ビートルズ~イン・マイ・ライフ

日和山公園からの坂道(撮影:塔嶌麦子)

酒を冠する酒田だ。
「酒はうまいしねえちゃんはきれいだ」と「帰って来たヨッパライ」が歌っていた。ん?!おれじゃないよ。フォーク・クルセイダーズ(68年)だ。「酒田よいとこ一度はおいで」「おらは生きかえっただ」なのだから。
また、田んぼの酒田でもある。日本有数の米どころの庄内平野がある。夏から秋には黄金色のジュータンが一面に広がる。稲刈りの時期だ。そんな酒田も今夏の米騒動にはぶったまげた。米がスーパーから消えたのだ。「ナヌッ!?この酒田で」と、まさかの出来事だった。これは、減反政策を長く続けた結果だと勝手に思ってしまうが、政府は今後安定していくと言ってるだけで案の定新米の価格は上昇している。軒並、5割近くもだ。気分が悪いったらありゃしない。
小学校の給食が日本で初めて始まったのがここ庄内だ。明治時代に貧困児童を対象に無料でおにぎりや焼き魚(鮭)などを食べさせたというのはおれも知らなかった。
酒田は何より、歴史ある港町ということになっている。江戸時代に北前船により、京文化などがもたらされて飛躍的に栄えたとされている。北前船は米や酒などを江戸まで運んだ海の大動脈だった。「ほんまに酒田はよい港、繁盛じゃおまへんか」という関西弁で歌われる「酒田甚句」。この歌は今尚お祭りなどで歌い継がれている。
この北前船で巨万の富を得て日本一の大地主となったのが本間光丘だ。本間様は日本海からの猛烈な風による飛砂から酒田の町を守るために、海沿い一帯にクロマツを植林するなどの公共事業に財を投じた。
後に、「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」と全国で謳われるようになり、正に本間様様々、この人のお陰で今の酒田があると言っても過言ではない。
酒田には今でも当時の由緒ある料亭などがある。そこでは京文化を受け継いだ酒田舞妓の踊りも楽しめる。東北の京都とも言える。家の近くで舞妓さんが自販機で缶コーヒーなどを買っているのをよく見掛けるが、おれはナゼかドキドキして全速力でその場を立ち去る。また、この辺一帯は今はなき遊郭の町でもある。
さて、酒田港のすぐ傍には海鮮市場があり、2階には「海鮮どんや・とびしま」という大食堂がある。早朝から営業していて、酒田沖でとれたばかりの魚介類が大皿に大盛りで堪能出来る。旨い安いと大評判で、土日は大行列となっている。一人でも港を眺めながらの食事はそれなりの趣がある。
お昼はラーメンはどうだろう。港町の酒田はイカの町なのだが、近年のイカ不漁とは関係なく、いつの頃からかラーメンの町としても有名になっている。狭い中心部のエリアには16店舗がひしめき合っている。どの店も魚介系のあっさりしょうゆ味だが、昨年新宿で開催された「日本ご当地ラーメン総選挙」で酒田が見事日本一に輝いたのだった。札幌や博多、喜多方を抑えての優勝は酒田市民が喜びに湧いたのは言うまでもない。
ラーメンといえば、その店の味があり企業秘密なのではと思うが、酒田では30年も前から各店主が集まり「酒田のラーメンを考える会」なるものがあったという。日本一はそうしたコミュニティを広げた結果だったそうな。
中でも柳小路という通りにある昔からの「川柳」という店がお薦めだ。ワンタンメンが絶品で、ワンタンが新聞を読める程の極薄でふわふわのトロトロ。この上ない味がする。
一時は作家の椎名誠が酒田に来る度に訪れて有名になった店だ。また、出前もあり、港に配達してもらい船の上で漁師さんと一緒に何度か食べた。屋外で食べたのは初めてで、何とも旨かった記憶がある。
黄昏時は飲むしかない。やっぱり酒田では5時からやっている老舗「久村の酒場」だ。9時には閉店してしまう。なんと、慶長3年創業だというのだ。おれにはいつの時代なのかさっぱり分からない。
酒田に戻った頃は日が暮れると毎日のように暖簾を潜っていた。それは1年程続いた。店内にはおれの好きな有名人、吉田類や太田和彦、なぎら健壱などの酒飲みの色紙が飾られている。
カウンターはコの字になっていて、ガラス張りのテーブルの下には魚介中心のいろんな料理が並んでいる。それを注文するのだ。10人程で満席だが、奥には小上がりもある。
日本最古の飲み屋かもしれない。今でも全国から飲兵衛達が訪れるそうだ。酒飲みの聖地、酒田にありだ。
「久村の酒場」。大衆に愛され続けている。おれも久しぶりに行ってみるか。酒田の酒に癒されると心があったかくなる。旅情に浸るのはここ「久村の酒場」しかない。電車から見える一面の稲穂がそよいで、あなたをお待ちしている。ぜひ一度酒田へ足を運んで下さい。

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斎藤典雄
山形県酒田市生まれ。高卒後、75年国鉄入社。新宿駅勤務。主に車掌として中央線を完全制覇。母親認知症患いJR退職。酒田へ戻り、漁師の手伝いをしながら現在に至る。著書に『車掌だけが知っているJRの秘密』(1999、アストラ)『車掌に裁かれるJR::事故続発の原因と背景を現役車掌がえぐる』(2006、アストラ)など。


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