9月27日に行われた自民党総裁選の結果、石破茂元幹事長が新たな総裁に決まりました。目下、新政権発足に向けて自民党役員と閣僚の人事を急ピッチで進めているところですが、10月1日には首相に就任します。石破氏は自民党切っての防衛政策通として知られ、防衛庁長官(小泉純一郎首相時代)、防衛大臣(福田康夫首相時代)を務めただけでなく、自民党の重鎮として事実上、ほとんどの安全保障政策にかかわってきたといわれます。
総裁選キャンペーンでも、外交・安全保障面における発言が他の候補者以上に目立っていたように思われます。日本の首相として石破氏は、今後いかなる安全保障政策を打ち出すと考えられるでしょう?
総裁選後の記者会見で石破氏は、持論である日米地位協定見直しや「アジア版北大西洋条約機構(NATO)」の構築、さらには米国内に自衛隊基地を創る案にも言及し(『京都新聞』2024年9月28日)、日米同盟のあり方を問い質す姿勢を前面に打ち出しています。こうした石破氏の姿勢に対し、沖縄の玉城知事もある程度の期待を寄せているようです。とはいえ、石破氏は辺野古基地建設を沖縄県側に強く求めてきた張本人でもありますから、基地問題が動くということは難しいと思います。
石破氏は、日米同盟のあり方そのものに切り込もうとしているとのことですが、その「本気度」はどの程度のものなのでしょうか?
わたしが注目するのは、石破氏がこの問題を日本国内だけで議論しているのでなく、米国に対しても積極的に発信している点です。奇しくも石破氏が新総裁に決定した9月27日、米国の有力なシンクタンク「ハドソン研究所」は、ホームページに「日本の外交政策の将来」と題した石破茂氏の論文を公表しました。同研究所は、石破氏を「次期首相」と紹介した上でこの論文を掲載しましたが、関係者によれば、石破氏は総裁選出前日の26日ごろ、この論文を寄稿した由です(『朝日新聞』2024年9月29日)。おそらく総裁に選出された暁にはこれを掲載するという約束があったのでしょう。
われわれもこの論文をオンラインで読むことができます。ハドソン研究所のサイトには、英語版と日本語版の両方が掲載されています。
この論文の主要なポイントは何ですか?
今までの総理大臣が言ったことのないような、かなり大胆な提言をしています。第一に「アジア版NATOの創設が不可欠である」こと、第二に「米国の核シェアや核の持ち込みも具体的に検討せねばならないこと」(つまり非核三原則からの離脱です)、第三に、今日の日米安保条約は米国が日本の防衛義務を負い、日本が基地を提供するという「非対称双務条約」だが、日米同盟が「対等な国」同士の関係になるよう、日米安保条約を改定すべきこと、第四に日米地位協定も両国が対等になるよう改定すべきこと、そのために米国領のグアム島に自衛隊を駐留させ(在グアム自衛隊の創設)、これに日本が米軍に認めている地位協定を適用すること、さらに在日米軍基地を日米共同で管理するシステムに改めることが提言されています。
この論文の最後を石破氏は「保守政治家である石破茂は、『自分の国家は自分で守れる安全保障体制』の構築を行い、日米同盟を基軸としてインド太平洋諸国の平和と安定に積極的に貢献する」と結んでいます。
さながら石破新体制による対米関係マニフェストのようですが、米国側はこれをどう受け止めているのでしょう?好意的に見ているのでしょうか、それとも警戒しているのでしょうか?
米政府は、石破新政権と共通のビジョンに向けて「共に取り組んでいくことを楽しみにしている」と好意的なコメントを発しています。しかし米国メディアの見方は割と厳しく、たとえば『ウォールストリート・ジャーナル』などは地位協定の見直し問題が米国との関係を緊張させかねないと伝えており、「アジア版NATO」の創設に対しても懐疑的な識者は少なくないようです。
また、元米国防次官補代理のエルブリッジ・コルビー氏(もしトランプ氏が大統領に返り咲いた場合、要職への起用が取り沙汰されている人物)は、日米地位協定の見直し問題をめぐって、その場合「日本は防衛費を3%程度に引き上げる必要がある」と述べているそうです(『讀賣新聞』2024年9月29日)。石破氏が強気に出れば、米国側の対日要求もさらに強まることを覚悟しなくてはなりません。
いずれにせよ、米国の大統領ももうじき変わります。日米の新首脳がこれからどのような関係を築いていくのか非常に注目されるところです。
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