お金をもらうなら言うことを聞くのが当然?

いずれの国家や自治体にも、公費で設置・運営するべきと考えられる組織や施設があります。学校、病院などは典型例ですし、図書館・美術館・博物館・大学・研究所などの学術・文化施設もそうです。
インターネットやマスメディアの出演者の発言の中に、時々耳にするのが「お金をもらっているのだから、政府の言うことを聞くのは当然だ」というものがあります。授業の受講生からも、たまに出てくる意見です。保護具を付けて実験をする人のイラスト(女性) | かわいいフリー素材 ...
ただその意見は、シンプルに間違っています。例示したほうがわかりやすいと思います。私は大阪公立大学の教員ですから、大阪市・大阪府に暮らしている人々、および日本国内で暮らしている人々(公立大学の運営交付金の多くは地方交付税交付金です)が支払ってくれた税金からお給料をいただいています。決して、現在の日本国や大阪府の政権与党からお給料をいただいているわけではありません。
日本の社会に暮らす人々や、日本と様々につながっている世界中の人々の福祉の向上のために研究することは大事だと思いますが、特定の政党や政治家の指示に従わなければならない理由はありませんし、そのようなことをすれば結果的に、当該政党の支持者以外の方々の生活を毀損する可能性もあります。
冒頭で述べた、公費で設置・運営するべき組織の1つに、日本のナショナルアカデミーである日本学術会議があります。2020年に当時の菅首相が会員の任命拒否を行ったのを始まりとして、日本学術会議の体制等を変更していこうという動きが続いています。ただ、問題が長引くなかで、経緯を継続的に追いかけている報道がほとんどないのも現実です。そのような中、大学フォーラムと世界平和アピール7人委員会がそれぞれ、年末に声明を出しました。7人委員会の声明は、現在の問題がコンパクトにまとめられています。また大学フォーラムのほうは、任命拒否事件から今日までの経緯がまとめられていてわかりやすいです。


書かれていることをまとめると、政府の主張は次のように整理できそうです。
(1)任命拒否は良くないことだった→(2)再び任命拒否事件が起きないように学術会議の体制を改める。つまり、法人化して政府から独立させる→(3)引き続き、公費からの活動資金の支給を期待するなら、政府関連機関による活動評価等を定期的に受けなさい(お金が欲しければ言うことを聞きなさい)
さて、どこから突っ込めばよいのやら…という気がしてしまいます。任命拒否を行ったのは菅首相であって、学術会議ではありません。また、法人化するということは、ナショナルアカデミーを運営するという政府の責任を減らしつつ、予算配分を武器にして人事や活動内容に政府が介入しやすくするということです。つまり、金は(ある程度)出すが、口も出す、そして責任は取らないということになるでしょうか。
「公費を受け取っているのだから~」というロジックは、人々を惑わすものだと思います。そして大変困ったことに、公費を受け取っている側(国公立大学など)からも安直に出てきやすい言葉だったりします。教育・学術の自由と、学生をはじめとする人々の学ぶ権利の保障をめぐって、今年も注視すべきことが多くありそうです。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「学生と考えたい『青年の発達保障』と大学評価(晃洋書房)」(編著)など。


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