学生の過剰アルバイトは社会の損失

2024年最後の記事ですが、今年は大学学費問題を取り上げることが、例年に増して多い年でした。そして秋の衆議院選挙結果を受けて、年収の壁の引き上げの議論が大きく進展し、その効果として「大学生のアルバイト控えを無くして、彼女・彼らの収入を増やせる」と主張されています。
ただこの主張、いろいろと変だと思うのです。給付型奨学金が拡充されて大学生の収入が増えるなら良いのですが、より長時間のアルバイトをして収入を増やすというのは、学業や課外活動などの時間、または睡眠時間などのセルフケアの時間を削って収入を増やすということです。本当にそれでよいのでしょうか?
そんなことを考えていたら、自民党の小野寺議員の発言(学生が100万円以上稼がないといけない状況がおかしいという趣旨の発言)が話題です。


小野寺さんがおっしゃっていることに、私自身はほぼ100%賛同しますので、学費値下げと給付型奨学金の支給拡大を一刻も早く実現してほしいと思います。
現在の大学生の親は氷河期世代です。多くの学生が学費や生活費を自ら稼ぐ必要に迫られて、多くのアルバイトをしています。大学の授業というのは、教室での授業と授業時間外の自習の両方から構成されるものですが、長時間のアルバイトを余儀なくされる学生のことを考えると、自習課題を課すことを躊躇せざるを得ないという話も聞きます。また、部活やサークルなどの課外活動は青年の全人発達にとって大事な経験ですが、その時間をとれない学生も増えています。
アルバイトも社会勉強になるという主張がありますが、それはかなり限定的な効果だと思います。一般にアルバイト業務の内容は、「職務を通じての成長」が期待できる余地の小さいものです。個人的にはアルバイトを禁止すべきとまでは思っていないのですが、学生が長時間を割くべきものではありません。
学生時代の大事な時間の多くをアルバイトに費やさなければならないとすれば、学生自身の学びの機会の損失になると同時に、社会全体にとってもデメリットが大きいと思います。実際のところ、非常に長時間のアルバイトのために単位取得が難しくなったり、健康を大きく損ねる学生もいるのです。
なお、年収の壁を引き上げることによる税収源については、様々な試算がありますが、私が知る限りで最大のものは7.6兆円というものです。


他方、幼児教育から大学教育までを完全無償化(公費負担)にするために必要な財源は、文科省の試算では4兆7000億円だそうです。神戸大学名誉教授の渡部昭男氏による試算では、国公私立の大学・短大・専門学校の学費を半額にするために必要な財源は1兆円だそうです。

「大学生の働き控えをなくすために税収の壁を上げる」ことより、学費を大幅に値下げするほうが合理的な気がするのですが、どうなのでしょう。こんなことを考えながら、今年も暮れていきそうです。来年もどうぞよろしくお願いいたします。少しでも、良い年になりますように。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「学生と考えたい『青年の発達保障』と大学評価(晃洋書房)」(編著)など。


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