松山にいい小劇場をつくろう

イラスト:秋山ののの

松山唯一の小劇場「シアターねこ」がこの8月に閉じた。建物の大家さんとの借家契約の更新が不調に終わった、ということだが、その背景には、小劇場団体の減少、それを含めた財政状況の悪化、管理・運営を担っていたスタッフの過重負担、などがあったという。
松山から小劇場が消えたということだ。こうなることは遅かれ早かれ予想できたけれど、その日は唐突にやって来た。来てみると、私の胸の中にはいろんな感情がもつれもたれることになった。伊予西条のほうにつくる小空間に熱量をそそいで、松山のほうは使用してこなかった負い目。松山では小劇場の文化まるごと絶滅してしまうかも、という危機感。焦り。
幸いにも、このニュースを機に、演劇人の何人かが中心になって話し合う会が松山でもたれるという。お知らせを受け取って出かけていった。8月上旬。松山市民劇場という鑑賞団体が事務局を担った集まり、会議室に集ったのは20名ほどだろうか。松山駅隣の車両基地跡地になにか巨大な施設を建てようか、という基本計画は市で9年ほど前から作成途上のままくすぶっていて、ちょうどそれが一歩前に動き出す時期になっているという。今のままだと年に数回しか稼働しない5,000名収容の巨大バスケットアリーナができて、財界やゼネコンだけが喜ぶハコモノが旧時代然とした威容を見せるだけになる。そこになんとか小劇場も盛り込ませるチャンスではあるらしいのだ。かすかなチャンスかもしれないが、チャンスはゼロじゃない。と、資料は語っていた。
演劇人ばかりが集まるのだろうと思っていたら、それはほんの3割程度で、街づくりを考えるNPO、他都市の行政設置の小劇場の運営に関わっている制作者、映像の作り手などが多い。多様な人が参加した、と好意的にとらえることもできるが、私は演劇人が少ないことにショックを受けた。従来から松山の小劇団は交流が乏しくて、こんなピンチに、自ら立ち上がる人は少ないのだ。私は温めていた意見を発言した。「すぐにでも演劇人の団体を結成しよう。要望をまとめ、記者会見なども開いて“ここにいるぞ”とアピールして”運動”を起こすのがいい」と。会場の反応はなかった。司会者は閉会間際には順番に発言しないまま帰りそうな人まで発言してもらおうと、全員を指名した。「皆さんの話を聞いて、私も考えないといけないなあと思いました」。…そんな温度の低い発言がたくさん出て、私の問題提起は反論ももらえずに終わった。市会議員も来ていて、「市議会では劇団の皆さんの要求など全く聞こえていません」と報告がされた。奮い立たねばならない事態ではないか。…しかし会から怒りや焦りの声はほぼなかった。
孤独を感じて9月を過ごした。もうきっと松山の演劇は死滅するのだと思った。けれど月一回この連絡会は開かれるようになったようで、次に私が出席したのはつい先日、10月上旬。この直前に市長は唐突に記者発表をした。「跡地に5,000名規模のアリーナと100名規模の小ホールをつくるのが将来像だ」と。それ以前、7月に、三つの文化団体が合同の要望書が出されていて、一見その内容が通ったのか、と思えるようなニュースだった。実際どうなのか。なにが行政内部で動いたのか。そして我々表現者はどう動くべきなのか。
どうせあの会議の空気だから、どんな意見を言っても、なにもことは動かない。沈滞の空気を感じるためにわざわざなぜ車を1時間も飛ばしてでかけていくのか……気持ちは重かった。だけど、行政側に少し動きがあったのなら、創造者側としては、すべきことはすべきだ。動こう、と発言だけはすべきだ。黙殺されるのは予測できたけれど、シアターねこがつぶれたことへの罪悪感が私の背を押した。ドライブは長かった。


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