再引用)。ウクライナ側が米国に歩み寄ってきたということだと推測されます。

画像なしロシアによるウクライナの領土奪取はまさに帝国主義そのものですが、米国による希少資源の利権要求もまた帝国主義の典型ではありませんか?

そういうことになりますね。ウクライナにとってはロシアも米国も、軍事と経済という手段は異なれ、自国の富を簒奪しようとする点では同じ穴のムジナに見えるのではあるまいか。そんな印象を受けます。21世紀は「新しい帝国主義」の時代なのかもしれません。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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