政府は12月27日、2025年度予算案を閣議決定しましたが、115兆5415億年と過去最高を記録しました。防衛費も8兆7005億円とやはり過去最高額。反撃能力(敵基地攻撃能力)のための長距離ミサイルの配備や、標的の探知・追尾を目的とした小型衛星網などの構築などが予算を押し上げたようです(『京都新聞』2024年12月28日)。国際的緊張の高まりが続く中で新年を迎えることになりそうですが、そうした情勢を見据えると、防衛費の増大もやむなしということでしょうか?
スウェーデンの「ストックホルム国際平和研究所」が今年4月に発表した統計によれば、軍事費の増大は日本だけでなく世界各国に見られる現象で、世界の軍事費は統計を取り始めて以来、過去最大になったそうです。同研究所は日本に関して、中国が「増大する軍事予算の多くを軍の戦闘即応能力の強化にあてている」ため、「これにより日本や台湾などは軍事力を増加させていて、この傾向は今後数年でさらに加速するだろう」と分析しています。
今年度(令和6年度)の防衛白書でも、中国の軍事活動の活発化が指摘され、それに対応した我が国の安全保障強化の必要が強調されています。
来年度防衛予算の増大も、このように中国の動向が大きく作用していると言えそうです。中国との関係を力と力の対峙として捉えるならば、ますます防衛強化に力を傾けなくてはなりませんし、政治的な緊張緩和に向けて双方が動き出せば、別の方向に進む可能性も出てくるでしょう。
日中関係に政治的な歩み寄りは見られないのでしょうか?
12月25日、北京で日中外相会談が開かれました。日本の外務大臣の訪中は、1年8カ月ぶりとなりますが、前回の林外相訪中時は1時間40分の会談時間だったのに対し、今回は3時間に及び、岩屋外相は外相会談に先立って、李強首相とも話し合いを行いました。報道をみますと、日中ともに政治対話の重要性を認識し、関係の安定化に向けて本格的な歩み寄りの姿勢を示したようです。
特に中国側の軟化姿勢が目立ったように感じます。王毅外相は岩屋氏に「日中両国は『脅威』ではなく『パートナー』として共通の認識をもとう」と訴えたとのことです(『日経新聞』2024年12月26日)。
中国側の軟化姿勢の理由は何でしょう?
不動産バブル崩壊の後遺症や経済成長の低迷など、国内的要因も大きいと思われますが、何といっても来年1月に発足するトランプ米政権への警戒が、日本を取り込もうという動きにつながっていると考えられます。米国のトランプ氏は大統領選のキャンペーン以来、中国からの輸入品に一律60%の関税をかけ、他の国からの輸入品にも10〜20%の関税を課すことを公約としてきました。これが実行されたら中国経済にとって大打撃です。他方、日本も自動車産業を始めとして対米輸出に対し関税を引き上げられる公算が大きく、その点では日中の立場は共通しています。中国としては対米貿易における痛手を対日貿易で補う必要があるわけです。日本側も対中貿易の維持・拡大は強く望むところですから、双方の利害が一致をみたといっていいでしょう。
日中両国はまず経済面で関係改善を図ろうとしているのですね。その具体的な表れはありますか?
中国は2023年8月、日本による原発処理水の海洋放出を痛烈に非難し、日本側が主張する「処理水」を「核汚染水」と断じ、日本産水産物の輸入を全面的に禁止しました。しかし2024年9月、その態度を一変させました。中国側の安全検査を条件に、水産物の段階的輸入を再開すると発表したのです。11月、ペルーのリマで石破首相と会談した習近平国家主席は、この輸入方針を確認しましたが、今回の日中外相会談でも再確認されました。但し、中国国内の世論への配慮があるのか、その実施時期を中国側は明示していません。
今年11月、中国政府が日本人の短期滞在ビザの免除処置を決めたことも注目されます。これは日本の経済界がかねてから望んでいたことですが、中国としてもビジネス交流の活性化に本腰を入れようとしている表れと見られます。
これに対して日本側も、訪日中国観光客向けのビザの発給要件などを緩和する方針を明らかにしています。
両国関係の懸案事項は何でしょう?
日本人学校の児童の殺傷事件など日本人をターゲットとした犯罪事件の解明も十分に進んでいませんし、スパイ罪で起訴されたアステラス製薬社員の問題の真相解明も曖昧なままです。このままではなかなか国家間の信頼は醸成されません。そして尖閣諸島を含む東シナ海における中国の軍事活動も相変わらず活発ですし、日本周辺で相次いで中国のブイが見つかり、日本側が撤去を求めているものの事態は膠着しています。
しかし何よりわたしが懸念するのは、国民同士の感情の悪化です。12月2日、NPO法人「言論NPO」などが、日中の世論調査結果を発表しました(『朝日新聞』2024年12月3日等)。それによると、日本への印象が良くないと答えた中国人は87.7%に上り、昨年から大幅に増大しました。また、日本人の対中感情もここ10年、約9割が良くないと答えています。
SNSによる不正確な情報の拡散も大きな原因の一つとされますが、これは政府間、為政者間の関係の反映だとも言えます。まずは為政者が、国民同士の対立感情を煽るような愚を犯さないことが肝心です。国民の対立感情に火がつけば、もはや政治家もコントロールできない破局につながりかねません。
2025年は第二次世界大戦終結80年の節目ですが、これが両国の歴史認識問題の新たな火種にならなければよいがと案じています。2025年を日中関係の正念場の年と捉え、両国の不信感が大幅に低減されることを切に望みます。
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