妹が来た。それも突然だ。
東京で教員をしていて2年前に退職した。子ども達は独立したので第二の人生を謳歌している。沖縄や京都に旅行したり、スポーツジムに通うなど好きなこと三昧だ。最近は絵画教室に行き出したと言う。
おれとは真逆の暮らしだが、妹は妹、おれはおれだからそんなことはどうでもいい。いつものようにお土産をどっさり持ってきてくれた。
おれは気を遣うこともなく、これといって何もやることがないのだが、普段と違い何かとせわしなく勝手が違う。煩わしいのだ。総じて、どうでもいいような話と飲んでは食べることに終始した3日間だったが、今回はちょっと変わったことがあった。
それは、来た時に「これ読んでね。絵本だけど」とお土産と一緒に渡されたのだ。まるでプレゼントのようにキレイに包んであったので帰ってから開けて見た。「くまとやまねこ」。本の帯には「感動の絵本」とある。
絵本だなんて、もう40年以上も前以来だ。「いないいないばあ」「ぐりとぐら」「おおきなかぶ」などなど。「うんとこしょどっこいしょ」とかけ声をかけなくても次々と思い出される。子どもらを寝かせつけるためによく読み聞かせをしたのだった。酒くさい息で添い寝をしながら、おれの方が早く眠りにつく有様だった。
文は湯本香樹実、東京音大卒。絵は酒井駒子。東京芸大卒。お二人共数々の賞を受賞している。あっという間に読了したが、感動よりも驚きでいっぱいになった。ナルホド、まるでおれのことが書かれていたのだ。「くま」がおれとそっくりだった。くまが再生していく話だ。ネタバレになるが粗筋はこうだ。
くまは仲良しだった小鳥が死んでしまう。木箱を作り小鳥を入れる。いつも持ち歩くようになる。が、引き込もりになってしまう。ある日、くまは森に出るとやまねこと出会う。やまねこは「小鳥が死んでさみしいんだね」とだけ言うとバイオリンを弾いてくれる。くまは小鳥との楽しかったことを思い出す。そしてタンバリンを練習する。くまとやまねこは「音楽団」として旅に出る。というものだ。
そうなのだ。言葉は何もいらない。ただ寄り添ってくれるだけでいい。どんな慰めの言葉も届かないこともある。立ち直るのは自分だ。新しい出会いを大切にする。勿論友人も。時が経つこと。時は物言わぬ味方だ。音楽の尊さ。感動した。死は終わりではない。もうあの頃には二度と戻れない。別れは何かの始まりなのかもしれない。
妹が来たのは何のことはない。遠くからわざわざ来てくれたのはありがたいが、「バーロー。おれは大丈夫だよ。心配ご無用。お前が来て、疲れたよ」。
今年のお盆には子どもらが来た。おばあちゃんのお墓参りにだ。
次男、末っ子夫婦と孫が3人、総勢7人だ。心配していた台風は逸れたが、それはもう賑やかで台風直撃と同じだった。
おれは酒田に戻る時に離婚した。その時は子どもらが皆集まり送別会をしてくれた。これは元女房の計らいだったに違いないが、もうあまり覚えてはいない。おれは酔い潰れてしまっていたのだ。
孫達にとってはおれは酒田のたった一人の「おじいちゃん」だが、何もしてやれないし何もしていない。入学式などがあってもハガキ一枚で済ましている。孫が6人もいることもあるが、お金のかかることは全て元女房任せなのだ。もはや、この時点でおじい失格だが、出来ないのだからどうしようもない。
振り返れば、好き勝手なことばかりやって来た。父親としての役目など果たして来なかった。気が付いたら皆大きくなっていて、おれもいい年になっていた。何もかもあっという間だった。
大変だった時期もあった。大病を患ったり、人の道から脱線したことも。でもこれは多かれ少なかれどこの家庭にもあることだろう。心配ばかりしていたが、時が経つにつれて解決していた。今では何事もなかったかのように暮らしている。ありがたいことに、全てが微笑ましい遠い昔の思い出となっている。
子どもらが小さい頃はよく酒田へ連れて来た。列車に7時間も揺られて、子どもを抱っこしながら立ちっ放しでも平気だった。今では考えられないが、それも初めの頃だけで10年も続かなかった。共働きで勤務が合わないのどうので、そのうち帰省はしなくなっていた。酒田で一人で暮らしている母親のことはそっちのけで、夫婦の都合優先の親不孝者だったのだ。
そんなこんなで月日は光陰矢の如し。あろうことか母親は認知症になっていた。慌てふためくも、どんなに寄り添っても回復する病気ではなかった。孝行したい時分に親はなし。時すでに遅しだ。人生なんてこんなものだろう。親と子には一時的な確執や断絶という事はよくあることなのかもしれない。後悔先に立たずというが、なかなか出来ることではない。
おれは遠い空をただぼんやりと眺めているだけのジジィになってしまっている。いや、掃除も買い物も自炊もやっている。だが、先のことは分からない。またいつ何時予想外の困難にぶち当たるかもしれない。それもまた乗り越えるのだろう。力のある限りは。
しかし、この先どのように生きて行けばいいのか。答えは一つではない。人は人、おれはおれだ。答えが分かれば、生きている意味がなくなってしまうのではないのか。
さあ、今日も夜が明けた。聞こえてくるのは鳥のさえずりだ。朝の物音が聞こえれば酒田の町も動き出す。
皆、元気でな。また会える日まで、あばよグッバイ。平穏な日々、これが一番。今日もぐっでぃ!!
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ビートルズ~ペーパーバック・ライター
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